ホルン五重奏曲 変ホ長調 K.407


ベルリン・ゾリステン (TELDEC 2292-46467-2)
 
もしモーツァルトがその楽器の作品を残していなかったら,後世の奏者がさぞ淋しい思いをしただろうという楽器がいくつかある。言いかたを変えれば,モーツァルトがその楽器について他を圧する決定的な名曲を残しているという楽器がある。管楽器でいえば,それはクラリネットとホルンだ。クラリネットの方には,この楽器のというよりモーツァルトの全作品の中でも屈指の名作,「クラリネット協奏曲」と「クラリネット五重奏曲」があり,私の大好きな曲でもあるから別のページで書こう。ホルンにも同様に4曲の「ホルン協奏曲」とここで紹介する「ホルン五重奏曲」がある。
 晩年に書かれた「クラリネット五重奏曲」のような深みはないけれども,ここには明るく屈託のないモーツァルトがいる。陽気でちょっとユーモラス(とくに両端楽章)なのは,ホルンという楽器の性格もあるけれど,モーツァルトと冗談を言い合う仲であった旧友のホルン奏者イグナーツ・ロイドゲープ(1732-1811)のために書いたという事情があるだろう。金のためではなく,友人への純粋な好意で書いた曲であるから,モーツァルトにすればあまり時間をかけずに気軽にさらさらと書き流したのかもしれないが,それが今日残るホルンのための最高の室内楽となったのは,やはり天才モーツァルトの業だろう。弦はあくまで脇役に徹し,ホルンが輝かしいトランペットのように縦横無尽に活躍する。弦楽四重奏のようにヴァイオリンが2本ではなく,地味なヴィオラを2本にしたところにも,ホルンを引き立たせようというモーツァルトの意図がうかがえる。ホルンの上手い友達がいて,この曲を一緒にやれたらどんなに楽しいことだろう。

*MIDI:第1楽章(Allegro)