アバディーン美術館展を見て



 2001年2月20日から4月1日まで島根県立美術館で開催のアバディーン美術館展(正式な展覧会の名称は「イギリス・フランス近代名画展」を見た。「ターナー,ロセッティ,モネから初公開のスコットランド絵画まで」という触れ込みである。美術館を訪れた3月10日は土曜日であったが,前日松江が3月としては観測史上最高の大雪を記録したこともあってか館内は比較的すいており,6才と4才の悪ガキを連れて行くにはちょうどよかった。展示作品の総数は80品とそう多くないが,小さい子どもを飽きさせずに連れて見るという点ではちょうどよい分量であった。
 展示作品は大きく6つのセクションに分けられていた。第1セクションの「イギリス絵画 −18世紀からロマン派へ−」では,ターナーの「ロカルノに向かう道から見たベリンツォーナ」をはじめ水彩画4作品が展示されていた。ロンドンのテイト・ギャラリーにあるような大作はなかったけれども,上の作品では柔らかい幻想的な光の感じがよかった。詩人にして画家のウィリアム・ブレイクの「ラザロの蘇生」は聖書のエピソードを画題にした宗教的作品であるが,中央のキリストの白く輝く神々しい姿と,その足許にひざまずく2人の黒い衣装を来た女性の対照が印象的。
 第2セクションの「ラファエル前派とその周辺」では,展覧会のポスターやチラシにも使われているジョン・エヴァレット・ミレーの「澄んだ眼差し」と,ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティの「マリアーナ」が2大目玉。これらの作品の前で足を止めている人が多かった。前者は,まっすぐ正面を見つめる題名通りの澄んだ眼差しと衣装の真っ赤な色が鮮烈な印象。後者は,ウィリアム・モリスとの三角関係で有名なモリス夫人ジェインがモデル。ケルムスコット・マナーにもジェインがモデルの絵の複製が置いてあったと思うが,ジェインの物憂げなちょっと下を向いた横顔は,一度見たら忘れられない印象を残す。
 第3セクションの「ヴィクトリア朝絵画の隆盛」では,いわゆるこの時代の社会・風俗を映した「風俗画」と,昔の神話や文学に題材を求めた絵の両方が展示されていた。その中でも最も目玉だったのがエドウィン・ランドシーアによる,「山岳地方の洪水」という大きな作品。ヴィクトリア朝絵画の多くは新興ブルジョアジー向けの作品だったためか,古典的で分かりやすい構図と描き方の作品が多く,ラファエル前派の作品に比べると,安定しているけれども新鮮味には欠けるのではないかという気もするが,風俗画には風俗画の楽しみ方があるようだ。
 第4セクションでは「フランスのリアリズム」,第5セクションでは「フランス印象派から現代へ」と題して,フランスの画家の作品が展示されていたが,フランス絵画,とくに印象派のモネやルノワールは日本の美術館やデパートでもしょっちゅう(と言わないまでも頻繁に)見られるので,それほどおもしろさは感じなかった。でも,やっぱりモネの「フェカンの断崖」の海と空の青色の使い分けはよかった。
 第6セクションの「現代のイギリス絵画」で一番印象に残ったのは,フランシス・ベーコンの「教皇T−ベラスケスに倣ったローマ教皇の習作」である。バックの黒とデフォルメされた教皇の顔,暗い紫色の法衣が不気味な雰囲気を漂わせている。
 いつか花の街と謳われるスコットランドのアバディーンに行き,この美術館を訪れてみたいものである。