インターナショナル・パートナー・グループ



 日本に戻り,海外生活の体験から日本語に不自由な外国人に日本語を教えるボランティアをしているが,バースでも同じような,それも私が外国人として,英語を教えてもらうというグループに参加した。それがインターナショナル・パートナー・グループである。

様々な国の人が集まる
 外国人といっても語学力的に見て色々なレベルの人が集う。ほとんど英語が話せない中国人,メキシコ人。日常的に英語を使う国であるパプアニューギニア人。よく料理の話で盛り上がったスイス人。駄洒落が好きなベネズエラ人。いつも群れになって行動するイラン人。どの人も,夫がバース大学に留学しており,このグループは,バース大学の要請によりクリスティンというイギリス人女性のボランティアにより運営されていた。そして,先生は2人。音楽好きで好奇心旺盛なジュリア。スコットランド人を夫に持ち,文学にも造詣が深いルースである。


左からとしこ,せいじ,ルース ,ジュリア


授業の内容
 このような面々が水曜日の午前10時にウィッコム・バプテスト教会の半地下の部屋に集まる。この教会は,木曜日になるとトトラーグループといって就学前(4才から小学校)の子供達とその親達の遊び場になる。毎回違ったトピックで先生の話を聴いたり,自分の国のことを発表したり,一緒にクリスマス用のお菓子を焼いたり,ピックニックに行ったり・・・と盛りだくさんである。  トピックとしては,外国人として必要なメディアの読み方,買い物の勧め,バースの観光,音楽祭の時期になるとそのパンフレットを皆で読んで,どこに行きたいか発表したりする。また,宿題も出される。新聞の切抜きに対してコメントをレポートにまとめて,提出。それを丁寧に添削してくれたりした。 わたしはそのグループでたった一人の日本人ということが多く,日本人代表?として日本の文化,季節,暦について発表することが出来た。さらには,他の国の文化に触れることも出来とても興味深いグループであった。
 このグループは勉強だけするところではない。不安な気持ちで暮らす外国人の妻達に様々な情報を提供してくれる。面白いのは帰国の時に不必要になったものを新聞広告で売る方法の指導もあったことである。役所の手続きについてもボランティアの英国人が相談にのってくれる。

託児もできる
 ところで,外国人留学生の妻達はやはり私のように小さい子供を持つ母親が多い。私の場合上の子は4歳だったから小学校に通っていたが,下はまだまだ手のかかる2歳児。そんな子供連れでも心配無用。やはりボランティアのお姉さんがベビーシッターをしてくれる。教室になっている部屋の隣にはトイレ付の4畳ぐらいの部屋があって,そこには様々なおもちゃが置かれており,親は子供を気にすることなく勉強できるのだ。もちろん,子供が勉強の部屋に来たって誰もとやかく言わないが。これはすごくありがたいことだった。下の子は英語というより,英国人に自分の言葉を教えていたようだ。いつもロリポップ(ぺろぺろキャンディーのこと)を持ち歩いていた彼は,イギリス人に「あめ!」と教えていた。そして子供達は人種の違いを越えて本当に仲良く遊んでいたものだ。彼と特に仲の良かったスイス人の女の子のキリーは日本に帰る私たちに「列車で追っかけて行くから!」と何度も言って,本当に名残惜しんでくれた。

友人達
 ここで知り合った外国人で特に仲良くなったのはキリーの母親のキャロリーン,パプア・ニューギニアの肝っ玉かーさん,アンジとバッシバ。同じ年の子供がいて,その子に長男の小学校を紹介したメキシコ人フェビオラ。一度ベネズエラ料理をご馳走してくれたかわいいラファエラ坊やの母親ノベリである。

スイス人
 キャロリーンはジュエラーをしていたというチャーミングな女性で,クリスマス前になると,様々な飾り付けをして,私たちを驚かせてくれた。イースターにはグループの仲間に色付け卵の作り方を教えてくれたりする。また,料理,お菓子作りが上手で,イギリスのパンはまずいといって毎日手作りのパンを焼いているというほどお料理自慢なのである。彼女と話していると,必ず「イギリス料理はひどいね!」という結論になり,私はよく後ろにイギリス人がいないか振り返ったものだ。また,料理好きであると同時にアウトドア派でもある彼女は,アクアビクスの先生でもある。キリーを生む直前まで,アクアビクスやサイクリングに汗を流したそうだ。「そんなの大丈夫?」と驚く私に向かって,「病気ではないのだから!」の一言。出産後もすぐ活動に入ったという日本では考えられないすごさである。「日本では出産後1ヶ月は実家に帰ったりして,ゆっくり養生するよ。」というと,「日本人は怠慢だね!」ですって。

パプアニューギニア人1
 アンジはパプア・ニューギニア人で,熱心なクリスチャンである。彼女達こそ母国と英国とのギャップに苦しんでいたようだ。アンジとは長男が同じクラスになったこともありすぐ仲良くなった。彼女にはまたキンバリーという次男と同じ年の女の子,さらにオーストラリアに留学させている長男,ハイスクールにいる次男,と全部で4人の子供がいる。お互い母としてよく子供の教育のことを相談した。彼女の国パプア・ニューギニアではほとんど皆英語を話す。家庭でのみ母国語を話すということだ。だから子供達も英語が堪能である。彼女いわく,「毎日少しでも子供と英語を話した方がいい。『立ちなさい』『おはよう』といった簡単な言葉でも,絶えず子供に話し掛けてやると,自然に英語が頭に入っていくんだよ。」私は,「え?でも私正確に話せないよ。こんな英語でもいいのかな?」というと。「大丈夫。私はあんたのことちゃんと理解しているから。十分だよ。」 彼女とはキリスト教のこともよく話した。熱心なクリスチャンであると同時に,暖かい人柄の彼女は,パプア・ニューギニアの大自然の恵みの中で,自然に神様を感じるようだ。しかし,決して人を見下さない。そして,謙虚である。彼女に「日本では子供達がかわいそうなんだ。疲れているのよ。」と話したが,「それなら,パプア・ニューギニアにくるといいよ。川では魚が取れるし,ワニもいるがね。海もすぐそば。一日に何度も海に入るのよ,私の国の子供達は。そうだ,としこの子供達が大きくなったら,ホームスティするといいよ。そのためには毎日子供達に英語を話すのよ!」ほんとうにいつか遊びに行きたい。そして降ってきそうな星の下で,海を眺めながらバースの思い出を話したいね!アンジ!

パプアニューギニア人2
 バッシバも同じパプア・ニューギニア人。アンジのお姉さん格といったところだろうか。彼女には12歳と10歳の子供がいる。理知的な彼女も熱心なクリスチャンである。アンジとバッシバのペアはボケと突っ込みのようである。ちょっとルーズなアンジに対して,いつもひっぱり,いろいろ教えてやる。アンジはパプア・ニューギニアではすごくお金持ちなので,山ほど使用人がいて,洗濯はおろか料理も苦手なのだ。それに対して,バッシバはすごくセンスのいい料理を作る。一度日本語の料理の本を見せてあげると,興味深そうに見ていた。日本の野菜の煮物といった料理がすきなのである。彼女はベジタリアンであり,イギリスの料理にはウンザリしていたので,余計日本料理が新鮮に映ったのであろう。バースを発つ前日,アンジと2人で手料理を持ってSt Aubinsを訪ねてきてくれたときには,涙が出るほどうれしかった。彼女は,何とお皿もないだろうからといって食器まで持参してくれたのだ。彼女達にはお金では買えない素晴らしいものをもらったのだ。


アンジ(左)とバッシバ(右)


メキシコ人
 メキシコ人のフェビオラは,初め全く英語が話せず,すべてご主人に通訳をしてもらっていたほどだが,本当に短期間ですごく上達した。スペイン語が母国語ということもあるのか,長年英語を勉強しながらも一向に上達しない自分と比べて羨ましい限りである。彼女はインターナショナル・グループだけではなく英語学校や,B&Bのアルバイトを通して,たくさん英語に触れ学んだと思う。さらに彼女にはメキシコのトルティーヤの料理法を教わった。うちの子供達にも大好評だった。彼女は私がメキシコはギターを持って,マラカスを振って,やっぱり踊るのか?とたずねると身振りで踊っているような,陽気なラテン系。テキーラ?なんて聞くと酔った振りをする。彼女のメキシコでの写真。実は留学が決まって急遽結婚したらしいのだが,明るい日差し,青い海の前でひげの似合うかっこいいご主人とのツーショット写真が印象的だった。「かっこいいね!」なんていうと,「当たり前よ。私の夫よ!」って感じでちょっとびっくりしてしまったが。また,長男と彼女の息子アンドレスは小学校でも仲がよく,メキシコでも人気のドラゴンボールや恐竜の話をして盛り上がることが多かった。

ベネズエラ人
 ベネズエラ人のノベリも本当に面白い女性である。いつもラファエロにキスの雨を降らしている。一度ご馳走になったベネズエラ料理をまずそうに食べるわが息子達にぶつぶつ文句を言って,「さあ。ラファエロ。あんたはいい子だから,食べるよね。」なんて芝居っけたっぷりにラファエロの口の前にスプーンを差し出す。うーん。日本料理よりもっと薄味で,ただ塩だけで味付けされているベネズエラ料理を一応「美味しい!」といったが,私にはよくわからなかった。しかし,彼女の子供のかわいがりようには,ほのぼのしてくる。さらに,彼女はすごく勉強熱心で,グループの有志で聖書の勉強会を開いたりしている。国では物理の先生だったそうで,やっぱり賢い女性だと思う。言葉が不自由なせいでお互い類推と経験で理解し合おうと努めているから,多少の誤解もあるが,本当にいい友人である。今も文通しているが,「日本の子供が塾だとか,習い事だとかで忙しい。」と書いたら,「忙しく熱心に勉強する方がその子達のためになるんだ!」という返事が返ってきた。日本では皆習い事をさせながら,遊ぶ時間がないのは子供の性格をゆがめてしまうなんて考えてしまいがちであるが,彼女によれば,勉強できる時にするのが当たり前なのであろう。これもお国柄であろうか。

仲間達が集まって
 そんな仲間達が集まると,とっても楽しいパーティになる。もちろん持ち寄りパーティ。お菓子作りな好きな人はお手製のケーキ。出来ない人はスーパーのエコノミーパック。いろいろな話題がのぼるが,万国共通!夫の悪口!!これは人気の話題である。「手伝ってくれない!」「服は脱ぎっぱなし!」「子供の面倒も見てくれない!」どうも一般に発展途上国の男性の方が偉そうにしているようだ。うちの夫はこのグループではよく手伝う方のようだ。でもこれは決して口にすまい。「皆よく手伝うんだって。やっぱり外国は違うよね!」なんていい加減なことを家に戻ってから言う。夫によれば研究室のイギリス人の夫達は実によく妻子の面倒を見るらしく,しばしばお叱りを受けたそうなので,留学生の妻の話は内緒なのだ。それから,出産子育ての比べ合い。これは日本人が怠慢な方である。もっとも,ベネズエラ人は出産後2ヶ月は動かないそうだ。
 そして,お互い別れを惜しみ,短い間だったが知り合えてよかったと本当に思う。そして,いつかまたこのバースで会おうね!なんて何度も何度も話したのだ。いい友達,言葉の壁を越えて,お互い本音で語り合ったものだ。多少言葉の上での誤解はあるが,そんなことはほとんど関係ない。日本人同士でここまで親しくなれるかどうか疑問に思うほど,私たちグループの付き合いは濃く深いものだった。

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