ちとリリカルなタイトルですが、これは生涯を雪の結晶生成メカニズムの解明に費やした偉大な原子物理学者、中谷宇吉郎博士(1900-1961)のことばでもあります。 では本題。なぜ、雪は天からの手紙なのでしょうか。 雪の結晶形は、必ずしもきれいな六本のつのを持つわけではなく、結晶がふたつ合わさったようなものや、柱状のものなど、そのバリエーションは多彩です。しかし、なぜ雪がそのような形になるのかは、誰も知りませんでした。 中谷博士はその謎を、地道な実験とあふれる情熱によって、気温と空気中の余剰な水蒸気との相関関係で、雪結晶の形が変化するのだと解明しました。そこから、雪は上空の気象状況をいっぱいにつめこんで、地上に送られてくる手紙……天からの手紙、と呼んだのです。この研究結果は「ナカヤ・ダイヤグラム」と呼ばれ、雪研究の大きな基礎となりました。いわば、天からの手紙を読み解くための辞書のようなものですね。 しかしこの手紙、困ったことに、消印も差出人も書かれていない、謎の手紙でもあるのです。 いまだに解読しきれない、不思議のいっぱいつまった天からの手紙。これを人間がすべて解読できるのは、いったいいつになることでしょう。それは永遠に近い先のことかもしれませんし、手の届く未来かもしれません。 中谷博士の業績をたたえ、博士の出身地である加賀には、「中谷宇吉郎 雪の科学館」が建設されています。一度行ってみたいな。 では最後にロバ耳らしく、雪の生成メカニズムをば。 雪は、雲の中の水蒸気が凍り、成長したものです。この「水蒸気が凍る」ところがポイント。 水の分子構造は水素原子(H)ひとつに酸素原子(O)ふたつがくっついたヤジロベエ形をしてますが、電気的には完全に中性なわけじゃないんですな。分子全体をみると、水素原子のほうはマイナスの電荷を帯びやすく、酸素原子のほうはプラスの電荷を帯びやすいという極性を持っています。 ともあれこの「氷晶」は、雲の中を漂い落ちていきます。その間に、六角形の角の部分へ、雲の中で水滴にならず余っている水蒸気がくっついて、さらに凍結することをくりかえしていき、じわじわと雪の結晶が成長する、というしかけですな。 だけど途中でせっかく成長した腕が折れちゃったり、他の結晶とひっついちゃったりして、なかなか左右対称の美麗な結晶には、天然ではお目にかかれそうにはありません。研究者の方々が苦労して撮影した雪の写真集を、コタツにあたりながら鑑賞するといたしましょうか。 |
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