クラリネット五重奏曲 イ長調 K.581





(左)アルフレート・プリンツ(Cl) ウィーン室内合奏団 (Eurodisc LP)
(右)同演奏 (DENON 28C37-40)

 
ホルンも幸せな楽器だけれど,クラリネットはもっと幸せな楽器だ。モーツァルトが「クラリネット協奏曲」,「クラリネット五重奏曲」という,モーツァルトのすべての作品,いやクラシック音楽の歴史全体を見渡してみても燦然と輝いている西洋音楽の精華を2曲も残してくれたのだから。ブラームスの「クラリネット五重奏曲」を除けば,クラリネットではモーツァルトの足許に迫った曲すらまるで存在しない。ブラームスがモーツァルトの作品を「神」に喩え,神になれない自身を嘆いたのは有名な話である。私は老いた男の渋い哀愁が漂うブラームスの「クラリネット五重奏曲」 も大好きである。しかし,モーツァルトの「クラリネット五重奏曲」を聴くと,やっぱり「神」の作品と「人間」の作品の違いを感じてしまう。クラリネットだけではなく,すべてのパートにおいて,最初から最後まで無駄な音,足りない音は一音たりとも存在しない。最初から最後まで「歌って」いない部分は全くない。完璧な音楽とは,このような曲のことを言うのだろう。
 ページトップに載せたLPとCDは,どちらもクラリネットがアルフレート・プリンツの同じ演奏である。ウィーン・フィルの奏者でもあったプリンツのクラリネットはウィーン風の艶やかで雅な音がすばらしく,同じくウィーン・フィルのメンバーからなる弦と絶妙のアンサンブルを聴かせる。音はリマスターされたCDの方がよいが,ジャケットはご覧のように黄昏のウィーンの街の写真を使ったLPの方が断然よい。
 実は学生時代に音楽サークルに入っていたとき,機会があればこの曲をやってやろうと高いパート譜を買った。クラリネットを吹く人は居た。しかしブラバン出身の人は皆B(ベー)管は持っていても,残念ながらA(アー)管を持っていなかった。これではこの曲は出来ない。いつか下手でもいいから5人でモーツァルトに宿る「神」を感じてみたいものだ。誰かA管を持っている人居ませんか?

*MIDI:第4楽章(Allegretto con variazioni)