「イイ女と悪い男」     作:れいと



イイ女だった。
その女は間違いなく。
その男、悪い男にとって、彼女はいままでにないイイ女だった。
バスルームから聞こえてくる切れ間のないシャワーの音と、すすりなく声に、男はいたたまれなくなって部屋を出た。
悪い男は生まれて初めて、死にたくなるような罪悪感に苛まれていた。
壁によりかかって、くすねてきたマルボロのメンソールにホテルのマッチで火をつけた。
空しすぎる達成感が、男の中の罪の意識に追い討ちをかける。
男は三度、大きく煙を吐き出して、それからタバコの火を右手で握りつぶした。
「・・・・・痛い。」
そして男は上を向いて歩き始める。
朝はすぐそこまでやってきていた。
薄闇にぼんやりとにじんだ星が心に痛い。
それは、うららかな春の日、一人ぼっちの夜だった。


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