Seiji & Fumi Duo for Dvorak



 昨日は私が入っているオーケストラの団内アンサンブル大会で、ドヴォルザークのヴァイオリンとピアノのためのソナチネ ト長調 作品100(1、4楽章)をせいじと2人で演奏した。ドヴォルザークのソナチネは2008年のせいじのピアノ発表会でもトライしたが、いろいろな意味で不満の残る出来だったことはすでに書いた通り。
  この曲は、ドヴォルザークがアメリカ滞在時代のほぼ最後の時期に、自分の娘(長女オティーリエ)と息子(何男なのか知らないが10才のアントニン)のために書いた小品である。子どものために書いた曲ということもあり、とくにヴァイオリンパートはハイポジションや難しいパッセージが出てくることなく、易しく書かれている。むしろ、ピアノ伴奏の方がよほど難しいのは、当時15才だった長女オティーリエのピアノの腕が相当優れていたあかしだろう。とは言っても、ピアノパートも、ベートーヴェン、ブラームス、フランクなどの本格的なヴァイオリンソナタの伴奏に比べれば、ずっと平易だ。それでいて、いかにもドヴォルザークらしく郷愁にあふれた美しいメロディーとヴァイオリンとピアノの親密な掛け合いが魅力的な佳品である。
 ピアノの発表会で私がこの曲を弾くことを選んだ理由の一つとして、ドヴォルザークのピアノ曲は「ユーモレスク」を除けばマイナーなので(この曲ですら今はヴァイオリン編曲版の方が有名)、ピアノを習っている子どもたちに、ドヴォルザークの”メロディーの素晴らしさ”を伝えたかったということがある。ピアノという楽器にとって19世紀最高のメロディーメーカーがショパンだとしたら、弦楽器にとって最高のメロディーメーカーの一人がドヴォルザークと言っても間違いではあるまい。それがこの小品にもはっきり表れていると思う。

 アンサンブル大会で演奏したのは第1、4楽章の二つの楽章であったが、映像つきの演奏は譜めくりをしていただいた方の姿が入っていることと、前日自宅で本番を想定して通して演奏したテイクの方が2人とも出来がよかったので、こちらの映像なしバージョン(ホーム・テイク)をYouTubeにアップした。アンサンブル大会に置いてあるピアノはグランドピアノだから、ピアノの音はよく響いたのであるが、せいじはミスタッチが多かったのが不満で、私は歌う楽器ヴァイオリンの最大の聴かせどころである第4楽章、Molto tranquilloの第3主題の音程が悲しいくらいボロボロだった。聴衆を前にするとどうしても緊張すること、完全に体に覚えこませるまで練習していないことが最大の原因なのだが、つくづく本番で練習のときのような演奏をすることは難しい…。

●ドヴォルザーク ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ ト長調 作品100  第1楽章 (Seiji & Fumi, 2008.11.22録音)
 昔(20年くらい前)NHKの教育TVでやっていた「バイオリンのおけいこ」という番組でこの曲の1楽章が課題曲になっていて、小学校中学年くらいの子が何人か登場するのだが、最初の4小節の主題の弾き方を先生が細かく注意していた記憶がある。そのときから、この最初の”大事な主題”がずっと耳に残っている。昔の楽譜を見ると、最初の長く伸ばす2音(G、H)がダウン、アップというボーイングであったのに対し、最近のHenle版の楽譜では、その2音のボーイングがダウン、ダウンと弓を素早く返し、勢いをつけて弾くようになっている。その他、細かいところで昔の楽譜とは異なる部分がかなりあり、このような小品といえどもドヴォルザークの研究が進んでいることを窺わせる。




●ドヴォルザーク ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ ト長調 作品100  第4楽章 (Seiji & Fumi, 2008.11.22録音)
 ピアノ・パートを”初演”したと思われる長女オティーリエは、後にドヴォルザークの弟子であった作曲家ヨセフ・スークと結婚し、現代チェコの名ヴァイオリニスト、ヨセフ・スークは彼らの孫、ドヴォルザークの曾孫にあたるのはよく知られている。そのスークがホレチェクのピアノ伴奏で1971年に録音した演奏(上のジャケット参照)では、全曲の白眉ともいうべき第4楽章、Molto tranquilloの第3主題を思い入れたっぷりにゆったりと弾く。スークの演奏で聴くと、この第3主題がよく知られた「新世界」交響曲第2楽章の名旋律に劣らず素晴らしいものであることを実感させてくれる。私がいくら練習してもスークのように弾けるはずもないが、自分で弾いていても本当に魅力的なメロディーだと思う。



 なお、せいじはアンサンブル大会でピアノ・ソロの曲も4曲披露したが、それらはPTNAピアノコンクール2008年のせいじのピアノ発表会で弾いた曲と同じなので、ここでは割愛させていただく。

(2008.11.24)