2台のピアノのためのソナタ ニ長調 K.448


マレイ・ペライア&ラドゥ・ルプー(P) (SONY 32DC 627)
 
ピアノ連弾用の名曲というのはいろいろあるけれども,「2台のピアノのための」曲となるとぐっと少ない。まず,当り前のことだがピアノが2台いる。コンサートでやるとなると,アップライトピアノというわけにもいかないから,高価なグランドピアノが2台いる。もちろん,ピアノ2台を置くためのスペースも必要だ。そして,実際のコンサートでいちばん難しいのが,プロのピアニストを同時に2人出演させることだろう。こうした条件をすべてクリアーしなければならないから,実演でこの曲を聴く機会は非常に稀である。名手2人の生演奏でこの曲を一生に一度でも聴けたとしたら,それは大変幸運なことだ。普通のファンはこの曲をCDで聴くしかないが,お薦めしたいのはマレイ・ペライアとラドゥ・ルプーという世界的名手二人が弾いた夢のような盤である。彼らのタッチは繊細で微妙なニュアンスを湛え,緩急自在,しかも息がぴったりと合っている。彼らの演奏で聴くと,この曲にはたとえば「フィガロの結婚」といったオペラの序曲を思わせるようなダイナミック・レンジの広さと活発さがあることがよくわかる。
 ご記憶の方もおられると思うが,このK.448を聴くと記憶力が向上するという米カリフォルニア大学の実験結果が1993年に日本の全国紙上で報道され,この曲のCDが急に売れ出すという珍現象が起きた。テストの前にK.448を聴くのが非常に効果的だったのだという。どういう科学的根拠があるのか不明なので私は疑問に思っているが,なぜ作曲家の中でモーツァルトが,そしてなぜモーツァルトの中でこの曲が効果的なのか,結果は日本人の学生でも同じだろうかと考えると,おもしろい研究であるのは確かである。

*MIDI:第3楽章(Molto allegro)