皆、それぞれに背負うものを抱えて、
それでも夜は更けてゆく。
思いはすれ違うまま――― …


せるふぃっしゅ道中記 第2章 過去の幻影
2.

冷たい輝きで地上を照らす月が、全ての恵みである太陽に世界を譲る。
白々と夜が明けた頃、サーザンは眼を覚ました。
まだ早い時間ではあったが、子供らしく目覚めは良い。眼をこすりながら身を起こすと、激しい寝相で寝入っているミレニアと既にベッドからずり落ちているアーヤンの姿が見て取れた。
(相変わらずだな、二人とも)
間抜けだが、どこか可愛らしくも映る光景にサーザンは声を立てずに笑った。
サーザンが破壊された村を離れ、ミレニア達と行動をともにしはじめてから約半月が経過した。
ミレニア達がサーザンの父であるシュトラルを殺したのではないかという誤解は解けたものの、サーザンは未だにミレニア達に完全に心を開いてはいなかった。その原因の一端は、ミレニアの性格にもあるのだが―むにゃむにゃと寝言まで呟いているミレニアを一瞥して、サーザンは思わず文句を洩らした。
「ホント、寝坊すけなんだな。こんなに寝てちゃ、一日がもったいないって、神様に怒られちゃうのに」
日が昇ったら一日が始まる。それがサーザンの暮らしていた生活だった。
もっともこの生活のサイクルがミレニア達とは異なっている事はサーザンにもよくわかっている。
それでも、もう寝ている気にはなれなくて、サーザンは着替えをすると部屋を出た。
朝食前に散歩でもしてこようと思ったのだ。


リーブ・ヒル。ラセンの村跡から南へ三日ほど下った場所に位置する人口数千人程度の小規模な町だ。
サーザンたちは一昨日ここを訪れたばかりだったが、大まかな地理は頭の中に入っていた。
サーザンはもともと道を覚えるのは得意な方だった。
「…あれ…?」
宿屋を出てすぐの広場に差し掛かったとき、サーザンは目を瞬いた。見慣れた人物がそこにいたからである。
その人物は、サーザンには気付かずに一心不乱に剣を振るっていた。架空の相手を、そこにおいて。
その迷いのない剣さばきに彼の真剣さが見て取れた。
邪魔をするのも悪いかと思ったが、そのまま通り過ぎるのも変なのでサーザンは声をかけた。
「おはよう、シルン」
その声にシルンはようやくサーザンに気付いて、剣を鞘に収めると優しい笑顔を浮かべた。
「おはよう、サーザン。早いな」
「シルンこそ、どうしたの…?」
シルンがこの時間に起きているという事が、サーザンには不思議でならなかった。
普段のシルンは決して早起きと呼べる部類ではないからだ。
「あぁ、ちょっと寝覚めが悪くてね。忘れようと思って、無我夢中さ」
こんな風にしか自分は出来ないから、と笑うシルンの顔が寂しげに見えてサーザンは少し不安になった。
「サーザンこそ、散歩か?」
「…うん。みんな、起きないし。でも、今日はいいや。…見ててもいい?」
サーザンが尋ねるとシルンは少し意外そうな表情を浮かべたが、すぐにいつもの笑顔に戻って、いいよと頷いた。
ほっと息を吐いて、サーザンは近くの木陰に座り込んだ。別に剣術に興味があったわけではない。
それよりも、「シルン」の方に興味があっただけだ。
自分に優しく接してくれるけれど、どこか陰があるようで底の見えない彼が、本当はどんな人間なのか。
剣を抜いたシルンは別人だ、とサーザンは思う。
少なくとも、いつもの優しさは微塵も感じられない。厳しさを感じるその表情も、まるで爪を光らせた獣のよう。
サーザンとシルンが初めて出会ったあの日、ためらいなく敵を切り伏せたシルンを正直嫌悪した。
優しい笑顔を向けられるいまでも、やはりシルンは怖いのだと、どこかで考える自分がいる。
「……」
サーザンは両膝を抱える腕に力を込めた。そうでもしていないと、膝が震えだすのではないかと思ったのだ。
そんな事には気付かずに剣を振るっていたシルンだったが、大きく息を吐く一旦剣を鞘に収めた。
「…ふぅ…」
木の枝にかけられたタオルを手にサーザンの隣へ腰を下ろした。どうやら小休止らしい。
息づかいも聞こえるほどの至近距離で見上げるシルンはやはり大きい。自分とは明らかに違う、もうすぐ大人になる少年。
サーザンの視線に気付いたのか、シルンは額の汗を拭うと屈託なく笑いかけた。
「退屈じゃなかった?」
「……うぅん。別に」
「なら、いいけど。サーザンには面白くないんじゃないかって、こっちまで緊張したよ」
「……」
優しい言葉、柔らかい表情。それはシルン=サラのもう一つの顔。
どっちが本当のシルンなのかサーザンにはわからなかった。だから正直に言葉を返した。
「…退屈じゃ、なかったよ…。でも、怖いと思った」
「…怖い?」
「剣って、人を傷付ける道具でしょう。それを、必死に振り回してるシルンが、怖かった」
シルンの表情が自然と強張る。時折見せる、辛そうな表情に。けれど良い機会なのかもしれない。今なら、聞ける。
「シルンはどうして、闘うの?それは、人を傷付ける行為…皆を不幸にするものでしょう?」
「…そうだね」
「あたしは、ちゃんと聞きたいの。なんで皆が傷付けあうのか、あたしにはわからない。そういうのってちゃんと理由があるものなのかも、あたしにはわからない。でも、シルンはそうじゃないよね…理由もなく人を傷付けたりはしないよね?」
それは尋ねたい、というよりもサーザンの願望であったのかもしれない。
シルンにはそうあって欲しい、意味もなく人を傷付けるような人ではあって欲しくないのだと。
「サーザンが言う事は正しいよ…いや、人が人と争い、傷付けあう事は、決して正しい事じゃないんだ。傷つけあって、皆が不幸になっていく、最低の行為でしかない…。それでも、争わずにはいられないのは…皆がそれぞれに理由を背負っているからかもしれないね」
そう言うシルンの瞳はここではないどこかを見つめているようで、サーザンは戸惑った。
聞いてはいけないことを聞いてしまったのか。けれどうやむやには出来ない――してはいけない事だった。
サーザンは言葉を挟まずシルンの次の言葉を待った。
「でも血を見る事に慣れすぎてしまうと、正常な感覚もどこかで麻痺してくるんだ。闘いの中で生きるのが当たり前になって、それが不思議に思えなくなる。間違っていると思うことさえもなくなる。本当は、それではいけないんだけれどね」
一体どれくらいの者が自分の正当性を信じて闘っていられるのだろう。
それは本当に自分のためなのか。その目的が、誰かのものとすり替えられてはいないか。
「俺にはね、姉妹がいたんだ。姉のテレナも、妹のセリーユも、二人とも掛け替えのないくらい大切な存在だった。それに、俺はテレナを愛していたんだと思う」
「愛してって……血の繋がった人を?」
「えっ…?…あぁ…ごめん、言葉が足りなかったね。二人とも、俺と血は繋がっていないんだ。テレナと、セリーユと…二人の姉妹のいる家に、俺が養子に入っていたんだよ。兄弟同然として育ったから、あんまりそんなこと考えてはいなかったけどね」
「その人たちが、シルンの家族なんだ?」
「『家族』だったんだ」
サーザンは初めて気付いた。シルンが過去形で話している事に。家族だった―その言葉が意味するものは。
「養父と俺たち三人と…それは決して不幸ではなかった。幸せだったんだよ。けれど、どこかで歯車がずれてしまったんだね。俺が大切にしたかった『家族』は簡単に壊れてしまった」
「…」
「俺がね、あの人を斬り殺したんだ。俺を大切に育ててくれた養父さんを」
「…!!」
「テレナを守りたかったからこそ剣を振るった筈なのに、結局彼女を守る事は出来なかった。セリーユを一人残して俺は…」
シルンの言葉はもう耳に入らなかった。父を殺した。父を斬り殺した。そのシルンの言葉が頭の中を反芻して。
「テレナの遺志を継ぎたいだけなのかもしれない…そんな風に言うと、彼女は怒るかも知れないけど…」
殺した。大切に育ててくれた親を。
殺した。自分のために!?
「…サーザン?」
「聞きたくないっ!!」
反射的にサーザンは叫んでいた。シルンが驚いて眼を見開く。 そんな言葉は聞きたくない。親を殺したなんて!!
「…信じたかったのに…シルンだけは信じてみたかったのに…そんなこと言わないで!!」
「…っ…ごめん、サーザン」
親を殺されたサーザンの前では、「親を殺した」という言葉は言ってはいけないことだったのだ。
そっ…とシルンが伸ばしかけた手を、サーザンは邪険に振り払った。
「触らないでっ!!」
一喝すると、サーザンはシルンの方を見ようともせず駆け出した。あからさまな拒否反応にシルンは言葉もない。
ただ一度だけ大きく溜息を吐くと、澄んだ色をした空を仰ぎ見た。
その顔は疲れと悲しみの入り混じった、何とも情けない表情だった。


 『 憎しみに心を満たしてはいけません。
  憎しみからは、何も生まれはしないのですから。
  相手を許すこと、信じることを覚えなさい。
  そうすれば、真実はおのずと見えてくるものなのですから』

「リュウシ…信じる事なんて、難しいよ…。あたしには、何も見えない…。助けてよ、リュウシ…」
胸の中を反芻する、竜使の言葉。どうすればいいのだろう。どうしたらいいのだろう。
「何も…わかりたくないよ…。大人になんか、なりたくない…」

「はあぁ〜、よく寝たわ。ん〜、爽快、爽快」
ベッドの上で気持ち良さそうに身体を伸ばすミレニアの横で、床で眠りこけていたアーヤンが盛んに首を捻っていた。
「あれぇ…アーヤンどーしてこんなところでねてるのぉ…?」
アーヤンに構うことなくミレニアは鏡の前を占領すると、生真面目にそれを覗き込んでいた。
朝の身だしなみチェックは、当然何をおいてもする事だ。
様々な角度から覗き込んだり、いろいろな表情を作ってみたりする。
「ん〜、やっぱり私は美しいわね。朝から惚れ惚れしちゃうわ」
と、他人が聞いたら呆れそうな自画自賛をしている所へ散歩に出かけていたサーザンが帰って来た。
「あ、サーザンちゃんおはよー!」
「…おはよう」
起きたばかりとは思えない程のハイテンションでサーザンを迎えるアーヤンにも、サーザンは曖昧な返答しか出来なかった。
ミレニアに関しては、さらに取り付く島もなく、
「随分しけた顔してんのね。陰気くさいから、こっちにその顔向けないでね」
「…そんなの、お前には関係な…」
「関係あるわよ。私はね、鬱陶しいものは嫌いなの。ただでさえ鬱陶しいあんたが、この上なく鬱陶しい顔でもしてて御覧なさいよ。私の気分が汚されるじゃないの」
恩赦の欠片もなく言い切ると、ミレニアは鏡に向き直った。サーザンを相手にするつもりなど毛頭ないらしい。
サーザンもミレニアと話した所で気分を害するだけなので、あえて声はかけなかった。
そんな二人の雰囲気など気にすることなくアーヤンは鼻歌交じりで着替えを始めていた。
ミレニアのように、周りを気にすることなく自分本位で生きていく事。
アーヤンのように、深刻にならず日々を楽しく生きていく事。
そのどちらかでも出来たら、もっと楽に生きられるのだろうか。
そんな恐ろしい考えが頭をかすめて、サーザンは思わず頭を振った。
身支度を整え階下に降りて行くと、男性陣はもう食事を始めていた。
ターヴィとシルンの姿を認めて、サーザンは少し胸が痛くなった。あんな別れ方をしてどんな顔で会えばいいのだろう。
その気配を感じたのだろうか。貪るように食事を口に運ぶターヴィの隣で、三人に気付いたシルンが軽く手を降った。
「…」
「わ〜、おいしそう!」
サーザンの心配など他所に、アーヤンの目には朝御しか目に映っていないようだった。
うきうき顔でスプーンを握り締めると、マナーのマの字もなく食事を始めていた。
それを横目で見ながら、ミレニアは大袈裟に溜息を吐いた。
「何よ、また随分としけた御飯ね」
「仕方ないだろ、倹約しないと」
「倹約…ね。あ〜ぁ、こんなお荷物のせいで、何でこの私が貧相な飯、食べなきゃいけないのよ」
「ミレニア」
咎めるようなシルンの声もまったく効果なし。
見る側までが不快感を抱きそうなほど嫌だという顔をしながら、それでもミレニアは食卓についた。
乗り遅れたサーザンが戸惑っていると、不意にシルンと目が合った。
「サーザン…」
シルンが、遠慮がちにサーザンの名を呼ぶ。
「……」
続く言葉を耳にしたくなかったので、サーザンは慌てて席についた。それを困ったような顔でシルンは眺めていた。
とりあえず、皆が食卓について形なりの朝食が始まる。忙しく口は動かしながらも、静かに食べるような面々ではない。
「…しっかし、あれだよな」
「あれだね」
「やっぱ、あれしないとマズイよな」
「うんうん」
「まぁ、あれよね」
「そうだなぁ…」
「……」
あれ、が何を意味するのかが把握できないサーザンは話に入っていけない。
まずい、という言葉を聞く限り少しは深刻な問題なのだろうが…。
いつもなら、こういう時はシルンに尋ねるのだが、今朝はそう言う気分にはなれなかった。
食事の邪魔をするのは悪いと思いつつ、サーザンはアーヤンの腕を引いた。
「ねぇねぇ…『あれ』って?」
「え?あれって…あれでしょ」
「だから、『あれ』って何なの?」
「あれは、あれ…おかねがないってこと」
「…!?」
けろっと言ってみせるアーヤンだが、それはサーザンには非情に深刻な事のように思えた。
「お金がないって…じゃ、どうするの…!?」
「どうするって…ま、働くしかねーじゃん」
「働く!?」
サーザンの驚きは意外にまともな答えが返ってきたからなのだが、その意味を勘違いしたミレニアは顔をしかめた。
「何よ…あんた、働くのが嫌とかいうんじゃないでしょーね。穀潰しのくせして」
「…そういうんじゃないけど。でも、働くって…どうするの!?」
「そんなの自分で考えなさいよ。自分の食いぶちぐらい、自分で稼ぐのよ」
確かに親でもないシルンたちに養ってもらうのは悪い気がするけれど、どうやって稼げばいいのだろうか。
そもそも、まずサーザンのような子供を雇ってくれる所があるのかどうか。
「…みんな、自分で働いてるの?」
「…みんな、じゃないけど一応ね」
苦笑いしながらシルンが答えた。しかし、サーザンは上手く反応できなかった。シルンの顔が見られない。
「アーヤンね、アーヤンね、いろんなひとにおどりみせてるの!みんなねすごーいってはくしゅして、おかねくれるんだよ♪」
「へぇ…すごいね」
「アーヤンね、サーカスでもちゃんとおどってたんだよ。こんど、サーザンちゃんにもみせてあげるね☆」
「うん」
「何よ、踊りの稼ぎなんてしけたもんじゃない。男共は働かないし…なんでこのか弱い私が働かなくちゃいけないのよ…」
「??」
「バカ言ってんじゃねぇよ!誰が食料調達してやってると思ってんだ!」
「だからあんたが盗ってくるもんっていったら食べ物だけじゃない!どうせなら、もっと金になるもの盗ってこいって言うのよ!!」
「ちょっと…盗ってって…」
「俺様はちゃんと肉体労働してるぜ!?おめーこそ、口先三寸でサギ働いてるだけじゃねーか!!」
「ふん、バカな奴から金取ることのどこが悪いって言うのよ。私はね、ちゃんと夢を売ってあげてるの。立派な商売よ」
「…サギ…?」
「ん…、まぁ、まっとうな職じゃないことは確かかな」
間違っていない方法でお金を稼いでいるのはアーヤンだけなのだ。そのアーヤンですら、どこか感覚がずれているのか『置引き』のような真似を平気でする。
ターヴィもご自慢の髪で果物や小動物を取ってくるのはいいが、どこの店先から盗ってきたのかわからないような物までいっしょくただ。どう考えても、丸焼きのブタなど生息していないだろう。
加えてミレニアは、嘘八百の占いぐらいなら可愛いで済むが、洒落にならないほどの高額で紛いものを売りつけたりもするし、犯罪まがいの事を平気でやったりもする。犯罪を犯罪とも思わないような女だ。
「…つまり、胸張って言えるような事じゃないんだね」
「…困ったことにね」
呆れ半分にも、サーザンはあることに気がついた。ミレニアもターヴィもアーヤンもわかった。
だけど、シルンの話を聞いていない。嫌だと逃げていてはどうしようもないのだからと、サーザンは勇気を出して尋ねた。
「シルンは…?シルンはどうやってお金を稼いでるの」
その言葉に、シルンは顔を曇らせた。
「…俺は…」
「……?」
「サラちゃんは穀潰しよ。何もしてないもの」
横槍を入れるようにミレニアが言った。刺のある声だった。
「…!?」
「そうよね?ま、仕方ないか。出来るわけないもんね。賞金首のサラちゃんが仕事なんて」
「…え?」
「感謝して欲しいくらいのものよ。五万Rってお金が手に入るのに、この私が密告しない事」
「ちょ…」
話が見えない。それはどういうことなのか。賞金首、密告。ミレニアは、何を言っているのか。
「ま、サラちゃんに出来る事と言ったら、私の商品になることぐらいかしらね。そのぐらい、当然の…」
「待ってよ、なにそれ、どういうことなの!?」
「どうもこうも…サラちゃんは五万Rの賞金首よ。犯罪を犯して逃げてるんだもの…。何、あんた知らなかったの?」
「はんざ…」
急に、朝木陰で聞いたシルンの言葉が甦る。
『俺がね、あの人を斬り殺したんだ。俺を大切に育ててくれた養父さんを』―それは、シルンは父親を殺して逃げているという事なのか。
「常識、常識ってうるさいわりに、サラちゃんて結構な事してるわよね。親殺しなんて、やってくれるわ」
「ミレニア…」
「やーね、怖い顔しないでよ。ホントの事じゃない」
黙る気などないミレニアに、シルンは厳しい視線を向けた。
「今ここでは言うな」―それはサーザンの為か、それとも自分のためなのか。
もうそれ以上聞きたくないと、サーザンは俯いて唇を噛みしめていた。
「ともかく、サラちゃんは仕方ないとしても、あんたに怠ける理由なんかないんだから、ちゃんと働いてもらうわよ」
「でも、ホントにサーザンみたいなガキを雇ってくれる所なんてあんのか?」
「雇ってって…雇ってもらうなんて三流の考え、さっさと捨てなきゃ始まんないじゃない」
「けど、サーザンってサラの野郎みたいに、どっか生真面目だろ。俺様みたいな華麗な技があるわけでもねーしなぁ」
「そーだねぇ」
「…つーか、確認しなきゃと思ってたけど、お前ってホントに16歳なのか?」
「…え?」
いきなり全員の視線を向けられて、サーザンは戸惑った。
「そーだよね、アーヤンもそれ、ふしぎだったんだぁ」
「大体、そのなりで俺様よりも年上ってのが納得いかねぇよ」
「まぁ、この私は稀有の美少女だから置いておくとして、普通16って言ったらいくら発育が遅くてもねぇ…」
「サーザンちゃん、サーザンちゃん、それ、ほんとなの?」
言いたい放題の面々に閉口しかけたが、ここで口をつぐむ理由などない。サーザンは皆に挑むような視線で答えた。
「そうだよ。あたしは16だ」
「…あんた、馬鹿も休み休み…」
「嘘なんかじゃない。あたしは16だ。ちゃんと、16年間生きてきた」
生きてきた年月は、嘘じゃないのだ。それだけは。
「だったら、なんでお前そんなにチビなんだ?」
「…大人になんか、なりたくなかったから」
「…は?」
「汚い大人になんか…理由をつけて人を殺すような大人になんかなりたくないの!!」
吐き出すように叫ぶと、サーザンはそのまま立ち上がって食堂を駆け出した。皆の前から逃げ出すような態度だった。
「…はぁ?」
癇癪を起こしたサーザンについていけないミレニアは、ただ呆然と逃げ出したサーザンの後ろ姿を眺めていた。
ターヴィもアーヤンも、サーザンの変貌振りに驚いていた。
ただ一人シルンだけが、サーザンの言葉に胸を痛めていた。

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