かなり 実録 バレー部物語

・崩壊と結束

国体本番まで既に3ヶ月を切った。「こんなんじゃ勝てるわけねーよ!」「優勝?とんでもない」正直、諦めに近い愚痴をこぼす選手も現れた。中にはスタッフに食ってかかる選手も・・・信頼関係はもはや崩れ去る寸前の所まできていた。
温厚なコーチの紺野が突然のワンマン実施、ほとんどノーアップの状態からいきなり動き回されたこともあった。その鬼のような形相が今のチーム状態を語っている。とにかく何かを吹っ切らなければ、とにかく変わらなくては・・・

ただ忘れていなかったのは“何とかしよう”という気持ちだった。逃げられない状態で今の状況を正確に判断、分析し、何をしなければいけないのかをミーティングを通して議論し合った。
体育館の壁には活動方針と教訓が大きく張り紙されている。それを何度も読み返した。あやふやだった“何か”がしっかり頭に刻み込まれる・・・目標が決まれば行動するしかない、開き直って今砌の今を精一杯に練習あるのみ!

真夏の厳しい暑さを乗り越えて一回り逞しくなるはずだったが、いきなり冷夏。しかしこれが不幸中の幸いとなったか、選手にキレが戻りつつあった。8月前半に静岡選抜と練習試合を行ったが、相手はあまりの涼しさにびっくりしていた。「半袖じゃ寒いよ」

8月11日〜15日、夏休みを利用して志津川で合宿を行う。ところがそこでの練習試合で佐々木が接触し鼻骨を骨折してしまった。東北総体は2週間後、無理すれば出場できるが・・・大事を取って江口がHCのポジションに入る。「それにしても致命的じゃなくて良かった」。この時期の怪我は大きな戦力ダウンになりかねない。

◇  ◇  ◇

8月24日〜26日の東北総体は福島県喜多方市で開催され、'95年の福島国体予選と同じように6県参加でまず東北選手権を行い、その後国体開催地を除いた5県で国体予選を行う(全てトーナメント)という日程。今回は選手権(25日)のみの出場となった。
代役HC・江口がソツなくこなし、準決勝で岩手(北上)、決勝で山形(JTクラブ山形)を破り見事に4連覇を飾る。戦力ダウンはほとんど感じさせない。ここが東北リコーの強み・・・今回の一件で結束は堅くなったか。
試合後、東山温泉郷で後援会員と激励会を行う。目指すはもちろん国体優勝、全員一丸となって挑むことを再確認する。

((( Idle Talk )))
翌日、東北代表を決める国体予選が行われ、岩手(北上)が悲願の出場権を得た。
「東北リコーとの試合は死んだふりだったのか?」と思わせるような素晴らしいデキだったようだ。そう言えば、東北リコーが初めて国体に出場したときも選手権で大敗していた。志津川の体育館で初めて練習試合をしたのも北上とだったし、今回にかける意気込みは並々ならぬものだったに違いない。山形、福島、宮城と強化チームの壁に跳ね返され続けてきたが、ついに長年の努力が報われた。

◇  ◇  ◇

8月26日、各地でブロック予選が行われ、この日で宮城国体出場チームが全て決定した。
北海道ブロック(帯広市役所)、東北ブロック・岩手県(北上)、関東ブロック・東京都(JT東京)、北信越ブロック・富山県(北陸電力)、東海ブロック・三重県(松下電工津)、近畿ブロック・兵庫県(富士通)、中国ブロック・岡山県(岡山選抜)、四国ブロック・香川県(香川クラブ)、九州ブロック・沖縄県(中部徳洲会病院)、開催地・宮城県(東北リコー)

  宮城国体まで、あと48日−


・苦渋の選択

9月に入って今野が突然の腰痛でリタイア、ここにきてまたもや大きなアクシデントだ。
国体には間に合うだろう。しかし再発の恐れもある。完治に期待してこのままで行くか、思い切ってメンバーを替えてフォーメーションを変更するか・・・昨年からほぼ不動のメンバーで戦ってきただけに、いまさら変更などしたくない。しかし、それでは当面代役センターで練習をしなくてはいけない。時間は刻一刻と過ぎていく。

「天は何と試練を与えることか・・・」大沢は悩みに悩んだ。部員を不安にさせてはいけない。長く考える時間はない。
各方面からいろいろアドバイスも賜った。だが、最終的には全て監督が決めること。悩んで悩んで悩んで悩み抜いて・・・出した結論とは・・・

「センター佐々木、ハーフセン江口!」

江口は幸いにも先の東北総体で実戦済み、以前ライトもこなしたことがあり、なんとかなるだろう。佐々木もセッター工藤とは高校時代にコンビを組んだ仲、合わせるのにそれほど時間はかからないはずだ。・・・いざという時は元に戻せばいい。いきなり戻ってもやれるくらいの技術の蓄積はある。
守りには半澤が入った。サーブカットには定評があり、攻撃バリエーションは減るが逆に守りは今以上に安定する。

心配なのはこのフォーメーションがぶっつけ本番に近いということ。国体まで大きな大会が無く、真剣勝負ができないまま本番を迎えてしまう。
「この危機感が一層の団結力を生めばいいが・・・」

  宮城国体まで、あと33日−


・新フォーメーションの手応え

やはり国体前に強いチームと練習試合をしておきたい。9月中旬、国体にも出場する中部徳洲会病院との練習試合(東北リコー体育館)が実現した。まだ組み合わせも決まっておらず、ヘタをすれば初戦での激突もあり得るが、そんなことを言っている場合ではない。東北リコーの苦手な粘りが身上の相手、新しいフォーメーションを試すにはもってこいだ。
静岡プレ国体で負けた相手にセット数だけを見れば東北リコーが上回った。クラブカップ覇者に対し「十分やれる」という自信が芽生えた。

9月17日、国体の決勝から1ヶ月前になり、ついに組み合わせが決定した。東北リコーの初戦は準々決勝で香川県(香川クラブ)に決定。しかしどこと当たっても気は緩められない。
最終リハーサル
成功を願って・・・決勝戦のスタイルでリハーサル。=志津川ベイサイドアリーナ
9月23日、志津川ベイサイドアリーナで国体最終リハーサルが行われた。全体応援も最初で最後のリハーサル、熱は入るがメンバー全員が揃っているわけではなく、一体感としてはまだまだの感がある。

ゲームは北上と2試合、特設コートで行われた。合宿中のゲームであり疲れはあったが、フォーメーションはしっかり機能している。
しかしその後も捻挫や怪我が絶えず、以前からの故障持ち選手もいる。チームは満身創痍に近い状態、今は勝利への執念と精神力で持っているようなものだ。

((( Idle Talk )))
応援といっても、どうやったらいいのか分からない−。各チームに割り当てられている地域応援団の要望で、東北リコーが応援の講習を行うことになった。
まずは東北リコーの応援の仕方を説明。しかしこれは敵に応援方法をバラしてしまうことになる。「チーム情報が漏れるわけでもないし、選手に不利益にはならないだろう」。それよりも国体の成功は応援にかかっている。盛り上げるため、選手に最高のプレーをしてもらうため、例え宮城県以外のチームであっても別け隔てなく声援があって欲しい。
そしてリハーサルゲームで実際に応援してもらった。「後は各チームに応援スタイルがあると思いますので、そちらに合わせて下さい」。それでも大したことはできないと思っていたが・・・本番での応援風景に驚かされることになる。

◇  ◇  ◇

9月27日、体育館で応援団幹部による決勝戦を見据えた演習を行う。応援団長として任せられた斎藤を筆頭に合わせようとするが、思ったほどうまくいかない。だが意見を交わし合い、納得とまではいかないが、どうにか形にはなった。ここまでの成果を基に当日の応援マニュアルをまとめ上げ、気持ちも盛り上がってきた。

9月30日、総合県予選が行われた。国体前の公式戦はこれが最後、圧倒的攻撃力で優勝する。岩渕が5連続サービスエースを決めるなど課題のファーストも決定力が増し、サーブで崩し、ブロックで封じ、チャンスボールを確実に決める理想的な展開で決勝のささにしきクラブ戦も一蹴した。

10月6日、日立米沢電子と練習試合。国体に出場できない男子部員、OB、OGが中心となって修正を重ね、この日が最終応援リハーサル、気合いの入った声援を送る。「とにかく、一体感を如何に出すかを中心にやってきた。あとは試合で修正していくしかない。大丈夫、なんとかなるでしょう」。応援団長の斎藤は真剣そのものだ。選手は至ってリラックス、緊張感は見られない。 準備は整った。

  宮城国体まで、あと7日−

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そして様々な人々の願いを乗せ、その時はやってきた!