The Holly and the Ivy


 「柊と蔦は」の邦名で知られるこのキャロルは,賛美歌第二編第217番として日本でも親しまれている。18世紀初頭の作といわれるトラディショナル・イングリッシュ・キャロルの一つであるが,音楽と歌詞の大部分を収集したのは,コッツウォルズのチッピング・カムデンで歌手をしていたCecil Sharpである。このキャロルの歌詞には,ケルトの異教的な色が濃い。柊は男性の,蔦は女性の象徴として,キリスト教が英国に広まるずっと前からケルトの祭に使われてきたからである。それがキリスト教の時代になって,両方ともイエス・キリストの受難の生涯を象徴するものとなった。歌詞に出てくる「花」はイエスの血を,「冠と刺」はいばらの冠を,「苦い樹皮」は受難の苦しみを意味しているのである。そのような受難の暗喩にもかかわらず,「柊と蔦は」ほど明るく澄んだキャロルも珍しい。ボーイ・ソプラノの澄んだ声がいちばんよく合うキャロルではないだろうか。このキャロルを美しく響かせるためには,文字通り天使の歌声が必要なのである。