クリスマスにこんな本・ビデオはいかが

BGM is "God Rest You Merry, Gentlemen".


クリスマスの時期になると,クリスマスに関係した本を読んだり,映画を見たくなります。せっかくの1年に1回しかないクリスマス,この時期に読んだり見てこそ楽しい本やビデオ(DVD)をどうぞ…


BOOK
VIDEO/DVD

BOOK


花の詩画集 花よりも小さく
星野富弘 著(偕成社)¥1,400

 思い起こしてみると,私がはじめて星野富弘さんの花の詩画を知ったのは,今から15年ほど前のクリスマスに恩師から「四季抄 風の旅」(立風書房)という本をいただいたのがきっかけだった。ご存知の方も多いと思うが,星野さんは「普通の画家」ではない。大学の体育系学科を卒業し,新任の体育教師として中学校に赴任してわずか2か月後にクラブ活動の指導中の落下事故により手足の一切の自由を失った。入院中にキリストの洗礼を受けた星野さんは,故郷である群馬県の東村に帰り,絵筆を口にくわえて絵と詩を書き続けている。
 2003年11月に出版された「花の詩画集 花よりも小さく」は,前作(1999年4月刊)の「花の詩画集 あなたの手のひら」から4年ぶり,星野ファンにとっては本当に待望といって よい新刊である。知らない人が見たら,誰が星野さんの詩画を「口に絵筆をくわえて」描いたものだと思うだろう。一つ一つの花の色,表情はますます豊かに,添えられた詩はいよいよ簡潔にして深い。しかし,1枚1枚の絵と詩に込められた星野さんの思いの深さと肉体的・時間的労力の大きさは,私たちの想像をはるかに超えるものだろう。これは決して読み飛ばす,あるいは単に眺める本ではない。1ページ1ページから星野さんの思いと花の命を感じる本である。
 星野さんの花の詩画は常に私の心の慰めであったし,これからもずっとそうであろう。星野さんの「花の詩画集」はどの国のどの人の心をも打つであろうと信じる。滞英中に花の大好きな隣のPickwickさんに星野さんの花の詩画集の1冊を英訳版をプレゼントしたとき,彼女が数日後に驚きと喜びの感想を述べてくれたことは今だに嬉しい思い出として残っている。
 本書の表紙を飾る花は「アワコガネギク」である。この花に添えられた詩「花よりも小さくなれ 花の美しさが見える」から本書のタイトルは取られている。クリスマスということにかかわらず,大切な人へのプレゼントとしてこれほどふさわしい本は少ないだろう。星野富弘さんの他の詩画集については別の機会に書きたい。



マローンおばさん
エリナー・ファージョン 作/エドワード・アーディゾーニ 絵(こぐま社)¥1,000

 英国の生んだ20世紀最高の女流児童文学作家の一人,エリナー・ファージョンは,一方で珠玉のような詩"Mrs. Malone"を残した。森のそばの粗末な家に一人で住むマローンおばさんは,寒い冬でもパンや薪の一つもないような貧しい暮らしをしていた。誰もマローンおばさんのことなんか気にかける人はいない。ある月曜日,寒さと飢えに凍えたスズメがおばさんの家にやってきた。おばさんはスズメを胸にだいてやり,「あんたの居場所くらいここにはあるよ」と優しく言うのだった。それから,火曜日にはネコ,水曜日にはキツネの親子,木曜日にはロバ,金曜日にはクマがおばさんに助けを求めてやってくる。そのたびにおばさんは「あんたの居場所くらいここにはあるよ "There's room for another" 」と動物たちを家に暖かく迎えてやるのだった。そして土曜日,マローンおばさんは起きてこなかった。天に召されたマローンおばさんを動物たちは天国に連れて行く。尋ねる門番の聖ペテロに動物たちは言う。「ご存じないのですか,(神さま,お恵みを!) わたしたちのお母さん,マローンおばさんを。 貧しくて なにも持ってはいなかったけれど,広く大きな心で わたしたちに 居場所を与えてくれました」 目をさましてあわてて帰ろうとするマローンおばさんに聖ペテロは最後の場面で言う。「母よ,入って王座のそばへ おゆきなさい。あなたの居場所がここにはありますよ,マローンおばさん "Mother Go in to the Throne. There's room for another One, Mrs. Malone"」。この感動的な物語詩を読んでいつも思い出すのは,新約聖書マタイ伝におけるイエス・キリストの言葉,「心の貧しい人々は,幸いである,天の国はその人たちのものである」,「憐れみ深い人々は,幸いである,その人たちは憐れみを受ける。」,「地に富を積むな,天に富を積め。」,「求めよ,さらば与えられん。」…である。これほどクリスマスにふさわしい慈愛に満ちた詩がまたとあろうか。エリナー・ファージョンの生涯のパートナー,これまた英国の誇る絵本作家エドワード・アーディゾーニの格調高いモノクロの挿絵が一層この小さな本の価値を高めている。



ウェールズのクリスマス
ジェーン&マイケル・マース 著/大貫郁子 訳(径書房)¥1,700

 著者のジェーン・マースはニューヨークに住むアメリカ人であるが,母方の先祖はウェールズ人という家系である。そのジェーンのおばである今は亡きミムの果たせなかった夢,「いつか自分の本当の故郷ウェールズに帰ってクリスマスを迎えたい。」という夢を果たすため,ジェーンと夫のマイケルは,ウェールズの守護聖人セント・ディヴィッドにゆかりの大聖堂がある由緒ある町St David'sでクリスマスを迎える決意をする。この旅には,先祖のルーツを見つけるというもう一つの大事な目的があった。人口1500人という小さな町,St David'sの人々の暖かい歓迎を受けた2人は,友達となったウェールズ人の老婦人たちと食事を楽しんだり,家々を回る地元のコーラスに参加したり,アーサー王ゆかりの史跡を巡ったりと,ウェールズでのクリスマス休暇を満喫する。しかし,肝心のルーツ(親戚)探しに関しては決定的な証拠がないまま暗礁に乗り上げた形になってしまい,楽しさの中でもジェーンの心はどこか晴れなかった。ところがである。親戚かもしれないということで滞在していたB&Bの女主人が,2人のウェールズ滞在最終日になって,しまい込まれていた古い聖書を見つける。聖書には,1885年にアメリカのペンシルバニアでジェーンの大おじさんガーフが生まれたことが記されてあった。宿を営むロイド家とジェーンは正真正銘血のつながった親戚であったのである。本当に「ウェールズの奇跡」が起こったのだ。
 この結末が「出来すぎ」と感じる人にとっても,随所に出てくるウェールズ流のクリスマスの祝い方,つまり独特の習俗,教会のミサ,料理・お菓子などは,とても興味深く楽しいものだろう。文字を持たなかったケルト民族であるウェールズ人は,日本のアイヌと同様,語ることをとりわけ大切にした人たちであるという。だからこそ,クリスマスの晩には皆の前で男たちが詩を朗読する習慣があるらしい。暖炉の前に家族や友人が輪になり,そこで朗読されるウェールズ人の誇り,ディラン・トマスらの詩…。何と暖かなクリスマスの情景だろう。またこの本は,ウェールズ,とくにセント・ディヴィッズを訪れたことのある人にケルトの郷愁を思い起こさせるに違いない。私ももう一度この町を訪れ,町の中心にある古いケルト十字に触れたくなった。



奇跡への旅 三賢王礼拝物語
ミッシェル・トゥルニエ 著/石田明夫 訳(パロル舎)¥1,500

 信仰をもたない私であるが,新約聖書のイエス・キリスト誕生物語(「マタイによる福音書」と「ルカによる福音書」)は,読むたびに私を喜ばしく晴れやかな気持ちにさせてくれる。私が言うまでもなく,イエスの誕生にまつわる物語は,昔から多くの絵画やクリスマス・キャロルなどのモチーフとなっており,これらもクリスマスがもたらす大きな喜びの一つだ。このイエスの誕生物語では,ヨセフとマリア,ベツレヘム,羊飼い,天使,飼い葉桶(まぶね),ダビデの星,三賢王(博士)などが重要なキーワードになっている。ただし,誕生物語は福音書によって内容が異なり,「ルカによる福音書」には「羊飼い」が登場する代わりに「三賢王」は登場しない。「マタイによる福音書」はその逆である。
 本書は,「マタイによる福音書」に登場する,イエスを拝み宝物を捧げた「東方の三賢王」のイメージを想像力豊かに膨らませ,ひとつの物語に編み上げた,れっきとした創作文学である。奇想天外で寓意的・象徴的だが感動的な現代の誕生物語。
 この物語の背景について少し述べたい。「マタイによる福音書」の新共同訳では,「三賢王」は「占星術の学者たち」となっているが,聖書そのものには彼らの出身や名前は一切記されていない。また,ダビデの星に導かれているはずの三賢王が,わざわざ邪悪なヘロデ王にイエスの居場所を尋ねたり,ヘロデ王が不安にかられながらも彼らに尾行をつけないなど,ストーリー的にも不自然である。しかし,マタイ伝の「誕生物語」には,そういう不備を補って余りある強いメッセージと豊かなイメージがある。「東方」ということは,イエスを最初に拝んだ三賢王がユダヤ人ではなく,「異邦人」であったということだ。つまり,イエスがユダヤ人だけの救い主ではなく,すべての人の救い主として現れたという強く普遍的なメッセージがそこにはある。そして,三賢王が粗末な飼い葉桶で眠る幼子イエスを拝み,黄金,乳香,没薬を捧げるという心温まる情景…。
 現代フランスの作家である作者のミッシェル・トゥルニエは,マルコ・ポーロの「東方見聞録」に書かれている三賢王の名前をとり,ガスパール,メルキオール,バルダザールの三賢王を登場させる。ガスパールは第1章「恋する黒人王」,バルダザールは第2章「芸術の賢王」の主人公。しかし,本書の真の主人公は4番目に遅れてやってきたインドのタオール王子である。彼は最後の第3章「砂糖の王子・塩の聖者」(全体の半分の長さを占める)で,「菓子作りの神」を求めて冒険する王子として登場する。もちろん,この王子についての記述は聖書にはない。彼は物語の最後でイエスの残したパンとワインを口にし,最初に「聖体」にあずかった男として天国に導かれる。イエスの生誕地ベツレヘムに「パンの家」という意味があることを知ると,このタオール王の一見荒唐無稽な物語も,万人に対するキリストの福音を象徴しているかのように思えてくる。冗談ではなく,クリスマスにお菓子やパンを求めることは,聖書の教えにも適った行いなのだ!



音楽物語「星の王子さま」 (CD)
サン=テグジュベリ 原作/(語り)森本レオ・中嶋朋子・岸田今日子 他/(歌)薬師丸ひろ子(TOCT10520)¥2,100

 クリスマスの最も大切なシンボルのひとつである「星」。星といえば,子供の頃親に買ってもらった本で「星の王子さま」ほど,現在まで私の中に残っている本はない。20年以上前に買ってもらった本はすっかり古びてしまったが,今でも私の最も大切な1冊のうちのひとつである。ロマンティックにして哲学的なストーリーと美しい挿絵が内藤濯の素晴らしい訳と相まって,一度読んだら忘れられない印象を残す。「星の王子さま」のイメージとは遠いサン=テグジュベリの人間的実像を暴く著書も出ているが,そんなことはこの作品の価値を減じることには少しもならない。19世紀ヴィクトリア朝の退廃的作家オスカー・ワイルドが,彼の実像からは考えられないような美しく気高い童話「幸福な王子」を書いているように。「星の王子さま」に出てくるキツネの言葉「心で見なくちゃ,ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは,目に見えないんだよ。」というメッセージこそ,まことにクリスマスにふさわしい。このCDは岩波書店版の「星の王子さま」をほぼそのままベースにした音楽物語である。語り陣は「私」役の森本レオ,「王子さま」役の中嶋朋子,「ばらの花」役の岸田今日子ら。ソフトで落ち着いた語りの森本レオと,いかにも「わがまま」という感じが出ている岸田今日子がとくによい。「耳」から「星の王子さま」を聞いてこれだけ楽しめるのも,内藤濯訳の日本語の語感を大切にした美しい話言葉があってのことだろう。



ミステリアス・クリスマス
ロバート・スウィンデルズ,スーザン・プライス,ジリアン・クロス 他著/安藤紀子 他訳(パロル舎)¥1,600

 ヴィクトリア朝以来英国には「クリスマスにはゴースト・ストーリー」をという慣習があるそうだ。静かなクリスマス・イブの晩,家の中では家族や友人達が暖炉を囲んで座っている。そうして,一人ずつ順番に,亡霊や悪霊などが出てくる怖い話を皆の前で話し始める…。この本には,現在英国で活躍しているヤング・アダルト向きの小説やファンタジーで人気のある7人の作家の「ゴースト・ストーリー」が収められている。どれも,話の筋のおもしろさはもちろんのこと,英国のクリスマスらしい情景があちこちに出てくるのが楽しい。ちょっと変わったクリスマスの本を探している人にお薦め。



誰も知らないクリスマス
舟田詠子 著(朝日新聞社)¥1,800

 誰もが知っていて実はあまりよく知らないクリスマス。クリスマス・ツリー,クリスマス菓子,サンタクロースの贈り物…。これらの由来は?アルプスの小さな村に住む著者は,ヨーロッパ各地を訪ねることによって,クリスマスの様々な文化・慣習の「根っこ」にあるものを明らかにしようとする。それは,キリスト教文化のはるか以前から存在していた「異教的文化」と「キリスト教文化」の関わりを訪ねる旅でもあった。こんなことを書いていると,かたい本かと思われるかもしれないが,決してそんなことはない。お菓子が大好きな著者だけあって,「悪魔の牡猫」のお菓子,森の木から生まれた「ビュシュ・ド・ノエル」,「コインのはいったお年玉パン」など,とくにクリスマス菓子に関する楽しい話題がいっぱい。350ページの大部な本だが,著者の豊富な知識・実体験と,たくさんの写真が読む者を飽きさせない。



Music & Menus for Christmas
Willi Elsener (Pavilion) £16.99

 スイス生れのシェフで数々の受賞歴を誇り,現在ロンドンの高級ホテルDorchesterのエグゼブティブ・シェフを務めるWilli Elsenerによるクリスマス・クック・ブック。カバーには「クラシックなクリスマス料理」という文字があるが,実際に本を開いてみると,見た目に洗練された料理と繊細な盛り付けの写真がどれも非常にきれいで,本当においしそう。実際にこの本のレシピを使って料理を作るかどうかはともかくとして,見ているるだけで十分楽しめる「英国クリスマス料理の本」である。随所にちりばめられたクリスマス・コラムとクリスマスにちなんだ名画も楽しい。本書のもう一つの「目玉」として,英国のトラディショナルなクリスマス・キャロルをたっぷりと収めたCDが付いている。これも充実した内容。



The Oxford Christmas Carol Books
(Oxford University Press) £9.95

 60ものクリスマスキャロルが収められている楽譜集。英国の古典的なキャロルは大体入っている。クリスマスにちなんだ美しい絵画も多数載せられており,見ているだけでも楽しいし,もちろん実際に歌ってもいい。伴奏も付けられるようになっている。



A Christmas Carol
C.Dickens/Eric Kincaid (Illustration), Brimax Books Ltd.

 ディケンズの文はそのままに,Eric Kincaidが全ページにヴィクトリア朝風の挿絵を描いた,当時の雰囲気満点の見て楽しめる「クリスマス・キャロル」。この作品の魅力は改めて紹介する必要はないだろう。



「クリスマス・ブックス」
C・ディケンズ 著/小池 滋・松村昌家 訳(ちくま文庫)¥660

 英国のクリスマス,それもちょっとヴィクトリア朝時代の昔のクリスマスに興味がある方は,クリスマス前に是非ディケンズの名作を。よく知られた「クリスマス・キャロル」と,「鐘の音」の2作が収められています。ジョン・リーチが描いた挿絵も当時の雰囲気満点です。



「シャーロック・ホームズの冒険」より「青いガーネット」
コナン・ドイル 著/延原 謙 訳(新潮社)¥552

 シャーロック・ホームズが活躍した時代は言うまでもなく大英帝国の盛期,19世紀ヴィクトリア朝の時代である。作品中には当時の英国の風俗がよく出てくるから,ミステリーとしての古典的な面白さはもちろんのこと,当時の社会・文化に興味を持つ人にとっても多くの話題を提供している。しかし,ホームズ物でクリスマスが直接関係している作品は意外に少なく,「シャーロック・ホームズの冒険」の中の「青いガーネット」しかない。この作品では当時のクリスマスのメイン・ディッシュである「ガチョウ」が最も大切なキーポイントとなっている。巧みなトリック(謎解きは未読の方のために伏せよう)はもちろんのこと,当時の市場の情景やクリスマスの風俗が描かれているのが面白い。ヴィクトリア朝時代には主役であった「ガチョウ」も最近は脂っぽい(fatty)なのが嫌われ,「七面鳥」や普通の「チキン」にその座を奪われているようだ。



VIDEO/DVD


天使の贈りもの(1996米)
VWDS3456 (DVD)

 豪華なキャストでハッピーなクリスマス映画が見たい,音楽がよければさらにグッドという人にぴったりの映画。天使役にアカデミー賞受賞男優デンゼル・ワシントン,彼が恋する牧師の妻役に大歌手ホイットニー・ヒューストンという2大看板を擁したラブ・ストーリー。
 クリスマスまであと一週間だというのに,聖マシュー教会の牧師ヘンリーは沈んでいた。教会は老朽化のため今にも崩れ落ちそうな上に,信者である住民も決して教会を頼りにしているとはいえない。ヘンリーは自分の無力さを嘆き,神に救いを求めて祈りを捧げる。そんなある日,不思議な男ダドリー(彼こそ神がヘンリーを苦境から救うために遣わした天使だった)が教会に現れ,そのまま居ついてしまう。ダドリーは教会の修繕,幼い息子のジェレミアの世話などに大活躍する。しかし,ヘンリーは教会を狙う不動産屋ハミルトンの口車に乗って教会とその土地を手放す契約をしてしまう。それが原因でヘンリーと妻ジュリアの折り合いが悪くなったおり,ジュリアのすばらしい歌声を聴いたダドリーは,天使でありながら彼女に恋心を抱いてしまう。そして,すべてが丸く収まる絵に描いたようなハッピーエンド。そのとき人々からダドリーの記憶は消え,幼いジェレミアだけがダドリーのことを覚えている。見る者に一抹の淋しさとやるせなさを感じさせながらダドリーは去っていく…。ストーリーと共にホイットニー・ヒューストンのすばらしい歌声が心に残る。



天使にラブ・ソングを(1992米)
PIBF-1121 (DVD)

 私自身が今下手なゴスペルをやっていることもあって,久しぶりに「天使にラブ・ソングを」と「天使にラブ・ソングを2」を一気に見直した。聴き直したといった方がよいかもしれない。(これらタイトルはいかにも長すぎるので,我が家では「天ラブ」,「天ラブ2」と呼んでいる)。そして,改めてわかったことが二つある。一つは,素人でないプロの歌うゴスペルは実にすばらしいということ(当たり前か)。本物のゴスペルがもつ迫力,ソウルフルな歌があってこそ,これらの映画が成功したのだ。もう一つは,ゴスペル自体が実にクリスマスにふさわしい音楽であるということである。神とイエス・キリストをダイナミックにパワフルに賛美するゴスペル・ソングは,英国の名門教会合唱団がしっとりと歌うトラディショナル・キャロルの対極といってもよいものだが,スタイルこそ違えクリスマスの明るく喜ばしい気分にぴったりの曲がたくさんある。「天ラブ」も「天ラブ2」も,映画自体のストーリーのおもしろさに加えて,そうしたゴスペルの魅力をあますことなく見せてくれる(聴かせてくれる)。「天ラブ」で歌われる曲では,"My Guy"と"I will follow Him"が私はとくに好きだ。とくに映画のフィナーレでローマ法王を前にして歌われる"I will follow Him"は感動的で涙なしには聴けない(ちょっと大げさかな)。
 さて,肝心の「天ラブ」のストーリーだが,主演はウーピー・ゴールドバーグ演じるところのデロリス。彼女はしがないクラブ歌手として歌うことで暮らしていたのだが,ある日情夫のギャングがからむ殺人現場を目撃したため,ギャングに命を狙われる羽目になる。彼女の身を案じた刑事は,彼女をシスター・メリー・クラレンスとして女子修道院に隠す。それまでショーガールをしていたデロリスがおかたい修道院になじめるはずもなく,といって外に出て死にたくはない,で悶々とした日を過ごしていた。ところが,ふとしたきっかけで修道院のシスターたちの聖歌隊リーダーに任命されると,そこからは一転して本領発揮。持ち前の歌唱力と類稀なバイタリティーで,ヘタクソな聖歌隊を大改革。眠くなる退屈な賛美歌の代わりに,ノリノリのゴスペルを導入。たちまち噂は街中に広まり,閑古鳥が鳴いていた教会も聖歌隊を聴きたい若者らでいっぱいに。ところが警察の内通者のせいでデロリスの居所がついにギャングにバレてしまう。誘拐されたデロリスを救うべく敢然と夜の街に繰り出すシスターたち。間一髪助かったデロリスとシスターたちは,ローマ法王の前で歌を披露するという名誉に預かる。クリスマスらしいストーリーということでいえば,「天ラブ2」かもしれないが,映画のストーリーとしては「天ラブ」の方が断然スリリングで,デロリスとシスターやギャング(イタリア出身のマフィアらしく妙に信心深い)とのユーモラスなやり取り,駆け引きもおもしろい。



天使にラブ・ソングを2(1993米)
PIBF-1235 (DVD)

 「天ラブ」で大活躍したデロリスは今やクラブのちょっとしたスターシンガー。そこに駆け込んできた旧友のシスターたち。荒れきっているサンフランシスコの聖フランシス高校に来て,自分たちの力ではどうにもならない生徒たちを教えてほしいというのだ。最初は渋々だったデロリスだが,自分の母校でもあるということと,友達のシスターの頼みとあっては断りきれず,音楽クラスを教えることに。ところがこのクラス,今でいえば完全に学級崩壊しているクラス。さすがのデロリスも生徒たちを持て余し気味。しかし,そこは不屈の闘志をもつ彼女のこと。歌うことの楽しさを生徒たちに理解させることによって,徐々に彼らの信頼を勝ち得ていく。ところが,同校の理事長クリスプ(ジェームス・コバーン)は学校をつぶすことを企んでいる。そんなことさせてなるものかと一層の闘志を燃やすデロリスは,生徒たちをカリフォルニア州の合唱コンクールに出そうと決意する。そこで優勝すれば,本部も廃校の方針を変えるに違いないと信じて…。そして,他校の「伝統的」合唱とは全く違うゴスペルの躍動感溢れるステージを披露した聖フランシス高校は見事優勝!学校は廃校の危機から救われたのだった。生徒たちのリーダー格でちょっと屈折した女の子リタ・ワトソンを演じるローリン・ヒルの歌声がすばらしい。コンクールのときに,彼女が動揺した気持ちを抑えてそっと歌い出す"Joyful, joyful"にはジーンとくる。このローリン・ヒル,すごい歌唱力だなと思ってたら,シンガーとしてソロ・デビューをはたし,今やすごい売れっ子だとか。やっぱりねという感じ。もちろん,「天ラブ」同様,"Oh happy day"などゴスペルの名曲がたくさん出てくる。ちょっと結末が予想できてしまうところがあるが,音楽,ストーリーともにクリスマスにふさわしい元気の出る映画である。
 ここで余談を二つ。「天ラブ」,「天ラブ2」ともにデロリスを助ける脇役のシスターたちが大活躍している(小太りで陽気なシスターのアルマが私に似ているとFに言われたのには憤慨したが…)。こんなお茶目なシスターばっかりだったら,私の大学生活ももっと楽しかっただろうに…。現実は厳しい。もうひとつ,修道士たちが悪者理事長クリスプを倉庫に誘い込み,大きいソーセージで外から扉にカンヌキをして中に閉じ込めるという爆笑シーンがある。かたいソーセージだからいいようなものの,イギリスのフニャフニャソーセージでは役に立たないだろうなあ。



A Celebration of Christmas (世界のクリスマス)
ATVC-001 (VHS)

 ローマ教皇・ヨハネ・パウロ2世の話に加えて世界のクリスマスの映像,25曲のキャロル・聖歌で構成されたビデオ。監督が教皇庁典礼部門の責任者を務める神父なだけに,ヨハネ・パウロ2世の世界に向けた祝福の言葉や,サン・ピエトロ大聖堂でのクリスマスのシーンはとりわけ充実しており,見ごたえがある。スペイン,ポルトガル,アイルランドのようなヨーロッパの伝統的クリスマスがある一方で,チリ,ブラジル,ケニアなど南米・アフリカでの民俗的でお祭り騒ぎのようなクリスマスもあって,非常にバライエティーに富んだ内容となっている。教皇庁公認のビデオだけあって,「カトリック国」のクリスマスが中心であるが,ビデオの映像製作がなぜか英国の会社(C21C)なので,カトリックとは喧嘩別れしたはずの英国国教会のクリスマスの情景もたっぷり収められている。ウェストミンスター大聖堂でのクリスマスで歌われる"Once in Royal David's City(ダビデの村の)","O Little Town of Bethlehem(ああベツレヘムよ)","Gloria(モーツァルト「戴冠式ミサ曲」よりグローリア)"は,厳そかな中にも晴れやかな気分を感じさせる。日本で発売されているビデオは,カトリック中央協議会広報部が日本語の監修をしているが,日本語吹替をナレーションの部分の最小限に抑え,あとはすべてオリジナルのままにしているのがよい。キリスト教に関心がある人にもない人にも,一見の価値がある全75分の楽しいクリスマス・ビデオである。


映画「クリスマス・キャロル」(1970米)
CFT-7126 (VHS)
 言わずと知れたディケンズの名作「クリスマス・キャロル」をもとにした楽しいミュージカル映画。30年前に製作された古い映画であるが,主役のスクルージ役のアルバート・フィーニーの名演技,足の悪いティム坊や役の少年のかわいらしさ,ヴィクトリア朝の雰囲気満点のセット・衣裳,楽しい歌,スクルージが「改心」してからのハッピーエンドに向けためまぐるしい展開などが忘れがたく,クリスマス時分になると必ず一回は見たくなる。原作にはないスクルージがサンタ・クロースに変装するシーンで,アメリカ映画でありながら「サンタ・クロース」ではなく,すべて英国式の「ファーザー・クリスマス」で通すところに製作者の細かい配慮が伺える。



映画「三十四丁目の奇蹟」(1947米)
CFT-1072 (VHS)
 アカデミー賞3部門受賞作。50年以上も前のモノクロ映画であるが,その素晴らしさは少しも減じていない。まさに不朽のクリスマス映画である。「本物」のサンタ・クロースであるクリスが,即物的・現実的で夢のない,「女スクルージ」のようなドリス,スーザンの母娘の心を少しずつ変えていくというストーリー。クリスを精神病院に入院させるか否かの法廷審理が実にユーモラスでおもしろい。そしていかにもクリスマスにふさわしい素敵なハッピーエンド。クリス役のエドモンド・グウェンの真に「サンタらしい」演技,母役のモーリン・オハラの美しさ,彼女の恋人で弁護士役のジョン・ペインの誠実なかっこよさ,たくさん登場する子役のかわいらしさ…と俳優陣の演技も見事である。



映画「素晴らしき哉,人生!」(1946米)
IVCF-2039 (DVD)

 今でもファンが多い往年の名優ジェームズ・スチュワート主演の古典的クリスマス映画(モノクロ)。人生の希望,人と人のつながり・助け合い・信頼が堂々とメインテーマに据えられた古き良き時代のアメリカ映画である。翼のない二級天使クラレンスが大活躍する現実離れした設定や,「出来すぎた」ハッピーエンドに首をかしげる人もいるかもしれない。でも今のような時代だからこそ,クリスマスのときぐらい私はこのような人間全肯定的ハッピーエンドの映画を見たい。今後このような映画が生まれることはまず望めないのだから。
 クリスマスの日に自殺を考えた主人公ジョージとその会社が人々の善意によって救われるというストーリーはシンプルだが,これに天使が見せる「もしもジョージががいなかったら…という仮想世界」のシーンなどが効果的にからみ,何度見ても楽しめ,また感動的な映画となっている。大団円を迎え,有名なキャロル「Hark! the Herald Angels Sing(あめにはさかえ)」と「蛍の光」を一同が力強く歌う場面ほど心打たれるラスト・シーンもまたとはないであろう。。



「ミスター・ビーン Vol.4 狂騒曲」より「メリー・クリスマス・ミスター・ビーン」
POVP-1904 (VHS)
 「メリー・クリスマス・ミスター・ビーン」にはいかにも英国らしい情景がいくつか出てくる。それをチェックしながら見れば,英国ファンにとっては一層楽しさも増すのでは…。
  1. ビーンがカラーボールを「ハロッズ」の玩具コーナーで購入するシーンでは,イエス・キリスト降誕のシーンを表した人形のセットで悪戯している。この「降誕人形」はクリスマスが近づくと,玩具売場やクラフト・ショップなどで必ず見かけるものである。デザインや値段は千差万別だが,材料に良質の木を使い,サイズが大きく,加工・ペイントが丁寧になされたハンド・メイドの英国製人形セットは何百ポンドもする。
  2. ブラスバンドをビーンが指揮して,"God Rest You Merry, Gentlemen(世のひと忘るな)"(このページのBGM)をおもしろおかしく演奏するシーンがある。まずこの,ちょっと憂いを含んだ"God Rest You Merry, Gentlemen"は,生粋の英国トラディショナル・キャロルで,英国では非常に人気がある。英国の合唱団が歌うキャロルのCDには必ずといってよいほどこの曲が収録されている。この曲を手軽に聴いてみたい方には,1,000円で手に入る"Chrismas Carols from Tewkesbury Abbey"(NAXOS 8.553077)をお薦めする。ドラマの中ではこの曲が最後にジャズ風に編曲されていておもしろかった。
  3. このブラスバンドの制服には"S"の文字が見え,人々の寄付を募っていることから,"Salvation Army(救世軍)"のブラスバンドであることが分かる。救世軍はヴィクトリア朝時代の1865年に組織された伝道と社会事業を目的とする団体で,クリスマス時に街頭でブラスバンドとパーカッションを伴奏にキャロルを歌うのは創設以来の伝統である。日本でも救世軍は活動しているが,英国での救世軍の活動は遥かに大々的で,募金活動の他にもホテルを経営するなど,手広く活動している。私達がBathで最初と最後にお世話になった"Carfax Hotel"も救世軍の経営で,非常に親切で料金もリーズナブルなホテルであった。
  4. ビーンの住んでいるアパート(英国式にいえばフラット)に子供たちが来て,玄関先でキャロル "Away in a Manger(まぶねの中で)"を歌うシーンがある。おそらく募金集めのためだろう。"Away in a Manger"には2つの有名な曲があり(歌詞は同じ),日本ではマレイ(1841-1905)の曲の方がポピュラーだが,英国ではもっぱらカークパトリック(1838-1921)の曲が歌われ,小学生の子供が歌うのもカークパトリックのキャロルである。上であげた"The Oxford Christmas Carol Books"にもカークパトリックの曲は入っているが,マレイの曲は入っていない。もちろんビーンのドラマで子供たちが歌うのもカークパトリックの方である。歌が終わるとビーンはバタンとドアを閉めてしまうのであるが,普通の英国人だったら当然子供たちに募金を渡したり,お菓子をあげているところだ。
  5. ビーンが巨大なターキーから頭が抜けなくなるシーンは,映画版「ビーン」でも使われていた有名なシーン。そもそもこのように巨大なターキーは,日本では簡単に手に入れることができないだろうし,仮に手に入れたとしても余程大きい立派なオーブンを備えた家でなくては,オーブンの中におさまらないだろう。私たちがBathに借りたSemi-detachedの家は決して大きくなかったが,備え付けのオーブンだけは,今日本で使っているレンジ兼用のものよりはるかに大きかったことを思い出すのである。映画版「ビーン」ではターキーが大きすぎてなかなかオーブンに入らなかったシーンがあったが,家庭のオーブンの大きさはアメリカより英国の方が大きいのかなと,ふと考えてしまった。いやいや,そんなことはないと思うのだが…。


アニメ「スノーマン」(1982英)
SVWB-4016 (DVD)
 レイモンド・ブリッグスが生み出した「スノーマン」と「ファーザー・クリスマス」というキャラクターは,英国のクリスマスで毎度おなじみの人気キャラクターである。もちろんこれらは元々絵本として発表されたものであるが,アニメ化されたことによってますます広く知られるようになった。イギリスのショップでは,冬になると「スノーマン」や「ファーザー・クリスマス」の人形が売られているのをよく見かける。セリフが全くないにもかかわらず,物語性の高い高度な絵本「スノーマン」の精神はアニメ化されても守られている。パステル調の淡い色調も絵本と同じ。ただ,アニメということもあってか原作よりも「動き」を重視したつくりで,とくにスノーマンと少年が夜の大空を飛ぶ幻想的なシーンは,ちょっと悲しげで心に沁みるハワード・ブレイクの音楽と相まって実に素晴らしい。会話が全くないアニメだけに,日本の小さな子供も純粋に映像と音楽を楽しむことができるだろう。最後のスノーマンが溶けてなくなってしまうシーンでは泣いてしまうかもしれないが…。



アニメ「ファーザー・クリスマス」(1991英)
ASBY-1805(DVD)
 「スノーマン」と並ぶレイモンド・ブリッグス原作の傑作アニメ。「スノーマン」がしみじみとした情感をたたえているとすれば,こちらにはユーモラスな味わいがある。このアニメはブリッグスの2つの絵本の内容をつなぎ合わせたものだ。前半は寒がりやのサンタが夏にバカンスに出かける「サンタのなつやすみ」(あすなろ書房),そして後半がクリスマス・イブにプレゼントを配る「さむがりやのサンタ」(福音館書店)にもとづいている。よく見てみると,英国のアニメならではのシーンが出てきてニヤリとさせられる。フランスのレストランでサンタがボーイに向かって「HPソースはないのか?」と尋ねるシーンがあるが,HPソースは英国で最も普及しているソース(私は日本のウスターソースの方がおいしいと思うが)である。またスコットランドでは,パブでウィスキーのショットをあおり,バグパイプの音楽に合わせてダンスを踊る陽気なサンタ。ショーウィンドウをよく見ると「ハギス」(スコットランドの有名な郷土料理)が置いてあるではないか…。後半のクリスマス編では陽気な主題歌が楽しい。原作には出てこないスノーマンも「友情出演」している。イーストボーン近くのセブン・シスターズの断崖絶壁とビーチイ・ヘッドにある美しい灯台も出てくる。バッキンガム宮殿やビッグ・ベンが出てくるのを見ると,このサンタはロンドンにも行っているのだろう。親子でクリスマスに楽しむのにぴったりのアニメ。



テレタビーズのハッピー・クリスマス(字幕スーパー版)
ASVX-1515 (VHS)

 テレタビーズはもちろん子供,それも就学前の幼児を対象としたBBCのTV番組であるが,よく注意しながら見ると,随所に英国的な文化や慣習が顔を出すので,「英国に興味がある大人の日本人」の格好の研究対象となり得る。どうせ子供番組だからと,みすみす見逃す手はない。英国滞在中当時2才だった次男はこの番組がすっかり気に入り,日本に帰ってからも見たがった。しかし,幼年雑誌のプレゼントで手に入れた日本語吹替え版のデモビデオは,テレタビーズの声が全く変で,原作のほのぼのとした感じをぶち壊しており,子供にもそっぽをむかれてしまった。幸い日本の発売元であるアミューズビデオのラインナップには「字幕スーパー版」もあり,今度は子供も「正しい」テレタビーズの声に大喜びで,テープがすり切れるほど何回も見てくれた。この「ハッピー・クリスマス」では,英国のかわいらしい小さな子供たちが "Away in a Manger(まぶねの中で)"を合唱しているシーン,幼い兄妹が母親と一緒にクリスマス・ツリーを買いに行くシーン,リボンのようになっている両端から引っ張って爆発させる英国独特のクリスマス・クラッカーを引っ張るシーン(とても大きいクラッカーが出てきます)など,英国のクリスマスを髣髴とさせる情景がたっぷり盛り込まれている。2〜6才くらいの子供が大喜び間違いなしのビデオです。


「きかんしゃトーマスとなかまたち」 第6巻
PCBC-50036 (DVD)

 日本でも小さな子供に人気のある「きかんしゃトーマス」は,原題を「Thomas the Tank Engine & Friends」という。"Tank Engine(タンク機関車)"とは,炭水車がない(石炭と水は機関車の後部に積んである)タイプの小型機関車のことであり,No.1のトーマスやNo.6のパーシーがこれに相当する。したがって邦題は正確には「タンクきかんしゃトーマスとなかまたち」とするべきであろうが,これでは日本の子供が言いにくいということで,日本で放送するにあたりタイトルを短く縮めたものだろう。一方炭水車のあるテンダー型の機関車には,No.2のエドワード(青),No.3のヘンリー(緑),No.4のゴードン(青),No.5のジェームズ(赤)などがあり,黒一色の日本の蒸気機関車とは違う,カラフルな色のバラエティーが一つの大きな魅力になっている。機関車のデザインも勝手に制作者がしているのではなく,たとえばブルーベル鉄道から来た「ステップニー」のように実在の鉄道の機関車をモデルにしているので,英国保存鉄道のファンにとっても楽しい作品なのである。1話が5分程度と短いので,小さな子供でも飽きずに楽しむことができる。「きかんしゃトーマス」に限らず,英国の子供向けテレビ作品はどれも製作意図がはっきりしており,細かいところまでよく考えてあるのには感心させられる。
 日本で放映されている日本語吹替えの「きかんしゃトーマス」は,森本レオのソフトなナレーションもあって全体的にのどかな雰囲気が漂う。声優もほとんど女声である。ところが,BBCで放映されているオリジナル版では,しわがれ声の声優George Carlinが機関車のセリフも含めてすべて一人でナレーションをしており(日本語版では機関車1台ごとに声優がいる),事件や事故の場面,機関車が怒っている場面などではドスのきいた”迫力”がある。日本のトーマスに慣れてしまうと,ちょっと荒っぽい英国のトーマスにはじめ違和感があった。
 日本で発売されているトーマス・シリーズの中でクリスマスに関係したお話に,
「トーマスのクリスマスパーティー」がある。トーマスがいつも走る線路脇に住んでいるキンドリー夫人は,以前トーマスに事故の危険を知らせて助けてくれたことがあった。その夫人の家がクリスマスに大雪で埋まってしまう。恩返しにと夫人の救出に向かうトーマス。仕事がすべて終わり,疲れきって車庫に帰ってくると真っ暗。クリスマスのパーティーが終わってしまったと思い,がっかりするトーマスだが,突然明かりが灯り,機関車たちの"We wish your merry christmas"の大合唱が沸き起こる。
 もう一つは
「きかんしゃたちのクリスマス・キャロル」というお話。トップハム・ハット卿の命令で大きなクリスマス・ツリーを運んでいたトーマスは雪の中に埋まってしまう。彼を雪の中から助けるのは,スコットランド生まれで寒さに強い双子機関車のドナルドとダグラス。救出されたトーマスがかけつけたクリスマス・パーティーにはファーザー・クリスマスもやって来て,めでたしめでたしとなる。このお話に限らず,日本語吹替のトーマスではドナルドとダグラスのセリフがすべて「ですます」調の丁寧語になっている。これは,原作では彼らがスコットランド訛りの英語をしゃべることになっているためで,この訛りをうまく子供向きの日本語にすることは難しいため,丁寧語を話させることで他の機関車の言葉との違いを強調しようとしたのかもしれない。子供向きの作品でも(だからこそ?),翻訳となると事はそう簡単ではない。おもしろい箱型機関車ダックの出身"Great Western Railway(GWR)"(ロンドン・パディントンを起点とし,南西部のバース,ブリストル,コーンウォール方面へ走っていた鉄道。現在はGreat Western Trainと改称)は「大西部鉄道」と訳されているが,これでは何だかアメリカの広大な西部を走る鉄道みたいだ。