日朝首脳会談・平壌宣言─戦後処理、拉致事件
2002.9.17. /  2004.5.


日朝平壌宣言 2002.9.17.

 小泉純一郎日本国総理大臣と金正日朝鮮民主主義人民共和国国防委員長は、二○○二年九月十七日、平壌で出会い会談を行った。
 両首脳は、日朝間の不幸な過去を清算し、懸案事項を解決し、実りある政治、経済、文化的関係を樹立することが、双方の基本利益に合致するとともに、地域の平和と安定に大きく寄与するものとなるとの共通の認識を確認した。

 1 双方は、この宣言に示された精神および基本原則に従い、国交正常化を早期に実現させるため、あらゆる努力を傾注することとし、そのために二○○二年十月中に日朝国交正常化交渉を再開することとした。
 双方は、相互の信頼関係に基づき、国交正常化の実現に至る過程においても、日朝間に存在する諸問題に誠意をもって取り組む強い決意を表明した。

 2 日本側は、過去の植民地支配によって、朝鮮の人々に多大の損害と苦痛を与えたという歴史の事実を謙虚に受け止め、痛切な反省と心からのおわびの気持ちを表明した。

 双方は、日本側が朝鮮民主主義人民共和国側に対して、国交正常化の後、双方が適切と考える期間にわたり、無償資金協力、低金利の長期借款供与および国際機関を通じた人道主義的支援等の経済協力を実施し、また、民間経済活動を支援する見地から国際協力銀行等による融資、信用供与等が実施されることが、この宣言の精神に合致するとの基本認識の下、国交正常化交渉において、経済協力の具体的な規模と内容を誠実に協議することとした。

 双方は、国交正常化を実現するにあたっては、一九四五年八月十五日以前に生じた事由に基づく両国およびその国民のすべての財産および請求権を相互に放棄するとの基本原則に従い、国交正常化交渉においてこれを具体的に協議することとした。

 双方は、在日朝鮮人の地位に関する問題および文化財の問題については、国交正常化交渉において誠実に協議することとした。

 3 双方は、国際法を順守し、互いの安全を脅かす行動をとらないことを確認した。また、日本国民の生命と安全にかかわる懸案問題については、朝鮮民主主義人民共和国側は、日朝が不正常な関係にある中で生じたこのような遺憾な問題が今後再び生じることがないよう適切な措置をとることを確認した。

 4 双方は、北東アジア地域の平和と安定を維持、強化するため、互いに協力していくことを確認した。
 双方は、この地域の関係各国の間に、相互の信頼に基づく協力関係が構築されることの重要性を確認するとともに、この地域の関係国間の関係が正常化されるにつれ、地域の信頼醸成を図るための枠組みを整備していくことが重要であるとの認識を一にした。

 双方は、朝鮮半島の核問題の包括的な解決のため、関連するすべての国際的合意を順守することを確認した。また、双方は、核問題およびミサイル問題を含む安全保障上の諸問題に関し、関係諸国間の対話を促進し、問題解決を図ることの必要性を確認した。

 朝鮮民主主義人民共和国側は、この宣言の精神に従い、ミサイル発射のモラトリアムを二○○三年以降もさらに延長していく意向を表明した。

 双方は、安全保障にかかわる問題について協議を行っていくこととした。
 

 日本国総理大臣 小泉純一郎
 朝鮮民主主義人民共和国国防委員会委員長 金正日

 二○○二年九月十七日 平壌


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○毎日新聞より部分

平壌17日
 首脳会談は午前と午後の計2時間半行われた。安否情報は、この日の会談前の事務レベル準備会合で北朝鮮の馬哲洙(マチョルス)アジア局長から伝えられた。死亡の8人は「病死、災害死」と説明があった。「8件11人」のうち生存の4人は、日本政府関係者が本人と会って確認。4人は「親に会いたい」など帰国希望を語った。平壌市内に住む横田めぐみさんの娘(16)とも関係者が面会した。

 日本側は今後、死亡時期や個別の死因特定など詳細の説明を求める。正常化に向け、拉致事件の全容解明と補償問題が新たな焦点となる。

 首相は、午前の会談で「大きなショックであり強く抗議する。家族の気持ちを思うといたたまれない。再びこのようなことが起きることがないよう適切な措置を求める」と強調した。金総書記は午後の会談で「70、80年代初めに特殊機関の一部が妄動主義、英雄主義に走った。特殊機関の日本語学習や他人の身分を利用し南朝鮮(韓国)に入るためだ」と説明。「これからは絶対にない。責任ある人々は処罰した。遺憾なことで率直におわびしたい」と再発防止を約束した。ただし、宣言に「拉致」の表現は書き込まれなかった。
 

○東京新聞より
金総書記、拉致認め謝罪
国交交渉来月再開で合意
日朝が共同宣言

【平壌17日】
 小泉純一郎首相は十七日、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)を訪問し、平壌市内の百花園迎賓館で金正日総書記と会談した。焦点の日本人拉致事件について、北朝鮮側は八件十一人の拉致被害者を含む行方不明者十三人の安否情報を提供、四人の生存と八人の死亡、不明一人を確認した。
 金総書記は「忌まわしい出来事だ。率直におわびする」と、北朝鮮の責任を認めて謝罪。生存者は、本人の意思に沿って家族との再会や一時帰国が認められる見通しだ。これを受け、両首脳は国交正常化交渉の十月再開を確認する共同宣言(日朝平壌宣言)に署名した。

 首相は拉致事件について「日本国民の利益と安全について責任を持つ者として、大きなショックだ。強く抗議する」と反発。これに対し、金総書記は事件の再発防止を確約するとともに、既に責任者の処罰を行ったと説明した。

 金総書記は不審船問題についても「軍の特殊部隊が自発的に訓練として行っていた」と北朝鮮側の責任を認め、再発防止を約束した。ミサイル問題について金総書記は、二〇〇三年までと区切っていた発射実験の凍結を、期限を明示せずに延期すると表明。

 核開発問題については「すべての国際的合意を順守する」と述べ、米朝間での合意に基づき、国際原子力機関(IAEA)による査察受け入れの意向を表明した。

 過去の謝罪と補償について、首相は「日本は植民地支配によって朝鮮の人々に多大な損害、苦痛を与えたことを謙虚に受け止め、痛切な反省と心からのおわびの気持ちを表明する」と謝罪。ただ、補償には応じず、経済協力方式で北朝鮮を支援したい考えを表明した。

 金総書記は首相の発言を基本的に了承、正常化交渉の過程で、具体的な経済支援方法を協議することになった。
 

日朝平壌宣言の骨子

 一、二〇〇二年十月中に国交正常化交渉を再開

 一、日本側は過去の植民地支配に痛切な反省と心からのおわびの気持ちを表明。正常化交渉で経済協力の具体的な規模と内容を誠実に協議。一九四五年八月十五日以前に生じた事由に基づくすべての財産と請求権を相互に放棄

 一、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)側は、日本国民の生命と安全にかかわる懸案問題が再び生じないよう適切に措置

 一、朝鮮半島の核問題の包括的な解決のため、関連するすべての国際的合意の順守を確認。北朝鮮はミサイル発射のモラトリアム(停止)を〇三年以降も延長する意向を表明

 一、日朝間で安全保障問題について協議

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○NHKより
北朝鮮報道 日本の謝罪を強調

朝鮮中央放送は19日と20日の 2日間、日朝首脳会談に対する国 内反応を伝えた中で、小泉総理大 臣が過去の植民地支配を謝罪した 点を強調しています。朝鮮民主主 義人民共和国の報道機関は、拉致 事件には一切触れていません。
NHK
09/20 20:09
 
 

朝鮮新報より
行方不明者の消息確認、不正常な関係下で発生、遺憾
今後、発生を防止と外務省代弁人

 朝鮮外務省代弁人は次のような談話を発表した。

 朝鮮赤十字会では、日本赤十字社が依頼していた名簿にある日本人行方不明者の消息が確認できたことを日本側に通知した。
 われわれはこれに対して慎重に対している。

 過去、朝・日間の不正常な関係の中でこのような問題が発生したことは遺憾である。

 われわれは今後、こうした問題が発生することを防止するだろう。

 われわれは今回確認された生存者の家族、親せき、そして必要ならば日本政府関係者が面会できるよう便宜を保障し、本人たちが希望する場合、日本への帰国、または故郷訪問が実現できるよう必要な措置を取る用意がある。

 「よど」号問題と関連して共和国政府は、その関係者らが帰国の意思を明らかにしたことに留意する。

 われわれは、彼らが自ら望んでいる帰国の意思を尊重し、この問題が可能な限り人道主義的な見地から解決されるとの期待を表明する。(朝鮮通信)
 

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○外務省公表
拉致被害者リスト全文

 外務省が二十日公表した朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)から提示された日本人拉致事件の被害者死亡年月日を含むリスト全文(外務省訳)は次の通り。

 日本赤十字社御中

 朝鮮赤十字会は朝日赤十字会談において日本側から依頼された行方不明者についての安否調査を行った結果、集計された状況を次のとおり通知する。
 調査は、中央および地方の各レベルの赤十字支部が人民保安省、人民委員会の当該部署と緊密に連携しつつ、全国的な範囲で実施され、新聞、放送を利用した幅広い調査を通じ、より一層深く行われた。
 調査の結果、日本側が依頼した名簿にある行方不明者のうち、2002年8月19日に通知した6名以外の12名の身元が確認された。
 その他1名はわが領域内に入ったことがないものと確認され名簿にない1名の身元がさらに確認された。
 新たに確認された生存者の身元は次の通り。

 (1)蓮池薫(男)
 生年月日 1957年9月29日

 (2)奥土祐木子(女)
 生年月日 56年4月15日

 (3)地村保志(男)
 生年月日 55年6月4日

 (4)浜本富貴恵(女)
 生年月日 55年6月8日

 新たに確認された死亡者の身元は次の通り。

 (1)横田めぐみ(女)
 生年月日 64年10月5日
 死亡   93年3月13日

 ※彼女の娘が、現在平壌に住んでいることが確認された。

 (2)有本恵子(女)
 生年月日 60年1月12日
 死亡   88年11月4日

 (3)石岡亨(男)
 生年月日 57年6月29日
 死亡   88年11月4日

 (4)松木薫(男)
 生年月日 53年6月13日
 死亡   96年8月23日

 (5)原敕晁(男)
 生年月日 36年8月2日
 死亡   86年7月19日

 (6)市川修一(男)
 生年月日 54年10月27日
 死亡   79年9月4日

 (7)増元るみ子(女)
 生年月日 53年11月1日
 死亡   81年8月17日

 (8)田口八重子(女)
 生年月日 55年8月10日
 死亡   86年7月30日

 わが領域内に入ったことがない対象
 久米裕(男)
 生年月日 25年2月17日

 名簿にない対象としての生存者
 ソガ ヒトミ(女)
 生年月日 59年5月17日

 朝鮮赤十字会は、生存者の家族、親せきが彼らとの面会を希望する場合、便宜を保証する用意がある。
また、本人が希望する場合には日本への帰国または故郷訪問が実現するよう便宜を保証する用意がある。

 朝鮮民主主義人民共和国赤十字会中央委員会

 2002年9月17日
 平壌

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報道から
これで翻訳6時間も?
北朝鮮リスト

北朝鮮側が日朝首脳会談にあたり提出した拉致被害者の死亡年月日リスト
 外務省は二十日夜、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)側が日朝首脳会談の際に日本側に渡した死亡日入り拉致被害者リストの原文と日本語訳(A4判二枚)を公表した。
 リストは「朝鮮赤十字会中央委員会」名で作成され「日本赤十字社」あて。
 さらに死亡年月日は北朝鮮国内で一般的に使われる「チュチェ年」ではなく、西暦、洋数字で記されていることから、対外的な文書だった可能性が強く「非公式」文書とする外務省の説明に対し疑問の声が上がりそうだ。
 また日本側に手交後、小泉純一郎首相が見るまで約六時間かかったとされているが、リストはそれほど翻訳に時間がかかる分量ではなく、死亡年月日という重要情報を扱った外務当局の対応が問題視されそうだ。

 リストは、日本赤十字社が依頼していた調査への回答として「中央、地方各レベルの赤十字支部が人民保安省、人民委員会の当該部署と緊密に連携しつつ、全国的な範囲で実施」と調査経緯を付記。
 その上で日本側が調査依頼していた拉致被害者十二人(死亡八人、生存四人)の確認に加え、久米裕さんの入国が確認できなかったこと、依頼名簿になかった「ソガ・ヒトミ」さんの生存を記した。
 

2003. 4月19日
北朝鮮「日本、約束を破った」と国連人権委に回答書

 北朝鮮が、拉致問題について審査中の国連人権委員会(本部・ジュネーブ)に送った回答書の中で、「日本側は、共和国(北朝鮮)の情報を信じようとせず、一方的に約束を破った」と、これまでと同じ主張をしていたことが19日、分かった。

 回答書は今月初め、人権委に送付された。それによると、「拉致問題は日朝間ですべて解決済み」と従来の見解を繰り返し、被害者家族や日本政府側が、死亡とされた8人の状況に矛盾が多いと指摘している点については、「数十年前に起こった事件の調査は困難だ」「死亡したことを感情的に誇張し、敵意をあおっている」などと主張している。

 また、帰国した拉致被害者5人を戻さなかったことに対して、「日本政府は、5人を2週間で帰すという約束を破り、協力の雰囲気を台無しにし、状況を複雑化させた」と、問題の長期化は日本側に責任があるとの見方を強調した。

 こうした北朝鮮の主張に対し、「救う会」の西岡力副会長は「まったく代わり映えのしない一方的な言い分だ」と話した。

 人権委は16日、拉致問題を含む北朝鮮の人権状況を非難する決議を採択。22日には、ジュネーブで開かれる同委員会の作業部会で、横田早紀江さん(67)ら被害者家族が意見陳述する。(読売新聞)


 

朝日首脳会談>朝日修交「交渉再開」へ(韓国・中央日報)2004.05.

日本の小泉純一郎首相と北朝鮮の金正日(キム・ジョンイル)国防委員長が22日、平壌(ピョンヤン)で会談し、両国間の国交正常化交渉の再開を決めた。

両国首脳はこの日、国際法の順守などで合意した2002年9月の「北朝鮮・日本平壌共同宣言」が、両国関係の基礎であることを再確認した。

小泉首相は会談後、北朝鮮にある日本人拉致被害者の家族8人のうち、5人を連れて帰国した。しかし、北朝鮮に亡命した元米軍兵士ジェンキンスさんを含む残り3人は、ジェンキンスさんが米政府の処罰要求を憂慮し、一旦帰国をあきらめ、近く中国・北京で日本の家族らと会って今後のことについて決めるとした。

また小泉首相は、国際機構を通じ、北朝鮮に食糧25万トン、医薬品1000万ドル(約11億2400万円)を支援し、北朝鮮が平壌宣言を守る限り、経済制裁を行わないことを約束した。 (中央日報/東京・特派員)

 

北朝鮮めぐり「救う会」会長と和田春樹氏が論戦
 04/18 20:30 朝日新聞

 北朝鮮をめぐり論争した和田春樹・東大名誉教授(左)と佐藤勝巳・現代コリア研究所所長=18日午後、東京都新宿区で 拉致被害者支援団体「救う会」会長で現代コリア研究所所長の佐藤勝巳氏(75)と、東大名誉教授で「日朝国交促進国民協会」事務局長の和田春樹氏(66)が18日、東京都内で「北朝鮮とどう向きあうか」と題する講演会で討論した。両氏は北朝鮮や拉致問題への対応をめぐり、雑誌論文などで激しく対立している。
 講演会は、03年7月に拉致被害者家族を招き集会を開いた在日コリアンや日本人らが主催し、月1回程度開いている「『北朝鮮へのまなざし』を考える連続講座」の一環。約150人が参加した。
 和田氏が「北朝鮮の現政権に問題があっても、交渉を通じ変化を促すべきだ」と述べると、佐藤氏は「現政権は軍事独裁のテロ政権。話し合いの対象にはならない」と反論した。佐藤氏が「経済制裁によって圧力をかけたうえで対話すれば、拉致問題の解決は難しくない」と主張すると、和田氏は「行き詰まりを打開するために最後通牒(つうちょう)的な要求を出すべきではない」と批判した。
 70年代、和田氏は韓国民主化支援、佐藤氏は在日朝鮮人の権利擁護運動を手がけ、ともに朝鮮半島研究誌の編集などにかかわったが、80年代以降は北朝鮮に対する認識をめぐり立場が分かれていた。拉致問題では和田氏が01年、「横田めぐみさんが拉致されたと断定する根拠は存在しない」とする論文を発表。佐藤氏は「拉致疑惑をないものにせんがための意図的なキャンペーン」と批判し、対立していた。
 
 
 
【ひとこと】
「拉致」などについてことさらに「そんなことをするハズがない」「証拠もない、慎重に」「デマだ。謀略だ。悪らつな宣伝だ。のってはいけない」といいつのった。この手の、それこそ検証も疑いもなく、あらかじめ相手を守る立場から陣をはって発言してきた知識人、政治家、政党…。がつんと来て、現実的平衡感覚、責任意識を取り戻せるなら救いもある。

北朝鮮(政府)は政治という本質をむきだしにした。権力を守るため、利用した人たちを捨て、日本などの「良心派、支持・応援・理解・同調者」を見捨てても、政治権力らしい選択をしたことは確かだ。

政治的人間は、周りの人間につねに政治的死をもたらして生き延びる。同伴者や周りは、政治的態度の軸にただ振り回され、権力に巻き込まれ、ほんとうの死に追いやられてしまう。

同調者の中には、早くも「北」の現実的対応をほめだし、その長を改革のリーダーだと言い出すひともいる。もともと代替わりのときから改革者を目指していたのだと。どこまでも追随、片思い、自己保身、…非転向の転向。
──拉致事件は、本性をあぶりだすプリズムとして働いている。