ピアノ・ソナタ 変ロ長調 K.570


内田光子(P) (PHILIPS 422 115-2)
 
この曲を初めて聴いたのは,中学生のときだったか高校生のときだったか,日本の名ピアノ伴奏者として知られる小林道夫の札幌におけるリサイタルで第3楽章がアンコールとして弾かれたときだった。そのときは,何と軽やかできれいな曲だろうと思った。しばらくしてから全曲を聴いたが,最初の印象が強かったためか第3楽章のアレグレットにいちばん愛着を覚える。同じ変ロ長調のソナタでも中期の傑作K.333に比べたら華やかさは少なく(とくに第1楽章),どちらかといえば地味な印象を与える曲だが,第3楽章に関してはモーツァルトのすべてのピアノ・ソナタの中でも最も「童心」を感じさせる小さくかわいらしい曲の一つといってもよいだろう。モーツァルトは晩年になればなるほど,充実しきった深い音楽を書く一方で,このようなふわっとした「軽い」音楽を書くことができたのだった。

*MIDI:第3楽章(Allegretto)