第46回 「 桜花匂う 」2002.03.29

 2002年の桜は、記録的な早さで日本列島を駆け抜けてゆきつつあります。「卒業式に桜」だなんて、関東地方に住む私には、やっぱりぴんときませんね。

 それでも花の美しさに変わりはなく、薄紅いろの花吹雪に目を細め、胸いっぱいに風を吸い込むと、ほんのり桜の香りがします。

 今わたしたちがよく見る桜は「ソメイヨシノ(染井吉野)」という品種です。江戸末期に作られたこの品種は、現在の東京都豊島区にあった吉野村で生み出され、「吉野桜」として売り出されたのがはじまりだそうです。花びらが多く、葉が出る前に花だけが枝に密集して咲く派手さと美しさ、成長の早さなどからこの品種はあっというまに人気を高め、全国各地に広まっていきました。それどころか明治末期には、当時の東京市長がアメリカに1000本のソメイヨシノを寄贈。ワシントンのポトマック河畔で見られる桜並木もまた、ソメイヨシノだったのですね。

 そして現在、豊島区巣鴨の「都営染井霊園」には多くのソメイヨシノが植えられ、植木の村としてにぎわった往時を偲ばせます。


 みんなが気になる「桜前線情報」は、北海道の一部と沖縄を除いて、このソメイヨシノを規準としています。これは、全国のお花見スポットには大抵ソメイヨシノが植えられているから...という理由もあるでしょうけれど、ソメイヨシノが一本の親木から挿し木でふやされ、同一の遺伝子を持っている=環境に左右される以外の要因が少なく、ものさしとするのに適している、という大きな理由もあるからです。

 桜は夏に花芽を形成したら、一旦成長を止めて休眠に入ります。秋から冬の間に一定期間の寒さを経験すると休眠から目覚め(休眠打破)、その後の気温上昇につれて成長し、ついに開花にいたります。

 桜開花予報を行っている気象庁では、この開花のしくみに「温度変換日数」と「チルユニット」という指標を用いて予想を行っています。

 温度変換日数とは、標準温度(一日の平均気温が15℃)のときに花芽が一日に成長する量を1日分の規準として考える指標です。
 ある地域で、ある起算日からの温度変換日数が20日だったとするとき、一日の平均気温が5℃ならば約0.3日、25℃なら約3.3日...と、一日ごとの温度変換日数を足していきます。積算日数がめでたく20日に達したら、その日に桜が開花するでしょう、という考え方です。

 チルユニットとは、休眠打破のための温度指標で、各地のこれまでの観測によって得られた低温の効果を数値化し、秋から冬にかけての積算値で、温度変換日数を補正するものです。特に九州や四国といった暖地で、この補正が効果的だそうです。

 このふたつの指標によって、カンに頼っていた時代にくらべて予想精度は格段に上がったといいます。

 それにしても、桜は春の暖かさで休眠からさめるのだとばかり思っていましたが、実は寒さが引き金になっていたのですね。いくら春先が暖かくても、前年の秋冬も暖かいとかえって桜の開花が遅れてしまうのは、このしくみによるところなのだそうです。


 さて、「桜餅の匂い」はよくわかっても、桜の花の匂いとなると、なかなかぴんと来ませんね。よく気をつけてかげば、ソメイヨシノもほのかに香っていますが、梅などのように遠くからでもすぐわかるものではありません。

 しかし桜の中には「匂い桜」と呼ばれ、特に花の香りが強いことで知られる品種もあるそうです。その中でも代表的といわれるのが「スルガダイニオイ(駿河台匂)」で、江戸の頃、現在の東京都千代田区駿河台の一角にあった庭園に咲いていたことから名付けられたそうです。野生種・350種はあるという桜の中でも、一度は見てみたい桜のひとつです。

 香水に興味のある方ならご存じでしょうが、桜の香りの香水というのもあります。通年販売されているものも、期間限定のプレミア付きで販売されているものもあり、なかなかの人気のようです。実際にかいだことはありませんが、ほんものの桜の香りには、どれほど近付いているものなのでしょうね。

 こんなことを、先日レピシエからもらった「桜紅茶(紅茶に桜葉がブレンドされている)」をすすりながら考えてみました。んー、桜餅の葉っぱのにおいだなぁ。...あっ! 今年は開花がものすっごく早かったから、桜餅食べてないっ! うわーん、一幸庵の桜餅食べたいよう。

 今回の参考リンク

花樹の会〜ソメイヨシノ桜物語
ソメイヨシノのなりたちを詳しく解説。

財団法人日本花の会桜図鑑
約60種類の桜を、写真と解説つきで見られます。

ロバ耳の小部屋トップ | サロンにもどる | ホームにもどる