English Poetry

All's well that ends well. (William Shakespeare)

BGM is Robert Burns's famous folk song "Ye Banks & Braes O' Bonnie Doon".



 英国は昔から今に至るまで,とりわけ多くの大詩人を生み出してきた国でした。その最高峰は,登場人物の話す一語一語がすばらしい「詩」になっている劇をつくった,人類史上最大の劇作家にして詩人のウィリアム・シェイクスピアでしょう。19世紀には,まるでシェイクスピアの霊感を受け継いだようにワーズワース,コウルリジ,バイロン,シェリー,キーツといったいかにもロマン派の時代らしい天才的な詩人が次から次へと現れ,百花繚乱の観を呈します。時代が下って,アメリカ生まれの詩人T・S・エリオットやパウンドが英国に定住したのも,英国という国に詩人の心をひきつける何かがあるからでしょう。アイルランドの大詩人イェイツや,シェイクスピアと同時代の個性派詩人ジョン・ダンなども忘れるわけにはいきません。「詩」こそ英国の生み出したあらゆる文化の中で最も芸術的・普遍的価値の高いもののひとつでしょう。日本でも明治以来多くの英詩が人々に愛されてきました。日本語による歴代の名訳を味わうことは,日本人が英詩をどのように受容してきたかという歴史に触れることでもあります。青春時代に読んで以来英詩はご無沙汰という方も,これから少し英詩を読んでみようという方も,難しいことは抜きにして,すばらしい"English Poetry"の世界に遊んでみませんか。


INDEX
■中世イギリス英雄叙事詩
■ウィリアム・シェイクスピア(1564-1616)
■ジョン・ダン(1572-1631)
■アンドルー・マーヴェル(1621-1678)
■ウィリアム・ブレイク(1757-1827)
■ロバート・バーンズ(1759-1796)
■ウィリアム・ワーズワース(1770-1850)
■サミュエル・テイラー・コウルリジ(1772-1834)
■ジョージ・ゴードン・バイロン(1788-1824)
■パーシー・ビッシ・シェリー(1792-1822)
■ジョン・キーツ(1795-1821)
■アルフレッド・テニスン(1809-1892)
■ジョゼフ・ルディヤード・キップリング(1865-1936)
■ウィリアム・バトラー・イェイツ(1865-1939)
■エズラ・パウンド(1885-1972)
■T・S・エリオット(1888-1965)
■コレクション
■評論・研究書


ウィリアム・シェイクスピア(1564-1616)

作品
 シェイクスピアが劇作品の分野で世界の文学史上に残した偉大な功績について,私が今さら言うことは何もない。しかし,シェイクスピアは本質的な意味で劇作家であると同時にまず「詩人」であった。彼の劇作品は,ほとんど散文ではなく強弱調五詩脚からなる無韻詩のスタイルで書かれている。そんな詩の理論を脇に置いておくとしても,登場人物同士が交わす流れるような美しい会話,含蓄と想像力に富んだ忘れがたい言葉の数々は,まさに彼の劇作品が最高の「詩」であることの証である。
 劇作品に比べると,シェイクスピアの純粋な詩集の数はわずかである。しかし,彼の霊感はとくに「ソネット集」において豊かに息づいている。この「ソネット集」を含め,彼の全詩作品を年代順にあげると以下のようになる。
  1. 「ヴィーナスとアドニス」(Venus and Adonis;1593)
  2. 「ルークリースの陵辱」(The Rape of Lucrece;1594)
  3. 「恋する巡礼者」(The Passionate Pilgrim;1599)
  4. 「不死鳥と山鳩」(The Phoenix and the Turtle;1601)
  5. 「愛人の嘆き」(A Lover's Complaint;1609)
  6. 「ソネット集」(Sonnets;1609)
 これらの詩作品は,いずれも劇作品ほど一般に親しまれているとはいえない(とくに日本では)。「ヴィーナスとアドニス」と「ルークリースの陵辱」は,シェイクスピア自身が詩人として出版したただ二つの作品で,共にサウザンプトン伯に献呈された長編物語詩である。前者はオヴィディウスの「転身物語」に拠っており,愛の女神ヴィーナスと美少年アドニスの恋がモチーフとなっている。明るい官能に彩られたこの作品に比べて,「ルークリースの陵辱」は暗く重い作品で,邪悪な王子タークインに陵辱された古代ローマの貞女ルークリースの悲劇を詠っている。
 「恋する巡礼者」はウィリアム・ジャガードが編纂した20編の詩を収めた詩集であり,W・シェイクスピア作ということで刊行されたが,実は彼の真作はわずか5篇で,しかもこれらは「ソネット集」と喜劇「恋の骨折損」を部分的に変えただけのものである。「不死鳥と山鳩」は現在でも解釈が定まっていない難解な詩で,鳥たちの召集に始まり,最後は「理性」が歌う「挽歌」によって終わる。非常に象徴的・暗示的な詩である。「愛人の嘆き」は「ソネット集」のあとに付して出版されたと言われているが,シェイクスピアの真作であるかどうかは議論が分かれている。美貌の青年の裏切りが主題の詩である。
 私がいちばん好きなシェイクスピアの詩集は断然「ソネット集」である。ソネットとはエリザベス朝時代に流行したいわゆる14行詩であるが,彼の天才は,わずか14行のうちに,彼の最高の劇作品に匹敵するようなすばらしい言葉を惜しげもなくちりばめている。「ソネット集」は全部で154篇のソネットを含んでいるが,構成的に大きく2部に分けられる。第1番から第126番までは詩人の「友」である貴公子に宛てられており,第127番から第152番までは詩人の「恋人」である「黒い女性」に宛てられている。最後の2編は先行するどちらのモチーフにも関係ないキューピッドの詩である。しかし,シェイクスピアのソネットを味わう上で,誰が詩の対象であったかをいちいち考える必要はない。14行の詩に込められた豊饒な言葉の魔術に酔うだけで十分である。

文献
「新修シェークスピヤ全集 第三十九巻 詩篇 其二(ソネット集)」 坪内逍遥 訳(中央公論社)1934年11月25日初版 七十銭

 現在でこそ,シェイクスピア全作品の完訳と聞いても別に驚きはしないが,昭和初期の時代に刊行された坪内逍遥による「新修シェークスピヤ全集」の刊行は,真に画期的といえる偉業であった。その文語訳は鑑賞目的としては古すぎるが,日本で初めての本格的シェイクスピア全集としての価値が減じることはない。この第三十九巻は「ソネット集」だけを収めた巻であるが,全240ページのうち,作品の解説に64ページが割かれており,日本にシェイクスピアを広めたいという坪内逍遥の強い意気込みが感じられるのである。


「シェイクスピア全集8 悲劇III 詩」 (筑摩書房)1967年9月23日初版 ¥1,900
 本書は筑摩書房から刊行されたシェイクスピア全集 全8巻の最終巻で,「ソネット集」のほかに,上述した詩作品がすべて収録されている。日本を代表する詩人であった西脇順三郎の流麗な訳による「ソネット詩集」がすばらしい。


まずはこの詩から
Sonnet 18
Shall I compare thee to a summer's day?
Thou art more lovely and more temperate:
Rough winds do shake the darling buds of May,
And summer's lease hath all too short a date:
Sometime too hot the eye of heaven shines,
And often is his gold complexion dimm'd;
And every fair from fair sometime declines,
By chance, or nature's changing course untrimm'd;
But thy eternal summer shall not fade,
Nor lose possession of that fair thou ow'st,
Nor shall death brag thou wander'st in his shade,
When in eternal lines to time thou grow'st;
So long as man can breathe, or eyes can see,
So long lives this, and this gives life to thee.

ソネット 第18番
君を夏の日にたとえても
君はもっと美しいもっとおだやかだ
手荒い風は五月の蕾をふるわし
また夏の季節はあまりにも短い命。
時には天の眼はあまりにも暑く照る
幾度かその黄金の顔色は暗くなる
美しいものはいつかは衰える
偶然と自然のうつりかわりに美がはぎとられる。
だが君の永遠の夏は色あせることがない
君の美は失くなることがない
死もその影に君を追放する勇気はない
君は永遠の詩歌に歌われ永遠と合体するからだ。
人間が呼吸する限りまた眼が見える限り
この詩は生き残り,これが君を生かすのだ。

 西脇順三郎 訳 「シェイクスピア全集8 悲劇III 詩」 (筑摩書房)より

 第18番はシェイクスピアの「ソネット集」で最も有名なものの一つ。冒頭の"Shall I compare thee to a summer's day? "(君を夏の日にたとえても)が読む者に強い印象を与えずにはおかない絢爛たる美の賛歌。


Sonnet 153
Cupid laid by his brand and fell asleep;
A maid of Dian's this advantage found,
And his love-kindling fire did quickly steep
In a cold valley-fountain of that ground;
Which borrow'd from this holy fire of Love
A dateless lively heat, still to endure,
And grew a seething bath, which yet men prove
Against strange maladies a sovereign cure.
But at my mistress' eye Love's brand new-fired,
The boy for trial needs would touch my breast;
I, sick withal, the help of bath desired,
And thither hied, a sad distemper'd guest,
But found no cure: the bath for my help lies
Where Cupid got new fire, my mistress' eyes.

ソネット 第153番
キューピッド(愛の神)が松明をわきにおいて眠っていた
ダイアナ(月の女神)の侍女がこのすきに乗じて
その愛に火をつける松明を急いで
そこに湧く冷たい山の泉に漬けてみた。
この愛の神聖な火から永久に燃える熱を借りて
沸騰する温泉が沸いたのだが今では
人々は不治の不思議な病を治すのに
よく利く霊薬だと実験したのだ。
だが私の愛人の眼から新たに火をつけた松明を
キューピッドは僕の胸に当てて実験したに違いない
僕はそれで病気になり温泉の助けを求めて
そこへかけつけた気の毒な病める客となった。
でも直らなかったが僕を治してくれるこの温泉は
僕の愛人の眼からキューピッドが新たに火をつける処であるからだ。

 西脇順三郎 訳 「シェイクスピア全集8 悲劇III 詩」 (筑摩書房)より


 第153番は「ソネット集」の中では例外的にキューピッドを詠ったもので,彼のソネットの中では必ずしも出来がよいとはいえない。しかし,この作品を取り上げたのは,このソネットの中に温泉街バースが登場するからである。エリザベス朝の時代には性病が大流行し,その患者はバースで温泉に入浴することで病気を治そうとした。しかし,当たり前のことだが,病気が必ずしもよくなるわけではなく,そのことが最後の2行に詠われているわけである。シェイクスピア自身がバースを訪れたという記録はないが,意外なところでバースがシェイクスピアとつながっていることを示した作品。

こんな本もお薦め
 シェイクスピアが劇作品の登場人物に語らせた忘れがたい名言の数々は,それ自体が一篇の「詩」である。こちらの方は,シェイクスピア学の泰斗,小田島雄志氏の
「シェイクスピア名言集」でどうぞ。


ロバート・バーンズ(1759-1796)

作品
 スコットランドの国民詩人としてあまりにも有名なロバート・バーンズは,古くから伝わるスコットランド民謡や,バーンズの先駆者ともいえるスコットランドの詩人アラン・ラムゼイ(1686-1758)の詩に早くから親しんだ。農業を営みつつ詩作にいそしんだ彼の生涯は,これも私の大好きな日本の農村詩人宮沢賢治の生涯と共通するところがある。スコットランドをこよなく愛したバーンズは,詩にスコットランド方言を積極的に用い,抽象的・象徴的な詩よりは,直截的で真情の吐露を宗とする天真爛漫な詩を多く書いた。
 彼の本格的な最初の詩集"Poems, chiefly in the Scottish dialect, 1786 (詩集,主にスコットランド方言にて)"は大反響となり,エディンバラに赴いたバーンズは人々の熱烈な歓迎を受けた。これが単にスコットランド方言だからという理由だけでスコットランドの人々に迎えられたのならバーンズも一介の田舎詩人で終わっていただろうが,みずみずしい感情の吐露に溢れたバーンズの詩は「宿敵」イングランドの人々にも広く愛読されたという。一方でバーンズはスコットランド民謡をこよなく愛し,自らスコットランドの古い民謡の詩を数多く新たに書いている。"The Scots Musical Museum, 1796 (スコットランド歌曲集)"の中の"Auld Lang Syne"(古き良き時代,日本では「蛍の光」として知られている)や"Comin Thro' The Rye"(故郷の空)はとくに有名である。作詞や編曲にとどまらず,バーンズはスコットランド方言による歌の作曲も手がけており,多くの素朴な民謡風の歌を残している。
 ロバート・バーンズという一人の詩人が37年という短い生涯に残した情熱的な詩の数々は,スコットランドの人にとって誇りであるばかりでなく,今や詩やスコットランド民謡を愛するすべての人にとってかけがえのない宝ものである。

文献
「バーンズ詩集」 中村為治 訳(岩波文庫)1928年6月25日初版 ¥520

 初版は今から70年以上前で,復刊された版にも昔の旧字・旧仮名づかいがそのまま使われており,決して読みやすい本とはいえない。しかし,文語調の訳の格調の高さ,訳語の響きの美しさ,バーンズの情熱を伝える熱い言葉,どこをとってもすばらしいというしかない名訳である。この中村為治の訳でバーンズの詩に親しんだ人は,たとえこれから新訳が出たとしても,乗り換える気にはならないであろう(少なくとも私はそうだ)。短い「序」で訳者はこう述べている。「我はバーンズを愛す。…彼は熱情の人なり。彼は正直にして素直なり。彼は貧の苦しきを知り,生の楽しさを味へり。…人よ讀みて彼の友となり給へ。而して我と共に彼を我がロバートと呼び給へ。」 日本人としてロバート・バーンズをおそらく最も愛した訳者が全精魂を傾けて訳したこの詩集は,時代を超えて読む人の心を強く打つだろう。


まずはこの詩から
My Heart's In The Highlands (1789)
My heart's in the Highlands, my heart is not here,
My heart's in the Highlands, a-chasing the deer;
Chasing the wild-deer, and following the roe,
My heart's in the Highlands, wherever I go.
Farewell to the Highlands, farewell to the North,
The birth-place of Valour, the country of Worth;
Wherever I wander, wherever I rove,
The hills of the Highlands for ever I love.

Farewell to the mountains, high-cover'd with snow,
Farewell to the straths and green vallies below;
Farewell to the forests and wild-hanging woods,
Farewell to the torrents and loud-pouring floods.
My heart's in the Highlands, my heart is not here,
My heart's in the Highlands, a-chasing the deer;
Chasing the wild-deer, and following the roe,
My heart's in the Highlands, wherever I go.

我が心はハイランドにあり
我が心はハイランドにあり,我が心は此処にあらず。
我が心はハイランドにありて鹿を追う。
野の鹿を追いつつ,牡鹿に従いつつ,
我が心はハイランドにあり,我何処へ行くも。
いざさらばハイランドよ,いざさらば北の国よ。
剛勇の生地よ,価値ある者の国よ。
我何処を彷徨うも,我何処を漂泊うも,
ハイランドの山を我永遠に愛す。

いざさらば山々よ,高く雪におおわれたる。
いざさらば大豁よ,また下なる緑の谷よ。
いざさらば林よ,また生い茂れる森よ。
いざさらば急流よ,どうどうと流るる川よ。
我が心はハイランドにあり,我が心は此処にあらず。
我が心はハイランドにありて鹿を追う。
野の鹿を追いつつ,牡鹿に従いつつ,
我が心はハイランドにあり,我何処へ行くも。

 中村為治 訳 「バーンズ詩集」 (岩波文庫)より
 *原文の旧漢字・旧仮名づかいを現代表記に改めました。



 熱烈な愛国者にして国民詩人であるバーンズにスコットランドを詠った詩数多しといえども,これほどまでにハイランドに寄せる熱い思いをストレートに吐露した詩はないといってよいだろう。ハイランド人でなくとも,いやハイランドに行ったことすらない人の胸をも熱くしてくれる絶唱である。この中村為治の訳で長く日本人に親しまれてきた「我が心はハイランドにあり」も,実は純粋な詩ではなく,「歌」の歌詞として書かれたものである。言葉に繰り返しが多いのもそのためである。それにしても,「我が心はハイランドにあり」という冒頭の一句はあまりにも印象的だ。この詩を読めば,誰しもバーンズの故郷ハイランドとはそんなに良いところなのかと思い,是非とも行ってみたくなるだろう。私もそうだ。ハイランドの急流や野鹿を自分の目で見てみたい。でも残念ながらすぐには実現できそうにもない。今はハイランドのスコッチ・シングル・モルトでも飲んで,遥か北の国に思いを馳せることとしよう。


A Red, Red Rose (1794)
O my Luve's like a red, red rose,
That's newly sprung in June:
O my Luve's like the melodie,
That's sweetly play'd in tune.

As fair art thou, my bonie lass,
So deep in luve am I;
And I will luve thee still, my dear,
Till a' the seas gang dry.

Till a' the seas gang dry, my dear,
And the rocks melt wi' the sun;
And I will luve thee still, my dear,
While the sands o' life shall run.

And fare-thee-weel, my only Luve!
And fare-thee-weel, a while!
And I will come again, my Luve,
Tho' 'twere ten thousand mile!

我が恋人は紅き薔薇 (訳1)
我が恋人は紅き薔薇,
六月新たに咲き出でし。
我が恋人は佳き調べ,
調子に合せ妙えに奏でし。

斯くも美わし,我が乙女
斯くも深くぞ我は愛する。
而して我は変らず愛せん,
海悉く涸るるまで。

海悉く涸るるまで,
また岩陽にて溶くるまで。
而して我は変らず愛せん,
我に生命のある限り。

いざさらば,我がまた無き君よ,
いざさらば,暫しが程ぞ!
我は再び帰り来たらん,
千里の道の距つるあるも。

 中村為治 訳 「バーンズ詩集」 (岩波文庫)より
 *原文の旧漢字・旧仮名づかいを現代表記に改めました。



赤い薔薇 (訳2)
俺の恋人よ,お前は赤い薔薇だ,
六月にぱっと咲いた赤い薔薇だ。
お前はまるで甘い音楽だ,
見事に奏でられた甘い音楽だ。

お前の美しさに負けまいと,
俺の恋も命がけ,おお,俺の可愛い恋人よ!
いつまでも俺の心は変わりはしない,
たとえ海という海が干上がろうと。

たとえ海という海が干上がろうと,
たとえ岩という岩が太陽に溶けようと,
俺の心は変わりはしない,いつまでも,
そうだ,俺の命がある限り, ―おお,恋人よ!

さようなら,俺のたった一人の恋人よ,
ちょっとの間だ,さようなら!
俺は必ず戻ってくる,おお,俺の恋人よ,
千里の彼方からでも戻ってくる!

 平井正穂 訳 「イギリス名詩選」 (岩波文庫)より


 "A Red, Red Rose"はバーンズの最もよく知られた詩の一つで,"The Scots Musical Museum, 1796 (スコットランド歌曲集)"に収められている。恋人に対する熱烈な愛の詩であるが,ここでは新旧2つの訳で読んでいただこう。旧の方は,"My Heart's In The Highlands"と同じ中村為治の訳。そして新の方は,平井正穂の訳である。文語調で格調の高い中村為治の訳では,「我」は教養のある文学青年という感じがするのに対し,平井正穂の訳の「俺」は逞しい直情の農夫という感じがする。訳が変わると,これだけ詩のイメージも変わるのである。私自身は,少し古めかしい感じがするものの,中村為治の簡潔な旧訳の方がリズム感があって好きであるが,皆さんはいかがでしょうか。


バーンズの歌を聴こう!

Robert Burns The Complete Songs Volume 8
LINN CKD 143

 マニアに評価の高いオーディオ・メーカーにして個性的なCDレーベルでもあるスコットランドのLinn Recordsは,ロバート・バーンズ没後200周年を記念して,バーンズの全368曲の歌を12枚のCDにする一大プロジェクトを進めている。バーンズの詩の愛好者にとっては,まことに嬉しい企画である。全368曲の中には,よく知られた古謡にバーンズが新しく歌詞をつけた曲(例えば"Auld Lang Syne"や上の"A Red, Red Rose")はもちろんのこと,バーンズ自身の作曲による歌もすべて含まれている。つい最近,最新のVol.9が本国で発売され,この中には,上で紹介した"My Heart's In The Highlands"も収録されている。私などは12枚全部をぼちぼちと揃えたいと思っているが,そこまではちょっと…という人には,有名曲が収録されている"Auld Lang Syne"というタイトルのベスト・アルバム(LINN CKD 088)もある。英国の第一線で活躍しているフォーク・シンガーやミュージシャンが数多く参加しており,演奏は一級品。そして,こだわりのオーディオ・メーカーが出しているCDだけに臨場感溢れた録音も優秀。スコットランド情緒満点の民俗楽器の伴奏とともに,素朴で楽しいバーンズ・ソングを楽しもう!