ジョージ・マクドナルド


金の鍵
ジョージ・マクドナルド 作/脇 明子 訳(岩波少年文庫)¥600

 ジョージ・マクドナルド(1824-1905)はスコットランドのハントリーに生まれ,英国ファンタジーの黎明期に活躍した大作家。親交のあった「ふしぎの国のアリス」のルイス・キャロルなどと共に英国のファンタジーの基礎を築いた。この本には「魔法の酒」,「妖精の国」,「金の鍵」という短中編ファンタジーが三作収められている。どの作品も妖精が登場する幻想的で神秘的ないかにも英国らしいファンタジーである。とくに代表作の一つ「金の鍵」のすばらしさ。金の鍵をみつけた少年が妖精の国で鍵穴を探す不思議な冒険と神秘的な情景。まさにファンタジーの中のファンタジーと呼ぶにふさわしい。


かるいお姫さま
ジョージ・マクドナルド 作/脇 明子 訳(岩波少年文庫)¥600

 「かるいお姫さま」は,魔女に呪いをかけられてふわふわ浮いてしまうお姫さまが王子さまに助けられて重さを取り戻すという奇想天外なファンタジー。伝統的な昔話のスタイルを踏襲しながらも,大人が読んでにやりとさせられる風刺がきいているところは,やはり中世の昔話ではなく,19世紀の昔話なのだ。併収されている「昼の少年と夜の少女」はとりわけ宗教的・象徴的な雰囲気が漂うファンタジーで,フリーメーソンの秘儀を題材にしたといわれるモーツァルトの歌劇「魔笛」をある意味で思わせる。出版当時のアーサー・ヒューズの挿絵がファンタジックですばらしい。


お姫さまとゴブリンの物語
ジョージ・マクドナルド 作/脇 明子 訳(岩波少年文庫)¥700

 続編の「カーディとお姫さまの物語」と共にスリルに満ちたおもしろさが存分に味わえる長編冒険ファンタジー。勇敢な少年鉱夫のカーディが,地下の国に住む邪悪な妖精ゴブリンたちから誘拐されたお姫さまを救い出すべく知恵と勇気の限りを尽くして戦いを挑む。最後まで手に汗にぎらせるスリリングな展開は現代の並のファンタジーなど及びもつかぬおもしろさ。


カーディとお姫さまの物語
ジョージ・マクドナルド 作/脇 明子 訳(岩波少年文庫)¥700

 「お姫さまとゴブリンの物語」に続く続編。今度は敵がゴブリンから王国の簒奪を狙う「悪人たち」へと変わる。またまた勇敢で聡明なカーディ少年が,今回は怪獣たちの助けを得て悪人たちをこらしめ,王国に平和を取り戻すというストーリー。結末は児童文学にふさわしくなく悲劇的で,お姫さまと結婚して国王となったカーディには世継ぎができず,欲にくらんだ後の王様のせいで国が滅んでしまう。産業革命の発展で妖精の住む場所が少なくなってしまったマクドナルドが彼なりの書き方で英国の人々に警鐘を鳴らしたのだろうか。「お姫さまとゴブリンの物語」ともども漫画家の竹宮恵子が現代的でおしゃれな挿絵をつけている。


リリス
ジョージ・マクドナルド 作/荒俣 宏 訳(ちくま文庫)¥806

 本書はマクドナルドの最晩年に書かれた大長編ファンタジーで,彼の最高傑作との評もある。ルイス・キャロルやJ・R・R・トールキンにも影響を与えた作品であるという。「リリス」とは何者か?解説によればヘブライの伝承に出てくるアダムの最初の妻で,もともとは天使だったが,やがて人の子イヴにアダムを奪われ邪悪な妖精になったという。夢と現実,天上と地上,昼と夜,冒険と瞑想,相対するあらゆる概念を飲み込んでマクドナルドの想像力が最後の輝きを見せるアダルト・ファンタジーの神髄。