ウィリアム・モリス


世界のかなたの森
ウィリアム・モリス 作/小野二郎 訳(晶文社)¥1,500

 ウィリアム・モリスといえば,いうまでもなくヴィクトリア朝時代に活躍した装飾芸術家として,彼の手による壁紙や織物のすばらしい装飾デザインは今なお高い人気を誇る。デザイナーとしての功績があまりにも大きかったので,他の分野におけるモリスの功績は忘れられがちであるが,
ケルムスコット印刷所の創設者として,社会主義運動家として(「ユートピア便り」(岩波文庫)という名著を残している),詩人として,そして最初期のファンタジー作家として多くの足跡を残している。本書は原題を"The Wood Beyond the World"といい,1894年というモリス60歳の晩年に書かれたファンタジーである。旅に出た青年ウォルターが「世界のかなたの森」で経験する数々の不思議な出来事。物語は中世の騎士物語風の古風な雰囲気と妖精物語の神秘さがからみ合いながら栄光の終局へと向かう。デザインと同様想像力に溢れたモリスのファンタジーを小野二郎氏の名訳で。