ピアノ四重奏曲 ト短調 K.478


ジャン・フィリップ・コラール(P) 他 (EMI CDC 7 54008 2)
 
モーツァルトの「ト短調」には傑作が多いと昔から言われてきた。「宿命」の調性とも言われる。しかし,実際は印象の割にそれほどたくさん「ト短調」の作品があるわけではない。圧倒的に有名なのが,小林秀雄が第4楽章を「疾走する悲しみ」と表現した交響曲第40番 K.550。「小ト短調」と称される交響曲第25番 K.183は,映画「アマデウス」のオープニングでサリエリが自殺を図るシーンに使われて以来ポピュラーな一曲になった。室内楽にも有名なト短調の作品が2つある。まず,弦楽五重奏曲 K.516。憂いを帯びた冒頭の旋律が有名である。さて,次に来るのがここで紹介するピアノ四重奏曲 K.478であるが,この曲はピアノと弦のユニゾンで奏される第1楽章冒頭の主題が異様な悲愴感を湛えている。一度聴くと忘れられない印象的な主題で「モーツァルトのト短調」の名に恥じないものだ。しかし,この曲で調性が短調なのは実は第1楽章だけなのだ。アンダンテの第2楽章は夢見るように美しく,ロマン派の音楽のギリギリ前で踏み止まっているような感じ。そして,明るく快活な終楽章ロンドの楽しさ。ト短調の第1楽章にも増して今の私がいちばん好きなのもこのロンド楽章なのである。それぞれ性格の異なる3つの楽章がモーツァルトの感情表現の多彩さを感じさせてくれる。
 
*MIDI:第3楽章(Rondeau)