夢はじめ

避妊手術

迷い

犬を飼うことを決めた時から、避妊手術をすることは決まっていた。

・・子供を産ませる気がないのなら、手術を受けた方が寿命が長くなる確率が高くなる。・・

頭ではそのことが良くわかっているつもりだった。

でも実際にライムが成長して、手術を受けるということが現実味を帯びてくると、『本当に良いのだろうか?』という疑問がどんどん大きくなっていった。

簡単に手術をすると言っても、健康な体にメスを入れるということは大変なことである。

『絶対』という言葉はない。

手術を受けさせたことによって、この大切な命を落としてしまうことだって、あり得ない話ではないのだ。

そして何より、この先もしも『ライムの子供が欲しい』と思ったとしても、その時にはもうそれは不可能だということ。

私達のエゴで、ライムの一生を、命を左右するということ。

何も知らないライムを見る度に、その罪悪感が顔をのぞかせた。

この子との時間

何度も何度も確認をして、私達が出した結論は、『この子との時間が長くなるのなら避妊手術を受けよう』というものだった。

手術が成功すれば、とりあえずいろいろな病気にかかる確率は低くなり、ライムと一緒に過ごせる時間は長くなるだろう。

避妊手術の是非については本当に難しいと思うけれど、今、我が家が出せる答えは、これしか無かった。

あとは手術を受ける時期。

初めての生理が来る前か、1度生理を経験して2度目の生理が来る前か。

・・・生理を経験せずに手術を受けると、性格が子供の頃のままだけど、1度経験してから手術をした子は、少し大人びるみたいだよ。・・・

・・・今までは病気の確率からいって、1度も経験しない時に手術する方が良いとされていたけれど、最近、2度目の前にする方が良いっていう意見も出てきてるらしいよ。・・

いろんな意見に頭を悩ませたけれど、結局我が家が選んだのは『初めての生理が来る前』だった。

ライムが生まれて、もう少しで7ヶ月。

ちょっと早い気はしたけれど、年末に手術を受ければ、正月休みの間に術後のライムを見てやる事が出来るという理由で、12月29日(月)に手術を受けることを決めた。

今は、かけがえのない家族、ライムとの時間が長くなるという、その可能性だけを信じよう。

手術の前夜

前日はみんなが正月休みに入っていたので、ライムと一緒にいっぱい遊んだ。

そしてシャンプーをして綺麗にしてあげた。

晩ご飯までは普通の生活。

でもそれ以降は、食べ物も、そして水さえも禁止だった。

食べ物に関しては、通常でも夜7時に食べた後は朝8時頃まで食べないのだから我慢出来るとしても、水を飲めないというのは本当に可哀想だった。

給水器は、ご飯が終わって少し経ってから取り外したのだけれど、数時間後にライムがその場所で『お水ちょうだい♪』みたいに座っているのを見るのは辛かった。

翌日のことを考えるといたたまれなくなって、何度も抱きしめるので、ライムは『何なの?』みたいな顔をしていた。

『なんでライムにお水あげたらアカンの?』

そうだった・・。カズマにはどう説明しよう?

とにかく明日までは内緒にしておこう。

手術の日

朝ご飯をあげる時間になって『さぁ!ライムのご飯しよう!』と張り切るカズマに、『今日はご飯あげたらアカンねん。』と切り出した。

『あのな、実は今日、ライムをお医者さんに連れて行くの。それで、今日1回だけ、お医者さんにお泊まりやねん。』

『ライムお泊まりなの? イヤや! ライムと遊びたい!』

『ライムが病気になったら可哀想やろ? そやしお医者さんにちゃぁんと診てもらわんとアカンねん。また帰って来はったら、いっぱい遊んであげられるし。今日だけ我慢出来るやろ?』

カズマには手術の事は言わなかった。

帰ってきて傷口を見ればバレることだけれど、手術前に言うのはチビっ子カズマには酷な話だと思った。

出来るだけ自然に・・。定期検診に行くような感じで・・。

出発前に軽く散歩をしてトイレを済ませ、いよいよ病院へ向かう。

何も知らないライムは、心なしか『遊びにいけるわ♪』みたいなウキウキ顔に見えた。

病院に着いても、先生や看護婦さんを前に耳ペタ&おしりプリプリ状態のライム。

先生から最後の説明を受けながら、その喜び方が逆に悲しいぽわんママだった。

『じゃぁ、よろしくお願いします。』

そう言って帰る私達を見ながら、ライムは何を思っていたのだろう?

先生の腕に抱かれて見送るライムの耳が、心なしか不安気に垂れていた。

帰りの車の中。

ライムの乗っていないバリケンだけがポツンとそこにある。

でも、もう考えても仕方ない。

だから気持ちを切り替えて、今日は思いっきりカズマと遊んであげよう。

非常連絡用の携帯電話だけは気にしながら・・ね。

かけがえのない存在

その日、家に帰るとライムのおうちだけが留守番をしていた。

『もう手術終わったかなぁ? 電話が無いってことは、成功したってことだよね。安心していいんだよね。』

ライムがいない部屋の中で、私達はいつもよりたくさん、ライムのことを考えていた。

たった4ヶ月半、一緒に暮らしただけだと思っていたけれど、もうあの子は、我が家に“なくてはならない”存在になっていたんだと実感した夜だった。

『ライム、お医者さんトコでご飯もらったかなぁ? おにいちゃん、おにいちゃぁんって泣いてへんかなぁ?』

・・・そうだね、心配だね。でも、ママはわかっているよ。

カズマの心の中に“ライムがいなくて楽しい”って気持ちがあることを。

だって、ずっとパパとママをライムにとられちゃってたんだもんね。

今日1日くらい、パパとママを独り占めしたいって思ったって、それは誰かに責められるようなことじゃないもんね。

パパとママの心の中にだって、本当はちょっぴり“ライムのお世話しなくて良いのは楽だなぁ”って安心感があるんだよ。

でもね・・・。

みんな、みんな大変だけど、だからこそライムは可愛いんだと、ママは思っているよ。

そう、育児とおんなじ。カズマの時にだって“もうこんなのイヤだ!”って思っていたあの時期が、今はこんなにも愛おしくって懐かしいんだもん。

だから・・。

今日だけはカズマが“1番”でいいんだよ。

でも、明日からはまた、みんなで頑張ろう! 笑顔でライムを迎えに行ってあげよう!

出来るよね? カズマ。 優しい“お兄ちゃん”♪

お帰りライム♪

迎えに行く時間は、“診療時間内ならいつでも良い”ということだったので、夕方5時ちょうどに病院に着くように家を出た。

当初は午前中に迎えに行く予定だったが、術後の様態を少しでも長く診てもらっておいた方が安心だということで、午後診療の時間に迎えに行くことにした。

病院に着いて受付をしていると、受付の後ろの部屋の“病室”のケージの中に座っているライムを見つけた。

看護婦さんが部屋に入り、『ライムちゃん良かったね。お迎えに来てくれたよ。』と言いながらリードをつけてくれると、ライムは元気にチョコチョコと歩いて出てきた。

私もパパも、もっとグタ〜っとしているライムを想像していたので、何だか拍子抜けした感じだった。

先生がいらっしゃると、まるで大好きな恋人に会ったみたいな耳ペタ&おしりプリ状態で駆け寄るライム・・・。

手術のせいで、医者嫌いになるんじゃないか?という心配をした自分が情けなくなるようなライムの姿に、少し嫉妬したママでした(爆)。

手術の様子や、今後の注意事項を説明してもらい、傷口を見せてもらった。

綺麗に四角く毛を剃られ、5針の縫い後があったけれど、ライムは本当に元気だった。

そして先生から『これが今回摘出したものです。』といって見せられたのは、小さな小さなビニール袋に入れられた子宮だった。

よくよく考えてみればわかることなんだけど、パパとママの一致した感想は『ちっちゃぁ〜い』というものだった。

ライムがまだ子供で、その部分が未発達だったこともあるけれど、何だかその小ささが不思議で、『へぇ〜』を連発しながら何度も何度も見てしまった。(カメラ持っていけば良かった・笑)

数日分の内服薬をもらい、抱っこして車に乗って帰った。(いつもはバリケンなんだけど・・)

診察室で初めてライムが『おなかを切った』ことを知ったカズマが、『ライムかわいそう』といってフニャフニャになってしまったので、『でもこれでライムは元気になれるからね。オナカさわったり、いっぱい走ったりしたらアカンし、カズマも気を付けてあげてな。』といって慰めた。

でも・・・。

何度もいうけど、本当に元気で、本当に術後だということを忘れてしまいそうなほどだったよ(苦笑)。

抜糸は7〜10日後。

それまでは、普通の散歩くらいならOKだけど、あまり激しい運動をさせないように。

シャンプーは、抜糸後2〜3日から。

『年末年始だけど、うち(病院)にはお泊まりしている子達がいるから、何かあったら連絡して下さいね。』

先生からそう言われ、“このお医者さんに巡り会って本当に良かった”と、心から思うぽわん夫婦でした。

抜糸の日

術後、何事もなく無事に新年を迎え、いよいよ抜糸の日になった。(術後10日目)

私自身はもちろん、身近な人に“抜糸経験者”がいないので、それがどんな風に行われるのかドキドキしながら病院へ向かった。

私のイメージは・・

仰向けに寝かされて手足を固定され、ハサミでチョキチョキ・・ライム絶叫!

ところが実際は・・

『はぁい、じゃぁ抜糸しますね♪』 と言いながら看護婦さんが後ろから抱えてバンザ〜イのポーズのライム。

診察台の前に立った先生が、中腰になってハサミと毛抜きでピョコピョコと抜糸♪・・。

へ? こんな簡単なん?

とビックリするほど、抜糸はすぐに終了した。

ライム絶叫!・・・どころか、目の前の先生と背後の看護婦さんに、おしりプリプリで喜びながら、ライムはひと言も発せず仕舞いだった(爆)。

『終わったよぉ。』と言われ、お約束のオヤツをもらい、今度は私達の方を見てプリプリしていたライムは、傷跡もキレイに治っていた。

手術時に剃毛したオナカはまだジョリジョリだけど、これがキレイに生えそろったら傷跡も目立たなくなるだろう。

避妊手術に対して、いろんな意見をいただきました。ありがとうございました。

ライムは無事に手術を終えることが出来ましたが、この先もう2度とこんな痛い思いをさせないようにしたいと思っています。

避妊する・しない・・どちらをとるかはその家々によって様々です。

でもその決断は、きっとその家庭にとって一番良い結果であると、私は思っています。

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