ルーシー・M・ボストン


ふしぎな家の番人たち
ルーシー・M・ボストン 作/卜部千恵子 訳(岩波書店)¥1,400

 正統派ファンタジー「グリーン・ノウ物語」シリーズ(評論社)で名高いボストン夫人の短いけれども彼女ならではの魅力に溢れたファンタジー。「グリーン・ノウ」でも作者は自分が住む古いマナーハウスを作品の舞台にしたが(ここらへんの事情については,このマナーハウスに下宿していた林望氏の数あるエッセイに詳しい),このおはなしの舞台も,都会の公園のはずれにあるいかにも「秘密をたっぷりかくしているような」古いお屋敷である。このお屋敷に住んでいる女主人の留守にしのびこんだトム少年は,お屋敷を守る不思議なお面や石像に出会う。まさに原題の"The Guardians of the House"とおりのおはなしになってくるわけである。トムは「彼ら」が生きていた遠い過去の世界でいくつもの不思議な体験をするのだった…。このファンタジーにあるのは,めくるめくようなダイナッミックで現代的な冒険ではなく,少年の心の内面を覗くような神秘的で哲学的といってもよい体験である。この体験が説得力あるものになっているのも,ボストン夫人の細やかで繊細な情景・心理描写があるからこそだろう。活字も大きくて,対象も小学4,5年以上となっているけれども,この本は決して子どものためだけのファンタジーではない。優れたファンタジーは常にそうであるが…。
 林望氏訳の
「ボストン夫人のパッチワーク」 のあとがきによれば,ボストン夫人の死後ヘミングフォードのマナーハウスを管理してきた息子のピーター・ボストン氏も亡くなったということだが,そのピーター氏の描くファンタジックな挿絵が文章と見事に調和している。