弦楽四重奏曲 イ長調 K.464


アルバン・ベルク四重奏団 (EMI CDC 7 49972 2)
 
この曲は,ハイドン・セットの中でもベートーヴェンがとくに愛好し,熱心に研究した曲として有名である。たしかにソナタ形式にこだわったベートーヴェンに格好の研究材料を提供するだけの堅固な構造がこの曲にはある(とくに第1,第4楽章)。しかし,そこはモーツァルトはベートーヴェンと違ってどこまで行ってもやはりモーツァルト。構成を重視したがゆえに彼本来の「歌」が失われることはない。
  解説書には書かれていないことだが,ベートーヴェンがこの曲を好んだもう一つの理由は,K.464の第3楽章が「変奏曲」形式であることによるのではないかと私は思っている。ベートーヴェンが晩年の弦楽四重奏曲作品131嬰ハ短調 の第4楽章を天国的な変奏曲にしたのは有名だ。ベートーヴェンはモーツァルト同様変奏曲という形式を好んだが,これを書いたときベートーヴェンは,若いときに勉強したモーツァルトの変奏曲を思い出したはずだ。ベートーヴェンの変奏曲は深いが,モーツァルトの変奏曲は天衣無縫。両者の弦楽四重奏における変奏曲を聴き比べてみるとおもしろい。


第1楽章(Allegro)



第3楽章(Andante)