第27回 「 鬼子母神 」2001.09.14

 毎朝通勤で使う駅のホームから、ざくろの木がよく見える。というよりも、手をのばせばその実に触れられるほどの距離だ。

 今年は雨が少なかったせいか、非常に実の付きがいい。まるでつくりもののように整った形をした実が、日毎にぷっくりと膨らみを増している。

 近年、ざくろに含まれる物質が女性ホルモンに似た作用を持つため、美容にたいへんよろしいと紹介されて以来、この果物の地位が向上し、知名度も上がったたようだ。それまでは、とにかく食べにくいことからあまり市場にもでまわっていなかったのに。

 私がこの果物を初めて食べた記憶があるのは、幼稚園のころだ。当時はおいしいと思って食べたかどうかはわからないが、おもしろい果物だと思った記憶はある。ひとつの実の中に、ぎっしりつぶつぶが詰まっていて、そのつぶつぶを日に透かすと、赤い光がとてもきれいだったから。今でも、食べるのは面倒くさいけど、あの色合いをまた見たいとは思う。

 ざくろは、雨が多い年には、あまり実を付けないというのもおもしろい。もともと砂漠の植物だから、雨が降ると花粉が流れてしまって、実をつけられないのだそうだ。原色の、朱色に近いオレンジ色をしたつりがね形の花は、緑の葉っぱによく映える。そして季節がうつると、ちいさな緑色をしたつやつやの玉が実り、しだいにふくらんで、あの特徴ある形になってゆく。自然の造型というのは、やはりおもしろい。

 こうして日々を過ごしている間にも、ざくろの実は色付いてゆく。りんごや他の果樹のように、鮮やかな色合いにならないところも、またおもしろい。あの固い皮がぱっくりと割れて、赤い中身が見えたら食べごろだ。

 ざくろが、西洋では豊饒と多産のシンボルとして、また仏教では、千人もの子を持ちながら、他人の子をさらって喰っていた女精霊をいましめたブッダが、会心して仏法の守護神「鬼子母神」となった彼女に、人肉のかわりとして与えた果実として描かれるのは、その種子の多さからだろうか。

 なんにせよ、ざくろの生食は食べにくい。種なしざくろはできぬものかのう。


 ちなみに、ざくろの語源はイランのザクロス高原が原産地だからだそうです。結構安易だな。

今回の参考リンク

ロバ耳の小部屋トップ | サロンにもどる | ホームにもどる