第16回 「さくらさくら」2001.03.29

 厳冬の二月、その輪郭はきっぱりと冷たい空気の中に冴えざえと立ち、身を切る冷たさの風の中を、生命なきものであるかのように梢を揺らしていた桜の樹。
 それが今はどうでしょう。やんわりと空気はけむり、日射しに一層のぬくもりを感じるようになるにつれて、みるみるうちに輪郭はぼやけ、ただ灰色にくすむかと見えていた枝には、ほんのりと紅色さえうかぶようになってきて、ついには生命そのものがほとばしり出るかのように、その可憐な花を枝いっぱいに開かせるようになりました。
 一年ごとにくり返される営みとはいえ、その光景はやはり胸をうつものがあります。それは、冬を耐えてきた人間の心に、来るべき活動の季節を告げ知らせる喜ばしい象徴だからでしょうか。

 というわけで、桜といったら桜餅です。(強引)ほのかな紅色に色付けられた生地で餡をくるみ、塩漬けにした桜葉で巻いた、まさに季節限定お菓子。

 しかし、あの桜葉が苦手、という人は結構多いのですね。
 ではしつも〜ん。

アナタは桜餅の葉っぱを食べるか食べないか

 ワタシは食べる派。ただし軸は残します。喉に引っ掛かるから。あの塩気と桜葉の香気が、甘い餡にマッチするからこそ、桜餅なのだ〜〜! と思うのですわ。はがして食べるのは、香りが薄くなるからなぁ……。
 でも、茶会なんかで出されたらどうするんだろう。私的には、軸の部分だけつまんではがしとって、丸ごと食べるのかなーなんて考えますが。
 それとも茶会には、桜餅みたいな庶民派で、しかも面倒な菓子はでないのかな? ご存じの方いらっしゃいましたらお知らせ下さい。

 ちなみに、餅米のようなもので餡をくるんだのは「道明寺(どうみょうじ)」、クレープのような生地でくるむのは「長命寺(ちょうめいじ)」と申します。関西圏は「道明寺」、関東圏は「長命寺」と相場がきまっていたそうですが、今ではどちらも好みのままに選べますね。私は「長命寺」がスキですが。歴史的には「長命寺」のほうがオリジナルで、「道明寺」は、「長命寺」の皮を変えた派生商品、ということらしいです。

 「道明寺」の由来は、その素材から。大阪にあった「道明寺」の尼僧が発明したとされる、餅米を水に浸してから蒸して、さらに乾燥させたのちに粗く砕いた「道明寺粉」を使う所からきています。もちもちぷにぷにの食感です。

 「長命寺」の由来は、東京は向島の、隅田川川岸にある長命寺から。江戸時代に、この寺の門番さんが、大量に落ちる桜の葉の処分に手を焼いて考え出したのが「長命寺桜餅」のはじまりだとか。
 なお、本家の桜餅は、葉を三枚つかって餅をすっぽりとくるみこんでいるのが特徴。もともとは二枚の葉でくるんでいたそうですが、戦後になってから、江戸期にくらべてお餅のサイズが大きくなったので、餅を乾燥させないことと、葉っぱから餅がはみだしていると、他のお餅や容器にくっついてしまうので、それを予防するために三枚にしたのだそうです。
 この桜の葉、今では隅田川の桜ではなく、伊豆産のオオシマザクラの若葉を塩漬けにしたものが多く用いられているそうです。

 本家道明寺の桜餅は、いまでもちゃぁんと手に入ります。長命寺の境内にある和菓子屋さんに行ってごらんなさいまし。ですが、桜の季節には予約でいっぱいで、店頭に並ぶ数は少ないようです。行列覚悟ですな。

今回の参考リンク

桜さくら枝垂れ桜
日本舞踊および歌舞伎中心のサイトで、名前通り桜がいっぱい。
日本の伝統芸能に関する含蓄も深いです。
中でも「吉野花壇」内のリンクは、文化の薫り高く、オススメ。

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