楽譜


■One Hundred English Folksongs

Edited by Cecil J. Sharp (Dover Book) $16.95
 イングランド民謡のコレクターであったセシル・シャープ(1859-1924)が全イングランドにわたって収集した民謡の中から100の民謡を収録したもの。スコットランド民謡やアイルランド民謡に比べると,日本で知られているものは少ないかもしれないが,スカボロー・フェアはサイモン&ガーファンクルのアレンジでヒットした(この楽譜に収められた原曲は似ているがもっと素朴である)のでご存知の方も多かろう。基本的に1曲が中声部とピアノのパートからなる2〜3ページの簡明なスコアにまとめられており,誰でも実際にどんな曲か容易に確かめるのことができる。イングランド民謡はメロディアスというより非常に素朴な歌が多い。スコットランド民謡やアイルランド民謡と違ってテレビのCMに使えそうな曲はほとんどないけれども,逆にそれがいかにも昔ながらの民謡という雰囲気を醸し出している。
 日本のメゾ・ソプラノ波多野睦美が歌ったCD「イギリスの愛の歌」サリー・ガーデンには,この楽譜に基づいたスカボロー・フェアとボニー・ボーイが収められている。その他の歌も含め,大変すばらしい選曲と演奏なのでぜひ一聴をお薦めしたい。
 



■英語の歌

河野一郎 著(岩波ジュニア新書)¥670
 英語の歌詞と日本語対訳が載っていて,自分で歌えるような楽譜も載っていて,しかも簡単な曲目解説がついているという,イギリスの民謡や童謡のためのハンディな本は,実はありそうでなかなかない。本書はイギリスの歌だけを扱っている本ではなくて,アメリカの歌も含んでいるのだけれども,イギリスのマザー・グースや民謡のメロディーを知って歌うには格好の本。
 この本を読み直していて偶然発見したのだが,今日本で大ブレイク中の「大きな古時計」(アメリカ民謡:"Grandfather's Clock")は,「100年休まずにチックタック,チックタック…」ではなく,何と原曲では「90年間眠りもせずにチックタック,チックタック…」しているのであった。たしかに,日本語では90年より100年と言った方が自然だもんなあと妙なところで感心してしまった。皆さんご存知でしたか?



■Tinder-box 66 songs for children

(A&C Black) £9.99
 バースのミュージックショップで見つけた楽譜。子ども向けの楽しい歌を66も集めた英国の音楽教育に用いる楽譜集である。教育目的に限っては自由にコピーして使うことが許可されている。表紙の絵を見れば想像がつくように,この楽譜集は歌うだけでなく,子どもたちがさまざまな楽器(ピアノ,ギター,トライアングル,タンバリンなど)による伴奏もできるように,よく考えられてつくられている。「ところ変われば品変わる」で日本でもポピュラーな歌は"Puff the magic dragon"など一部の歌を除くとあまりないが,英国における音楽教育の一端が見えてくる楽譜として価値の高いものである。



■English, Welsh, Scottish & Irish Fiddle Tunes

(Oak Publications) $19.95
 クラシックの「ヴァイオリン」ではなくて,カントリー,それも英国の「フィドル」の楽譜というのは,日本では需要がないだけになかなか見る機会がない。その点で,イングランド,ウェールズ,スコットランド,アイルランドのフィドルの曲を100曲以上も収録したこの楽譜は貴重である。ヴァイオリンを弾く人以外にもこの楽譜をお薦めしたい理由としては,1曲の長さが短く弾くのが簡単で,ヴァイオリン以外にもギター,マンドリン,テナーバンジョ,フルート,アコーディオンでも演奏できるようにアレンジされていること,フィドル・ミュージックの歴史や曲の背景について丁寧な解説があること,歴史的に貴重な図版(例えば17世紀のモリス・ダンサーの絵)が多数収録されていること,全曲ではないが実際の演奏のCDが付いていること,などがある。英国の民俗音楽に興味のある人にとっては非常に有益な楽譜兼解説書。



■100 Carols For Choirs

Edited and arranged by D. Willcocks & J. Rutter (Oxford University Press) $17.95
 英国キャロル好きが嵩じてちょっとした楽譜集では満足できなくなった人たちにお薦めしたい本。Oxford University Pressが威信をかけて編纂したCarols For Choirsシリーズから74曲の最もポピュラーなキャロルを選び,さらに比較的新しいキャロルやトラディショナル・キャロルの新しいアレンジを26曲加えている。編集とアレンジが英国合唱指揮界における第一人者ディヴィッド・ウィルコックスと,英国現代最高の合唱音楽作曲家ジョン・ラターという豪華さ。いろいろなキャロルのCDで聴かれるアレンジと聴き比べてみても楽しいし,もちろんコーラスで実際に歌うときにも役立つ実用的な楽譜集でもある。クリスマスの本番でやるためには,夏からの準備が必要である!



■The Oxford Christmas Carol Books

(Oxford University Press) £9.95
 60ものクリスマスキャロルが収められている楽譜集。英国の古典的なキャロルは大体入っている。クリスマスにちなんだ美しい絵画も多数載せられており,見ているだけでも楽しいし,もちろん実際に歌ってもいい。伴奏も付けられるようになっている。英国キャロルの入門としてうってつけの本。