Folk and National Songs


BGM is from "Rule, Britania" by Thomas Arne.


 政治的・軍事的に常に英国の中心だったイングランドと,「ケルト」のスコットランド,ウェールズ,そしてアイルランドとの対立には根深いものがありますが,ケルトの地方が簡単にイングランドに同化せず,独自性を強く主張してきたからこそ,その地方に特有の様々な文化が残されてきたともいえます。膨大な数のフォーク・ソング(民謡)もその例にもれません。色々なアレンジや歌手で,その地方独特のすばらしいフォークソングを楽しんでみたいものです。ビートルズやエンヤのルーツもケルティック・フォークの中に見つけることができるかもしれません。
 一方英国には,昔から国民に親しまれ,歌い継がれてきたナショナル・ソング(国民唱歌)と呼ばれる一ジャンルがあります。ほのぼのとした童謡・民謡的な歌があれば,「英国が世界で一番!」という愛国賛歌もあり,英国文化の一面を垣間見せてくれます。



*CD番号は私が買ったときのものです。購入される場合は必ずご自分でチェックしてください。


■キングズ・シンガーズ/イギリス民謡集

(TOSHIBA TOCE-3551)

 言わずと知れたイギリスの名男声コーラスグループ,キングズ・シンガーズによるイギリス民謡集。原題では「ブリテン島のフォークソング」となっているが,アイルランドの有名民謡「ダニー・ボーイ(ロンドン・デリー・エア)」や「サリー・ガーデンズ」も入っている。イングランド民謡「ホーム・スウィート・ホーム(埴生の宿)」,「グリーン・スリーブズ」,スコットランド民謡「スカイ・ボート・ソング」,「ロッホ・ローモンド」のように非常にポピュラーな民謡に交じって,「とねりこの木立」,「ゴーイング・トゥ・タウイン」(ウェールズ民謡),「リンコーンシャーの眠り」,「黄金の眠り」(イングランド民謡),「エリスケ・ラヴ・リルトゥ」(スコットランド民謡),「マイリの結婚式」(アイルランド民謡)といった日本ではあまり知られていない民謡も収められており興味深い。創設以来メンバーを交代しながら活動しているキングズ・シンガーズだが(本アルバムは1991年の録音),どの曲でも一糸乱れぬボーカル・アンサンブルを聴かせるのはさすが。曲によってはギターやフルートの伴奏がいい雰囲気を出している。



■English National Songs

(SAYDISC CD-SDL 400)

 後期ルネサンスから初期ロマン派の時代に至るイングランドのナショナル・ソング(国民唱歌)を集めたアルバムで,英国国歌"God Save the King","Rule Britania"のような愛国歌から,昔の流行歌まで幅広い歌が収録されている。演奏はテノール,メゾ・ソプラノの歌手2人に器楽バンドという編成だが,下で紹介したHYPERION盤に比べると声も器楽も素朴で,いわゆる洗練された感じの演奏ではないが,その分昔の雰囲気はよく出ている。



■英国国民唱歌集(Fairest Isle - A New National Songbook)

(HYPERION CDA67115)

 1970年頃まで,英国の子どもは学校で”National Songs(国民唱歌)”を習っていた。国民唱歌の中には,スコットランド,ウェールズ,アイルランドの伝承歌が含まれているものの,その多くは,1688年の名誉革命から1837年のヴィクトリア女王戴冠に至る,いわゆる「長い18世紀」中に流行った流行歌である。それらのレパートリーの中には,たしかに「民謡」的なものもあるのだが,19世紀終わりから20世紀初めにかけて,セシル・シャープやパーシー・グレインジャーが英国各地で収集した生粋の「民謡」とは全く違ったものといってよい。それらの民謡的流行歌は田舎の生活を扱ったものが多いのであるが,それらを作曲したのは,実のところ大半がロンドンに住んでいたプロの「芸術作曲家」であり,元来は劇場やプレジャー・ガーデン用に書かれた曲だった。このCDでは,国民唱歌がオリジナルの形で,すなわちプロの作曲家がつくった原曲に忠実な形で再現されている。結果的に,国民唱歌が芸術的香気の高い曲として蘇った。
 このCDには,インスツルメンタルの曲も含めて16曲の「国民唱歌」が収められているが,聴き所といえる曲を以下に紹介しよう。バロック時代英国最大の作曲家パーセルのセミ・オペラ「アーサー王」の第5幕でヴィーナス(ソプラノ)が歌う "Fairest isle(最も美しき島よ)"は一種の愛国歌だが,その高貴な美しさは一度聴いたら忘れられない(「クラシックCD試聴記」のトップページのBGMです)。このCDのタイトルにもなっている名曲である。ジェームズ・フックの「リッチモンドの丘の少女」は,田舎の楽しく陽気な気分を感じさせる,浮き立つようなリズムを持った名曲。ウィリアム・シールドによる「乳搾りの女」も同様の楽しい田舎風唱歌で,ピッコロのソロが曲調とぴったり合っている。作曲者不明の「英国のてき弾兵」はテノールとコーラスの掛け合いが楽しいマーチ。クリスチャン・バッハによって編曲された2曲のスコットランド民謡「コーデンノウのえにしだ」と「ロッハバーよさようなら」のロマンティックな美しさは特筆もの。ヘンデルの「憂鬱なニンフ」は,さすが大作曲家ヘンデルの手になるだけあって,微妙な感情表現が素晴らしい。
  そしていよいよ,このCDのプログラム最後を飾るのは,毎年9月第2週の日曜にロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで行われるプロムス・ラスト・ナイトの定番レパートリー,トーマス・アーン(1710-1778)の愛国的唱歌
「ルール!ブリタニア」である。この曲は,元々アーンのオペラ"Alfred (1740)"の最後の場面で,デーン人に打ち勝ったアルフレッド大王を称えて歌われる曲なのである。プロムスで演奏されるのは,往年の名指揮者サージェントが編曲した大オーケストラ版だが,シンプルなオリジナル楽器伴奏によるアーンの原曲は,軽やかで早めのテンポをとるオーケストラ伴奏と伸びやかな合唱が実に新鮮で,私には「プロムス・バージョン」よりよほど楽しい。
 以下に
「ルール!ブリタニア」の歌詞対訳 を示す。このような恐ろしいほどの愛国的唱歌がユニオン・ジャックの旗を打ち振る大観衆によって歌われる英国という国と,学校で国歌を歌うことさえいまだに社会問題となる日本という国との落差はあまりにも大きい。大きな戦争に負けたことのない英国と,大きな戦争に負けた日本の違いといってよいのであろうか…。

Rule, Britania

 When Britain first at heaven's command この世の始まりにブリテンが神の命により
 Arose from out the azure main, 紺碧の海から生まれたとき
 This was the charter of the land, これが国家の憲章
 And guardian angels sung this strain: 守護天使たちはこう歌った
 Rule, Britania, Britania rule the waves; ブリタニアよ,大海原を治めよ
 Britons never will be slaves. ブリトン人は決して奴隷とならないであろう

 The nations not so blest as thee 汝ほど祝福された国はなく
 Must in their turns to tyrants fall, 必ずや暴君をひれ伏させ
 While thou shalt flourish great and free, 汝が偉大な繁栄と自由を楽しむ間
 The dread and envy of them all すべての敵は恐怖と妬みをもつのみ
 Rule, Britania, Britania rule the waves; ブリタニアよ,大海原を治めよ
 Britons never will be slaves. ブリトン人は決して奴隷とならないであろう

 Still more majestic shall thou rise さらに威厳をもって立ち上がり
 More dreadful from each foreign stroke; 異国の敵に打たれてさらに強く
 As the loud blast that tears the skies, 大空を引き裂くすさまじい嵐にも
 Serves but to root thy native oak; 樫の木は地に根を張るのみ
 Rule, Britania, Britania rule the waves; ブリタニアよ,大海原を治めよ
 Britons never will be slaves. ブリトン人は決して奴隷とならないであろう

 Thee, haughty tyrants ne'er shall tame; どんな暴君にも飼いならされず
 All their attempts to bend thee down 彼らのどんな試みにも屈せず
 Will but arouse thy generous flame, 寛大な炎を燃え立たせ
 But work thy woe and thy renown. 敵を悩ませ名声を得るのみ
 Rule, Britania, Britania rule the waves; ブリタニアよ,大海原を治めよ
 Britons never will be slaves. ブリトン人は決して奴隷とならないであろう

 The muses still with freedom found 女神達はさらに自由を見い出し
 Shall to thy happy coast repair. 幸福の岸辺におもむく
 Blest isle! with matchless beasuty crowned, 美の王冠で祝福された島よ!
 And manly hearts to guard the fair 美の女神を守る雄雄しい心よ
 Rule, Britania, Britania rule the waves; ブリタニアよ,大海原を治めよ
 Britons never will be slaves. ブリトン人は決して奴隷とならないであろう

*日本語訳: St Aubins
*このCDでは第3節の演奏が省略されている。


 このCD,選曲もさることながら演奏もピカイチである。ピーター・ホルマンのテンポとリズム感のよい指揮とオリジナル楽器オケの溌剌とした演奏もすばらしいが,キャサリン・ボット(ソプラノ)とジョゼフ・コーンウェル(テナー)の歌声には本当に惚れ惚れとする。英国の唱歌がどんなものか聴いてみたい方や,「ルール!ブリタニア」のオリジナル・バージョンを一度聴いてみたいという方に是非お薦めしたいCDである。



■Traditional Songs of England

(SAYDISC CD-SDL 402)

 歴史的に周囲の地方を圧してきたイングランドではあるが,こと民謡に関しては,少なくとも日本ではスコットランドやアイルランドの民謡ほど有名ではない。スコットランド民謡だったら「蛍の光」,アイルランド民謡だったら「ロンドンデリーの歌」というようにすぐさま思いつくけれども,イングランド民謡にどんな曲があるのかと聞かれるとなかなか出てこないかもしれない。これをケルトの人々の方がイングランド人よりも歌心に優れていると解釈することもできる。実際,一度聴いたら忘れられない美しいメロディーというのはケルト民謡の方に多いと思っていた。ところがこのCDを聴いてイングランドの民謡も捨てたもんじゃないなと思った。このCDには全部で21曲の民謡が収められているが,明るい陽気な歌あり,しみじみとした歌ありと最後まで飽きさせない。私がとくに好きな歌は,大作曲家ヴォーン・ウィリアムズがサセックスで見出したリコーダー伴奏が美しいメランコリックな”All Things Are Quite Silent”,グロースターシャーの悲しいラブソング”As Sylvie Was Walking”,底抜けに陽気なサウスポートの”Rounding the Horn”,メロディーのメランコリックな美しさではこのアルバムでも屈指のサマーセット民謡”Geordie”,明るくロマンティックなメロディーのコーンウォール民謡”The Streams of Lovely Nancy”など。最後はイングランド賛美のサマーセット民謡”Sweet England”で幕を閉じる。女性シンガーJo Freyaの嫌味のないストレート・ボイスが耳に心地よい。伴奏陣も,ギターやアコーディオンを弾くフォーク・グループと,ヴィオールの古楽グループであるローズ・コンソートのどちらも見事。



■Songs of Thomas Hardy's Wessex

(SAYDISC CD-SDL 410)

 これは英国民謡に興味を持っている人だけでなく,文豪トーマス・ハーディの小説が好きな人にとっても興味深いCDであろう。ハーディの「テス」,「遥か群集を離れて」といった名作には登場人物がよく民謡を歌うシーンが出てくる。男声2人・女声2人のシンガーと伴奏のThe Mellstock Bandがそれらの民謡を再現して21曲収録したのがこのCD。陽気で楽しい曲が多い。CDの解説には歌が出てくる小説の箇所や,その歌の解説が付いているから,小説をチェックしながらCDを聴いてみるとおもしろいだろう。



■Traditional Songs of Scotland

(SAYDISC CD-SDL 391)

 英国民謡の中でスコットランド民謡は最もポピュラーといってもよかろう。日本中のデパートやスーパーで閉店時に流される「蛍の光」もスコットランド民謡だ。そのためか,スコットランド民謡のCDは他の地方のCDに比べて手に入れやすいし,有名な民謡ならクラシックの有名歌手が歌っているものもある。しかし多くの場合,スコットランド民謡は「英語(イングランド語)」で歌われるのであり,「スコットランド方言」でそのまま歌われることは少ない。このCDではスコティッシュ・フォークの女性大シンガーRay Fisherが文字通り”Traditional”な言葉で ”Traditional”なスコットランド民謡を歌っている。対訳表を見るとスコットランド方言とイングランド語の違いの大きさに改めてびっくりする。なにしろ”If”は”Gin”,”Know”は”Ken”,”From”は”Fae”なのだ。これではイングランド人の歌手がスコットランド方言のまま細かいニュアンスまで含めて完全に歌うのは難しかろう。もちろんRay Fisher は,スコットランド方言を完全な母国語として何のよどみもなく歌っている。彼女の張りのある少し太めの声による堂々とした歌いぶりは素晴らしい。伴奏はギター,スコティッシュ・スモール・パイプ,フィードル,ボタン・アコーディオン,メロデオン,アングロ・コンチェルティーナだが,基本的にシンプルであくまでもRay Fisher の声を前面に出している。18曲の収録曲の中には日本でよく知られているスコットランド民謡はなく,本当にスコットランドの田舎でしか歌われていないだろうなと思える曲ばかり。スコットランド民謡の奥深さを感じる。



■Pride of Scotland

(EMPORIO DEMPCD 021)

 これは上のCDと比べると,一転してポピュラーなスコットランド民謡をほとんど網羅した感のあるコレクション2枚組CD(全49曲)。男性・女性多くのシンガーが登場するが,「イングランド語」で歌われており,アレンジも現代的(NHKの「青春のポップス」のような感じ)である。英国滞在中に買い求め,繰り返し聴いたので思い出深いCDである。私の好きな歌を収録順にあげると(結果的にポピュラーな歌ばかりになってしまった?),”Amazing Grace”,”Loch Lomond(ロッホ・ローモンド)”, ”Scotland Forever”, ”Comin' Through The Rye(故郷の空)”, ”Ye Banks & Braes”, ”Annie Laurie(アニー・ローリー)”, ”Auld Lang Syne(蛍の光)”, ”Dumbartons Drums”といったところか。でも本当は全部いいとしかいいようがない。タイトルの”Pride of Scotland”の通り,「民謡はスコットランドの誇り。イングランドなんか敵じゃないさ!」というスコットランド人は多いだろう。私も民謡に関しては断然イングランドよりスコットランド派である。
 ちなみに 「故郷の空」は大和田建樹(1857-1910)の作詞による明治の「小学唱歌」で「夕空はれて 秋風吹き…」の訳で知られているが,「だれかさんとだれかさんがむぎばたけで…」の別訳でも知られている。別訳のほうはスコットランドの国民詩人ロバート・バーンズ(1758-1796)の詩を訳したものである。もう一つやはり日本でも有名な「アニー・ローリー」は実は民謡ではなく,スコットランドの女流作曲家スコット(1810-1900)の手になるが,スコットランド方言を使った郷土的な歌ということもあってスコットランド民謡として扱われるのが普通である。1885年の「小学唱歌」に収録以来日本で最もポピュラーなスコットランド民謡の一つである。「小学唱歌」に作曲後あまり時間のたっていないこのスコットランド民謡を収録した明治時代の文部省の役人や音楽関係者の目は確かであったとつくづく思う。今の音楽教育関係者には,子どもたちによい歌を聴かせたい,歌わせたいという熱意が果たして本当にあるだろうか。



■Traditional Songs of Wales

(SAYDISC CD-SDL 406)

 ブリテン島で最もマイナーな民謡がウェールズの民謡である。これには英語と全く違うウェールズ語が日常的にはほとんど話されなくなっていることが大きく関係していると思われる。ウェールズ語を話すだけでなくて,ちゃんと歌える人となるとますます少ないに違いない。このCDは英訳せずにすべてウェールズ語で歌われたれっきとしたウェールズの民謡集である。英語ではないから声の響きも不思議な感じであるが,曲の方もイングランドやスコットランドの民謡に比べて異国的な感じがするものが多い。トルコの音楽やポルトガルのファドみたいな歌もある。総じてスコットランド民謡よりも素朴で,その点ではスコットランド民謡よりも「ケルティック」という感じがする。女性ボーカリストのSiwann Georgeの情熱的な歌唱がすばらしい。ケルティック・ハープ,ウェルシュ・トリプル・ハープなどの民俗楽器が大活躍して歌を盛り上げている。とくにウェルシュ・トリプル・ハープの美しい響きには惹かれる。このハープのアルペジオに乗って軽やかに歌われる”Y Gwcw Fach (Little Cuckoo)”の美しさなど忘れがたい。



■Thomas Moore's Irish Melodies

(HYPERION CDA66774)

 アイルランド民謡もスコットランド民謡と同様日本人にはなじみ深い。もし好きな民謡を5つあげよと言われれば,私は躊躇なく「ロンドンデリーの歌」をその中に入れる。アイルランド民謡のメロディーの美しさ,何ともいえない郷愁感は独特のものだ。このCDはありきたりでないクラシックCDで評価の高い英国HYPERIONのものだけに,単にポピュラーなアイルランド民謡を集めたといった類のものではない。バイロンとも親交のあったアイルランド人の詩人Thomas Moore(1779-1852)は,伝統的なアイルランド民謡に自分の歌詞を付け直したものを”Irish Melodies”として1807以降1834年まで10回にわたり出版した。これは当時ロンドンで大評判になったという。このCDにはその中から22曲の歌と,Bunting(1773-1843)によるハープやフォルテピアノのためのインスツルメンタル曲集”The Ancient Music of Ireland”が9曲収められている。200年前近くのアレンジであるから,古い感じの歌に聴こえるのは当然として,改めてアイルランド民謡の豊かな歌心を感じないわけにはいかない。「夏の名残の薔薇」の邦題で有名な”'Tis the last rose of summer”のメロディーのすばらしさ!アイルランド民謡のルーツに興味がある人にとって聴き逃せないアルバム。ちなみに「夏の名残の薔薇」は,里見義訳の「庭の千草」という題名で1884年の「小学唱歌」に収録されて以来日本でも広く親しまれている。



■The Fairy Dance:Myth and Magic in Celtic Songs and Tunes

(Past Times BEJOCD-15)

 スコットランド,アイルランドに残るケルト民謡を集めたコレクションCD。Past Timesは過去の色々な時代様式(例えばチューダー朝時代やヴィクトリア朝時代)の生活用品や装飾品を販売するオックスフォードに本社を置くチェーン店。このCDはデザイン,内容とも素敵だ。ケルトの伝説は妖精やドラゴンといった架空の生き物たちや魔法や魔女といったキリスト教社会が否定したものを生き生きと表現している。しばしば,詩人や作家の創作活動の源となったものである。ウィリアム・イエーツはアイルランド出身の詩人であるが,彼は熱心に妖精伝説を収集したことでも知られている。また現代でもイギリスの歌手エンヤは,これらケルトの民謡の雰囲気を色濃く表現する。雰囲気的にポルトガルの民謡ファドにも似た,郷愁を誘う曲の多くは,日本人の心にも深く訴えるものがあると思う。



■早春賦/鮫島有美子 〜母と子の四季をうたう〜

(DENON COCO-75945)

 番外編として鮫島有美子が歌った唱歌集をあげたい。このアルバムには日本オリジナルの代表的な唱歌の他に,英国の民謡に日本人が日本語の訳詞をつけて明治以来広く親しまれてきた歌が収められている。「アニー・ローリー」,「庭の千草」,「故郷の空」の3曲である。これらはほとんど日本の歌と化している英国の民謡といってもよかろう。ここには収められていないが,「蛍の光」なども日本の歌と思っている人が多いのではないか。歌っている鮫島有美子自身が「幼い頃 母がよく歌っていた歌 そして一緒に口づさんだ歌 遠い日の思い出がよみがえってくる歌の数々…」と語っているけれども,今の子どもたちは私たちの親の世代が親しんでいるほどにこれらのすばらしい歌に親しんでいるだろうか?情報化時代といいつつも,残念ながら昔に比べて知ることが少なくなったこともある。鮫島有美子のすばらしい歌声で「日本人の心の歌」となった英国民謡を!明治の人たちの英国に対する憧憬が感じ取れるだろう。その他の日本オリジナルの唱歌ももちろんすばらしい。