弦楽四重奏曲 ト長調 K.80


ハーゲン四重奏団 (Deutsche Grammophon POCS1096/8)
 
実にSt Aubins約2年ぶりのコンテンツ更新である。このところ自らのウェブサイトに対する情熱をすっかり失っていたというのが正直なところであるが,最愛の作曲家モーツァルトが生誕250周年を迎えるという大切なときに何もしないで済ますわけにはいかない。誕生日の1月27日には少し間に合わなかったが,大急ぎでMIDIファイルを作成し,この文章を書いてアップロードすることにした。
 日本のモーツァルト評論の第一人者である高橋英郎氏は,著書「モーツァルト366日」(白水社)の1月27日の項で,「ひとりの男の児の誕生が,後世の人びとの心をどれほど豊かにし,楽しませていることか。」と書いている。モーツァルトがこの世に誕生したことを感謝しつつ,彼が生まれて初めて書いた弦楽四重奏曲ト長調K.80を聴こう。14才のときの作であるから,後年の「ハイドン・セット」のような円熟はもちろんなく,シンプルで繰り返しの多い音楽であるが,この初期の作品でも他の誰のものでもないモーツァルトの「音」が聴こえてくる。とくに第2楽章は若々しく元気な曲想がいい。
 今日,最近よく行っているお気に入りのジャズ喫茶cafe Ashiharaに行ったときに,不世出の天才トランペッター,クリフォード・ブラウンの最初期と亡くなる数時間前の最後の演奏を収めたCBS盤「ザ・ビギニング・アンド・ジ・エンド」を聴かせてもらった。彼は若死にしたモーツァルトよりさらに10才も若い25才でこの世を去っているが,一音聴いただけですぐに彼の音とわかる。モーツァルトと同じだ。あまりの演奏のすばらしに,最初から最後まで聴き入ってしまったが,帰る時にマスターがなにげなく言った「いいものは何年たってもいい。」という言葉が心に残った。モーツァルトとクリフォード・ブラウンという2人の天才は全く違う音楽家であるが,この点に関しても同じである。 折しも2006年はクリフォード・ブラウン没後50周年の年でもある。

*MIDI:第2楽章(Allegro)