第22回 「 激震 」2001.09.09

 サイフをなくした。

 台風の近付く日だった。その日はMTBレースが行われ、私はチームで参加していた。天候が心配されたが、予報は雨だったにもかかわらず、レースが終わるまでたいした雨も降らず、日光がさんさんと降り注ぐほどの天気になった。

 そんな中でチーム耐久レースを4時間走り、予想外のカテゴリー別入賞など果たして、かなり気分がうわついていたのだろう。

 流した汗をさっぱり流そうと、訪れた温泉で事件は起きた。

 バッグを片手に、サイフをもう片手に持った私は、入浴料を払ったあとのカウンターにてちょっとした探し物をするため、なにげなく荷物をカウンターに置いたのだった。そして、更衣室に入って、コイン投入式のロッカーを閉めるためにサイフから小銭を取り出そうとしたら、確かに持っていたはずのサイフがないのだ。

 バッグの中身、ポケット、着替えを入れている袋、あらゆるものを裏返し、ひっくりかえして探した。しかし、カードや小銭で結構な重量になっていたサイフの重みは、どこにも感じられなかった。

 一気に鼓動が早くなった。サイフを手に持っていた最後の記憶をたどり、何度も何度も自分の移動した経路をさがした。だが、やはりサイフはなかった。カウンターにも、忘れ物や落とし物の届出はなかった。

 とりあえず、汗臭いままでいるのもイヤな感じだったし、気を落ち着けたかったこともあって、慌ただしく入浴だけはすませ、あらためて荷物の中を探した。

 が、やはりサイフは見つからない。

 おそらくカウンターに荷物を置いたあのとき、サイフを同時にカウンターに置いたのを忘れてしまい、誰かに持ち去られたのだろう。考えたくはない結末だが、自分の荷物にもまぎれておらず、届け出も出ていない以上、それが最も可能性が高い。

 そう考えると、行動はひとつだ。とにかくサイフの中に入っていたカード類をすべて思い出し、クレジットカードやキャッシュカードの利用を止めること。恥かしいなどとは言っていられないので、カウンターの受付嬢に頼み込んで電話を貸してもらい、あちこちに電話をかけまくった。

 幸いなことに、紛失に気づいたのが早かったのと、紛失した時刻が遅かったこともあり、カードを悪用された形跡はなかった。キャッシュカードについても、なんとか利用を止めることができた。

 同行したチ−ムのメンバーとmistyには大きな迷惑をかけてしまったが、なんとか「キャッシュカードあるいはクレジットカードで大金を引き出される」という最悪の事態は免れることができた。

 ふだんからかなりそそっかしい私だが、ここまでそそかっしい事をするとは、自分でも思ってもみなかった。かつてはサイフをジーンズの後ろポケットに入れるクセがついていたのだが、ちょっと大きめのサイフに替えたら、ポケットに入りにくくなってしまったので、それ以来サイフの定位置が確定していなかったというのも、私にとっては失敗の一因だったのだろう。

 そういうわけで、新たなサイフは小ぶりでポケットに入るサイズにし、さらに鎖でつないでおこうかと考えている。ちょうど高校生のとき、定期やサイフをすべて鎖でつなぎ(なくすから)、制服のスカートからじゃらじゃら言わせていたときのように。

 思い出したついでに記憶をたぐってみると、その頃は腕時計ではなく懐中時計を使っていたので、合計三本の鎖が制服を彩っていたことになる。変な高校生。

私だけか、こんな間抜け(泣)

ロバ耳の小部屋トップ | サロンにもどる | ホームにもどる