第10回 「甘い科学」2001.02.14

 世の中、チョコレート一色でございます。お菓子業界の陰謀にはめられていると思いつつ、普段口にしないような珍しいものや、高価で手が出ないものを試せる絶好の機会でもあります(笑)

 というわけで、今回はチョコレートのお話。

 以前、掲示板のほうへ「以前使っていた製菓用チョコレートが手に入らなーい!」と嘆いていたことがありました。いや、まだ手に入ってはいないのですが。(売っているショップの目星はついたのですが……)
 ともあれこの製菓用チョコレート、普通にお菓子として販売されているものと何が違うのでしょう。

 お菓子としてのチョコレートには、口当たりをまろやかにするために、ミルクや香料などが加えられていますが、製菓用のチョコレートはまず「加工されることを前提にしている」のですね。つまり「素材」のひとつなわけです。

 製菓用チョコレートの中でも、フランス語で「クーベルチュール」とも呼ばれるものがあります。こちらは国際基準として「カカオバター分を35%以上含むもの」とされていますが、日本ではこの規格が採用されていないため、実際に含まれるカカオバター分がもっと少ないものでも、クーベルチュールと呼ぶことがあります。

 ちなみに「クーベルチュール」の意味は「覆う」ということ。溶かしてケーキの表面を覆うために使う、高級チョコレートの意味だったわけです。なめらかに覆うためには、脂肪分が多くないといけないから、カカオバターを多く含んでいないとダメなんですね。
 ちなみに現在では、コーティング専用につくられたチョコレートがあります。便利な世の中です。

 また、製菓用チョコレートとは似て非なるものに、ベーキングチョコレートというものもあります。こちらは「カカオマス」という呼び方のほうが一般的で、チョコレートというよりは、チョコレ−ト原料そのものです。なにしろ、カカオ豆をすりつぶしたものを、他になにも混ぜずに固めたものなのですから。ビターチョコとも呼ばれることがありまして、その名のとおり苦みがあります。

 このカカオマスに、ミルク、砂糖、それからカカオバターを加えてよくすり混ぜ練り上げ、冷やし固めると、おなじみチョコレートができるわけですね。
 しかしこの「すり混ぜ練り上げ温度管理」がかなり重要らしく、これによってチョコレートの口どけのなめらかさ、香り立ちが違ってきてしまうようなんですね。また、表面つやつやの美しさも、ここの工程を失敗してしまうと失われてしまうのです。

 「手作りチョコなんて、どーせ買ってきたのを溶かしてまた固めるだけだろ」なんて考えているみなさま。溶かしてまた固めるのもひと苦労らしいですよ。チョコレートを削るのもひと苦労だし、温度管理とかいろいろ必要なんですから。
 そういえば、高校の先輩は手作りチョコをつくろうとして、フライパンで直接チョコを熱してしまい、「焦がしチョコ」をつくってました。実話。

 さて、ここでJTサンから提供されたお題をひとつ。

「なぜチョコレートとガムを一緒に食べるとガムが溶けてしまうのか」

 やってみてください。ほらね、でろでろになってしまうでしょ。
 このヒミツは、チョコレートに含まれる脂肪分と、ガムの原料の性質にあります。

 ガムのベースになっているのは、植物樹脂と食品用の熱軟化性ゴム(酢酸ビニルなど)、天然ワックス(米ぬかや大豆油)などを混合したものです。(かつてはサポディラという20mほどの巨木の樹液を採集して煮込み、それを固めて作りました。)これには「水をはじき、油とくっつく」という性質があります。ガムに水をかけても溶けないけれど……ここでピンと来た方も多いでしょう。

 チョコレートには、前述のとおり、カカオバターをはじめ脂肪分が含まれていますね。この脂肪分とガムベースが混ざりあうと、ガムベースを構成する物質が脂肪とくっついて、構造がばらばらになってしまい、「溶けて」しまうわけです。

 というわけで、マヨネーズとガムを一緒に食べても、きっと溶けてしまうでしょうね。あまりやりたくはありませんが(苦笑)

 ちなみに、「服や靴底にくっついたガムは、冷やすととれる」というのはよく知られた話ですが、これは、ガムを構成する物質が、低温になると結晶構造になって固くなるからなんですね。真冬の板ガムはなかなか噛めないのもこのせい。 で、服の繊維や髪の毛、ペットの体毛にからみついてしまったガムは、マーガリンなどの油脂をもみこんで拭き取ることをくりかえしてやると、キレイにとれるそうです。油との相性もあるらしいので、(たぶん分子構造的になにかあるんでしょう)一種類で溶けなくても、何種類か試すと最終的には取れるでしょうね。

 ガムの話がからんで、ようやく「サイエンス」っぽくなりました。(最後は「伊●家の食卓」になってましたが)
 でもやっぱり身の丈以上のことをすると疲れます。「甘い科学」は苦かった。てへ。

今回の参考リンク

お菓子材料の店クオカチョコレートの規格

お菓子の辞典ホームページお菓子の辞典

発掘!あるある大辞典第179回 チョコレート

所サンの目がテン!第530回 ガム

fumill's Gum Galleryガム辞典

食の生活110番Q&Aガム×チョコレートの不思議な現象

誤謬はどんどん御指摘くださいませ。なにしろアホが書いてますので。

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