映画「ライムライト」中で、チャップリンはこういっている。
「人生に必要なのは、勇気と想像力と・・・ほんのちょっぴりのお金である。」と。そこには、
勇気と想像力があってもお金がなければ生きていけないせつなさと、勇気と想像力があれば
ちょっぴりのお金があれば生きていけるという希望がある。でも、この時の私には、
人生に必要なものが、もうひとつあった。それは・・・。
「どうやら雨があがったようだね。ほら、月がとてもきれいだよ。」マスターは私に言った。
私は、窓際まで歩いていき、月を眺めた。それは、きれいな満月だった。そう言えば、ギムレットを
連れてきた時も帰りは、綺麗な満月だったのを思い出す。私は、自分の指定席に戻り横で寝ている天使を
見やり、「でも、こっちの月はもっときれいですから。」とマスターに照れながら言った。
「オーナーすいません。最後に一杯飲みたいカクテルがあるのですが、いいですか?」
「どうぞ!」マスターは言った。
「では、ドリームをお願いします。夢心地の気分なもので。」
ドリームとは、アニシードを蒸留して得たエキスに数種類の薬草を浸して作った黄緑色のブランデーベースの
カクテルである。
「かしこまりました。」オーナーはシェーカーにブランデーとオレンジキュラソーとリキュールを入れ
シェイキングをした。それは、とても優雅に。
「どうぞ!お召しあがりを!」マスターは、最高の芸術品を私の前に置いた。
「ありがとうございます。ねぇーマーシー!・・金曜日もいいもんですね。本当に!」
私は、マスターと横で寝ている天使をみながら言った。
私はいつもそうだった。自分の固定観念にしばられ、駄目なことがあるとすべて他のせいにしていた。
例えば、占いとか・・。
でも、今日、始めてわかった気がする。金曜日が悪いわけではない。そう思っていた自分が悪いんだということを。
そして、自分を変える勇気がなければ、何も始まらないし、何も変わらないということを・・・。
それから、しばらくの間オーナーと話をしていた。すると、彼女が目を覚ました。
「す、すいません。寝てしまって・・・。」彼女は、眠い目をこすりながら言った。
「どう大丈夫?」
「多分ね!」
「そろそろ帰る?」私は彼女に言った。
「うん?」彼女は短く答えた。そして、僕らは、マスターにお礼をいい、店を出るため席を立とうとした。
「ちょっと待って。やっぱり酔っていて歩けないよー。」甘えた声で、彼女は、私に訴えかけてきた。
「じゃー。はい!」私は、しゃがみこみ、そして、彼女を背中に乗せた。
僕たちは、もう一度マスターにお礼をいい、ドアを開け、そして外へ出た。その時、私は気づかなかった、
彼女が、ドアを閉める直前にマスターにウィンクをしているのを・・・。
この店の名前は、「The Long-good bye」直訳すれば、「長いお別れ」それは、「過去への決別」、
逆説的に解釈すれば、「新しい旅立ち」を意味しているのかもしれない。
店の中は、マスターとギムレット1人と1匹になった。
「なぁー!ギムレット あの二人これからどうなると思う?」マスターは、ギムレットに話しかけた。
ギムレットは、体を丸め、尻尾を振った。
「そうかい!私もそう思っていたよ。もう、この店に一人で来ることはないだろうってね。」
「なぁーギムレット!・・・・・・・・・あれ?ギムレットどこ行った?あれ??」
店の中で、そんな会話が繰りひろげられている頃、僕らは・・・。
彼女は、私の背中の上から星空を眺めていた。この雨上りの星空を・・・。
「わぁー!星がきれい。都会でもこんなに星が見えるなんて気づかなかったわ。」
「そうだよ!今まで、下ばかり見ていたからだよ。でも、これからは、毎日見ることができるよ。」
私は言った。
「うん。」
「でも、なんか、ほんと気持ちいいね。空気が澄んでいる気がするよ。」
「今まで気づかなかったけど雨上がりの夜空って本当に綺麗よね。なんかすべてのことを
洗い流してくれたような気がして。お月様もしっかり見えるしね。」彼女は私の耳もとでささやいだ。
「本当、月も輝いてとっても綺麗だね。しかも、今日は、満月だしね。」
私は、言い返した。
それからしばらく歩きながら考えていた。そして、私は意を決して言った。
「ねぇ。ひとつだけいわなければいけないことがあったんだ。」
「何?」彼女は背中越しに私を見やった。
「私、青山太陽は、古内朋子が好きです。・・・俺と付き合ってください。」
私は、背中越しに彼女の鼓動が私の体中をかけまわっていくのを感じた。そして、彼女は照れた表情で
「ねぇー!このままずっとずっと歩いていくと夜明けになるでしょう。そうしたら月が沈んで
太陽が 昇ってくるよね。でも、その前の一時、月と太陽が一緒に見られる時間あるよね。
今日はぜったいに一緒に見よう!二つが並ぶ瞬間を。」
といい後ろから強く私を抱きしめ言った。そして、私は黙ってうなずいた。
私たちはまだ、何も始まっていない。それは、白いキャンパスと一緒だ。これからどんな絵が
描かれるのだろうかそれは誰もわからない。でも・・・・。
でも、もし何かあった時は、この時のことを思い出せばいい。この雨上りの夜空を!