ダレン・シャン


ダレン・シャン
ダレン・シャン 作/橋本 恵 訳(小学館)¥1,600

 のっけから恐縮だが,本の内容がどうこう言う前に,帯の宣伝文句「「ハリー・ポッター」の作者J.K.ローリングが激賞!」は,いかにも便乗商法という感じでいただけない。さらに「ワーナーズ・ブラザーズ映画化権取得!」という文字も躍っているのだが,世の中がすべて「ファンタジー」→「ベストセラー」→「映画化」とパターン化されていくようで,全部が全部これでいいのかしら?と思ってしまうのも事実だ。でもこの出版不況のご時世で,ファンタジーだけが好調というから,あまり目くじらを立てるべきではないかもしれない。本当に優れた作品かどうかは時間が評価してくれるだろう。
 さて,現在第3作まで出ている「ダレン・シャン」シリーズだが,邦訳ではこの第一作「ダレン・シャン」に「奇怪なサーカス」という副題がついている。しかし,原題では"Cirque Du Freak by Darren Shan"となっており,まさにフリーク(異形)のサーカスに関係した話であることが分かる。さらに,冒頭には「作品中のサーカスのメンバーの特徴に対し,不快の念を抱かれる読者の方がおいでになるかもしれませんが,原作を重視し,原作者の意図を活かすことを考え,あえてそのまま掲載しました。」という注がある。これだけでも,「ダレン・シャン」は「ハリー・ポッター」のような万人向きのファンタジーとはいえないだろう。さらに,「血」や「蜘蛛」が嫌いな人にこの本は薦められない。どちらも,この作品の重要なキーワードなのだ。…と舞台設定はちょっとおどろおどろしいが,ストーリー自体は分かりやすい。
 主人公であるダレン・シャン少年は,町外れでこっそりと開かれた「奇怪なサーカス」を見に行き,バンパイア(吸血鬼)であるクレプスリーが操る巨大な毒蜘蛛「マダム・オクタ」に魅せられ,盗んできて自分の部屋で飼うのだがこれが不幸の始まり。マダム・オクタの毒牙にかかった友人のスティーブを救うため,クレプスリーの交換条件を飲んでバンパイアになり,最後には家族と住む家を去り闇の世界へと旅立って行く…。普通の少年が運命のいたずらでバンパイアになるという設定はおもしろいのだが,なぜダレンがこれほどまでに巨大な毒蜘蛛「マダム・オクタ」に惹かれたのかという肝心なところが迫真の心理描写とはなっていないのでひっかかる。スティーブが毒蜘蛛に噛まれたことをダレンは結局両親や医者に言えないのだが,逡巡するダレン少年の気持ちの描き方ももうひとつと感じた。ストーリーの素材や話のテンポ感としてはいいものを持っているだけに少し残念である。ともあれ,今やバンパイアとなったダレン少年のファンは多いらしい。この作品を子どもにあまり刺激が強くないように映画化できるのだろうか?