キリスト教の文化・芸術に親しむために



このページのBGMは,ShibataさんMIDIで聴く「マタイ受難曲」から
アルト・アリア 「憐れみたまえ,わが神よ」です。


サンティアゴ巡礼の道
檀ふみ 池田宗弘 五十嵐見鳥 ほか(新潮社)¥1,200

 「巡礼」はキリスト教国に限られたものではなく,イスラム教国や仏教国の日本でも,巡礼する対象があり,巡礼する人々がいる。どんな宗教,国でも聖地とされる場所は昔からあるのであり,英国の「カンタベリー」巡礼を生き生きと描いたチョーサーの「カンタベリー物語」などはあまりにも有名である。カンタベリーに比べれば,日本での知名度こそ低いかもしれないが,スペインのサンティアゴは,その歴史の古さ,まつられている聖人の「格」の高さ(聖ヤコブ),巡礼ルートの長さ,世界文化遺産に登録されている数多くの史跡,巡礼者の多さなどの点から,全ヨーロッパでみても屈指の巡礼地である。
 その巡礼路を女優の檀ふみが歩く。昔に比べれば,道も整備され,危険もなく,命がけの巡礼ということはなくなったとはいえ,長く大変な巡礼行であることに変わりはない。しかし,自分の足で歩いてこそ,目的地のサンティアゴ・デ・コンポステラ大聖堂に辿り着いたときの喜びはたとえようもなく大きいだろう。そして,もちろんすばらしい体験は終着地の大聖堂ばかりではない。巡礼路の美しい風景や史跡,世界各地からやって来た巡礼者たち,巡礼者を暖かく迎える宿,ガリシア地方独特の郷土料理等々すべてが忘れがたい印象を与える。読んでよし眺めてよしの紀行書であると同時に,なぜ人は「巡礼」へと旅立つのかということを問いかける書でもある。


バッハの四季
樋口隆一 著(平凡社)¥1,200

 イースターの季節を迎えるにあたって,私の一番の楽しみの一つは,「マタイ受難曲」をはじめとするバッハの受難節・復活節にちなんだ教会音楽を聴くことである。本書は,「ドイツ音楽歳時記」という副題がある通り,ドイツの四季折々の自然と祭事・習俗(謝肉祭,イースター,クリスマス等々)をそれに関係したバッハの教会音楽(主にカンタータ)によって綴った歳時記である。まだまだ日本では一般に聴かれる機会の少ないバッハの教会カンタータを聴くためのよき入門書となっていると同時に,西欧のキリスト教文化を理解するために不可欠な「教会暦」の分かりやすいガイドたり得ている。


天使の事典
ジョン・ロナー 著/鏡 リュウジ・宇佐和通 訳(柏書房)¥2,800

 キリスト教絵画によく登場する天使だけでなく,バビロニアやエジプト,イスラム教の天使まで登場する。さらに悪魔や堕天使までを包括した事典。誰でも名前は知っているガブリエル,ラファエルが,実際はどのような天使なのかといったことも分かり読み物としても興味深い一冊である。



聖者の事典
エリザベス・ハラム 編/鏡 リュウジ・宇佐和通 訳(柏書房)¥2,800

 上記の「天使の事典」の姉妹編。西洋にはこんなにたくさんの聖者がいたのかと改めて感心させられる。ほとんど毎日が誰かしら聖者の祝祭日なのだ。日本でも,受験,出産,病気など,特定のことに特にご利益のある神様がたくさんいる。同じ役割をこれらの聖人がになっていると考えると,東西を問わず人間の悩みの多さ,深さを考えさせられる。 西洋文化(特にカトリック)の文化を知る上で興味深い本である。


聖書の世界
白川義員 著(新潮社 とんぼの本)¥1,100

 4年間通った京都ノートルダム女子大の卒業祝に大学からもらった「聖書紀行」ともいうべき一冊。荒涼とした世界でユダヤ教やキリスト教が生まれた。多湿で温暖な日本で聖書をいくら読んでも理解できない部分があることも,写真で見ると何だか分かるような気がしてくる。


マリアのウィンク (聖書の名シーン集)
視覚デザイン研究所 編¥1,800

 旧約聖書の天地創造から新約聖書の最後の審判,さらには聖人伝までを含む,「聖書」の分かりやすいイントロダクションといった感じの一冊である。聖書の記述にそって有名な絵画の紹介もあるので,とてもおもしろい。絵は下記の「天使のひきだし」と同じキュートでシンプルなものであるが,軽快な感じの見かけにもかかわらず,内容は結構詳しく,キリスト教絵画につきものの「シンボル」についても解説があり,勉強になる一冊。


天使のひきだし (美術館に住む天使たち)
視覚デザイン研究所 編¥1,800

 キリスト教だけでなく,イスラム教,仏教の絵画で天使が出てくるパターンをキュートな天使たちが解説する。しかし,やはりこの本でもキリスト教の天使が主人公。昔キリストやマリア,聖人の恩寵の深さを,無知な民衆に教えるため,絵画や彫刻で視覚的に具体化されたのが天使なのかもしれない。ありとあらゆる場面で登場する天使たちはさぞかし忙しいことだろう…。


イメージの博物誌31 天使
P.L.ウィルソン 著/鼓 みどり 訳(平凡社)¥2,000


 多くの宗教で天使は人間を励ます存在である。私たちは天使といえばキリスト教での白い羽を背負い白いドレスを着た大天使や,縁結びをするキューピッドのイメージを持つ。だが仏教国である日本でも,様々な楽器を手に天上の音楽を奏でる天使の壁画を寺で見ることができる。とても人間に近しい存在である天使を多くの写真で紹介する興味深い本である。


システィーナのミケランジェロ
青木 昭 著(小学館 Shotor Museum)\1,800

 1980年から1993年にかけて行われたバチカン・システィーナ礼拝堂の修復の結果,多くの驚くべき発見が報道された。ミケランジェロが最初に描いた巨大な壁画が修復され現代に色鮮やかに蘇った姿を美しい写真で紹介する一冊。修復の結果,鮮やかに姿を現した多くの人物像は息を呑むほど美しい。私たちはハネムーンにイタリアを旅行したが,その時は修復の最中でこの壁画を見ることができなかった。心から実物をこの目で見たいと思わせる一冊である。


天使の廻廊
田原桂一 著(新潮社) \2,200

 Les Anges des Confins というフレグランスを染み込ませた芳香紙をもちいた本書は,美しく素朴な天使の写真集である。確かにイタリアにはローマというカトリックの総本山もあり,有名な彫刻家も歴史上数多く輩出している。しかしながら,この写真集に収められている天使は,ユーゴスラビアの教会や修道院にひっそりと飾られているものである。決して華麗でも壮大でもないが,何ともいえない気品の漂っている天使である。


中世 祈りのかたち
山崎 脩 著(東方出版) \2,500

 スペイン・フランスでの「祈りの形」をさぐる写真集。日本の道祖神のような役割を果たす道端の石の十字架や,崩れて草生した教会や修道院。決して立派とはいえない小さな村の教会。しかし,どこの教会にも敬虔な人々の祈りが染み込んでいる。さらにはロマネスク様式・ゴシック様式と立派になる教会・修道院の姿にも祈りは存在する。祈りを忘れてしまった日本人には何となく懐かしい情景である。


絵画で読む聖書
中丸 明 著(新潮社) \1,900

 たくさんの名画・図版もあり,読み物としてはとても面白い。有名な聖書の登場人物たちが「名古屋弁」で話しているのも何となくユーモラス。しかしながら,聖書にはのっていないユダヤの伝説の女性(アダムの最初の奥さん??)のリリスの話や,新約聖書ではさらっと描かれる受胎告知のシーンなどを,神様の出歯亀扱いするとは,クリスチャンでなくてもちょっと行き過ぎじゃないの?と首をかしげてしまう箇所も多い。著者はすごい量の文献をこなしているのが分かるだけに,キリスト教の聖書ではなく,スキャンダラスな「性書」にしてしまっているのは残念である。