Instrumental Music


BGM is 2nd movement from "Christmas Concert" by A. Corelli.




*CD番号は私が買ったときのものです。購入される場合は必ずご自分でチェックしてください。


■フライ:クリスマス交響曲「サンタクロース」 他

(NAXOS 8.559057)

 ウィリアム・ヘンリー・フライは1813年アメリカのフィラデルフィアで生まれ,1864年ヴァージン諸島のサンタ・クルスで没した作曲家である。1813年生まれというと,ドイツ初期ロマン派のメンデルスゾーンやシューマンのわずかに後輩で,ワーグナーとは同年生まれである。有名なフォスター(1826年生まれ)を別にすれば,こんな早い時代のアメリカにまともな作曲家がいたの?と思う人も多かろう。私もそう思っていたが,これはフライにとって大変失礼な話らしい。フライは,アメリカで最初の交響曲作家,グランド・オペラ作家,音楽評論家ということなのだ。クリスマス交響曲「サンタクロース」は単一楽章の約25分の交響曲。一聴してこれは完全にロマン派の音楽である。オーケストレーション,とくに金管の重厚な扱いはワーグナーを思わせるし,一方でドヴォルザークの交響曲のような民謡風のメロディーも出てくる。この曲は新しく発明されたサキソフォンを初めて交響曲で使ったという点でも画期的で,サキソフォンの美しいソロもある。クリスマス・イヴのパーティを描写した華やかな音楽,サンタクロースの到着を知らせる楽しい鈴の音に加えて,終わりの場面では天使の合唱が力強い合奏で現される。その曲は誰もが知っているキャロル「神の子は今宵しも」。とにかく,最初から最後まで文句なく楽しめる掘り出し物的作品。このCDが世界初録音ということであるが,さすがは目のつけどころが鋭いNAXOS。少しひねりのきいたクリスマス物CDをお探しの方にお薦めしよう。
 他に3曲が収録されていて(これもすべて世界初録音),その中には,11台のティンパニによる滝の音の表現に驚かされる「ナイアガラ交響曲」のような曲もあるが,木管が美しい旋律を奏でる「ザ・ブレイキング・ハート」が気に入った。



■ベートーヴェン:交響曲第9番 ニ短調 作品125「合唱」

(PHILIPS 420 542-2

 大ヒット映画「天使にラブ・ソングを2」のクライマックス,合唱コンクールの場面で,今やスターシンガーとなったローリン・ヒルの演じた高校生リタが感動的に歌い出す"Joyful, joyful"の冒頭のメロディーは,ベートーヴェンの第九交響曲の「歓喜の歌」である。日本では,ご存知のように昔から年末に第九を演奏するという慣習が定着しているが,以前の私はこの慣習に反発していた。こういう慣習がある国は日本だけらしいし,だいいちこの曲はクリスマスや年末を想定して書かれた曲ではない。それに天才ベートーヴェン一世一代の大傑作,音楽史上最高の交響曲を年末にしか演奏しないなんてベートーヴェンに対して失礼である! でも今の私は,1年に1回でもこの時期に第九を聴く方が,1回も聴かないよりはずっといいと思っている。シラーの頌歌「歓喜に寄す」ほど,過ぎし1年を振り返り,また新しい年の平和と幸福を祈るのにふさわしい詩はないだろう。この詩がこれほど輝いて見えるのも,もちろんベートーヴェンの音楽あってのことだが,彼は「歓喜の歌」の主題を西洋音楽の原点ともいえる中世のグレゴリア聖歌「聖木曜日のアンティフォーナ」からとった。人間としての自分に絶対的な自信を持ち,若い頃は「神」や「信仰」とは距離を置いていたかに見えたベートーヴェンが,最晩年に至って万物を支配する神に対する深い思いを吐露し,永遠の創造主を賛美する音楽を書いた。最終4楽章の「歓喜の歌」は輝かしく感動的だが,それに先立つ第3楽章のアダージオは,天上の音楽というほかない敬虔で美しい音楽である。この世のものとも思えないこの第3楽章も,暗く重々しい第1楽章,人間の焦りと苛立ちを表しているかのような第2楽章があるからこそ,なおさら心に響く。そう,今の私は「歓喜の歌」より,オーケストラによる最高の「宗教曲」である第3楽章に一層惹かれているのである。



■Enchanted Carols

(SAYDISC CD-SDL327)

 英国で移動遊園地などに行くと,古いヴィクトリア朝時代のオルゴール(英国ではMusical Boxという)や,手回しオルガン(Barrel Organ)が演奏されていることがある。日本人である我々にとっても,どこか懐かしく郷愁をそそる響き。このアルバムは,これらの楽器をはじめ,ストリート・ピアノ,ペニー・ピアノ,ハンドベルなど当時の様々な楽器によって,有名なキャロルを奏でたちょっと類のないユニークなクリスマス・アルバムである。曲によってはコーラスも加わる。ちょっとレトロで懐かしい響きが耳に心地よい。
 これらの中で,私が自分で鳴らしたことのある(といってもちょっとだけ)のはハンドベルだけだが,さすがにこのCDの演奏は上手。それともベルがいいのだろうか。ハンドベルはかつて英国の学校で非常にポピュラーで,各村,各学校がハンドベルのセットを持っていたらしい。時は移り,今ではハンドベルのプロのチームがいくつかある程度というのはさびしいが…。ハンドベルの奏法には,"four in hand"というそれぞれの手に2個ずつベルを持って演奏するスタイルと,"off the table"といって布をかけたテーブルに多数のベルを置き,鳴らすときだけベルを取り上げるという二つのスタイルがある。このCDでは,両方のスタイルが披露されているので,聴き比べるとおもしろかった。
 なお,このCDの最初と最後には,エリザベス一世が「英国で最も美しく素晴らしい教会」と称えたブリストルのSt Mary Redcliffe教会の12個の鐘の音が収められており,実によい音である。フミアキはブリストル大学に行くときにこの教会の前をよく通ったが,残念ながら鐘の音を耳にしたことはなかったそうだ(食べもの屋を眺めながら歩いていたので,鳴っていても耳に入らなかったのかもしれない)。日本でいえば,京都の知恩院にあるような名鐘なのだろうか。


     ヴィクトリア朝時代の(左)ディスク・オルゴール,(右)ハンドベル

■クリスマス・ピアノ曲集

(NAXOS 8.553461)

 楽器の王様ピアノもクリスマスの時期だけは活躍できる場が少なくて肩身の狭い思いをしているだろう。私も「クリスマスのピアノ音楽」と聞いてすぐ連想できるのは,弟が昔よく弾いていたJ.S.バッハ(マイラ・ヘス編)の「主よ,人の望みの喜びよ」くらい(この曲もこのアルバムのトリとして収められている)。ところが,このアルバムを手にしてみると,結構クリスマスのピアノ曲ってあるではないか。ドイツ後期ロマン派のレーガーが「きよしこの夜」をモチーフにしてつくった「クリスマスの夢」,60才を過ぎた大ピアニスト・リストが孫娘のために書いた「クリスマス・ツリー」,19世紀後半に活躍したロシアの作曲家リャプノフが書いた「クリスマスの祝祭」,セミ・クラシック?の大家アンダーソンの「そり滑り」など,ちょっと珍しくて楽しいピアノ曲が8曲収められている。リストの「クリスマス・ツリー」は12の小品集であるが,有名なキャロル「かいばおけの羊飼」をモチーフにした愛らしい曲など,技巧家リストの別の一面を垣間見るようで楽しい。私のお気に入りはロシア的な抒情に溢れたリャプノフの組曲「クリスマスの祝祭」。こうしたユニークなクリスマス・アルバムを企画するところはさすがNAXOS。グルジアの女性ピアニスト・アンジャパリジェのピアノは実に音がきれいで表情豊か。



■クリスマス協奏曲集

(Philips 412 739-2)

 クリスマス・コンチェルトといえば,まず思い浮かぶのがコレッリの作品。このCDには,コレッリの他に,トレッリ,マンフレディーニ,ロカテッリというイタリア・バロックの代表的なクリスマス・コンチェルトが収められている。こういうものを現代楽器で演奏させたらイ・ムジチの右に出るグループはいない。クリスマスでなくても,天気のよい朝などに聴きたくなるCDだ。


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