Hark! the Herald Angels Sing


 「天(あめ)にはさかえ」(賛美歌98番)で日本でも広く知られるこの曲は,ドイツ初期ロマン派の天才作曲家フェリックス・メンデルスゾーン(1809-1847)が作曲したということになっているが,もともとこの賛美歌のために書かれた曲ではなく,"Festgesang"(1840)というカンタータの中の曲である。これを賛美歌用に1857年に編曲したのが英国デヴォン州のシドベリーで生まれロンドンで没した英国人ウィリアム・H・カミングス(1831-1915)であった。メンデルスゾーンは1847年(彼が死去する年)彼自身の大作オラトリオ「エリヤ」をデヴォンのエクセター・ホールで自身の指揮により演奏した。このときまだ10代半ばであったカミングスが歌手の一人として演奏に加わっていた。これが後にカミングスがメンデルスゾーンの曲を賛美歌に編曲するきっかけとなったのであろうか。カミングスは素晴らしいテノールの声を持った歌手で,その名声は英国ばかりかアメリカにまで轟いていたという。後に1879年からは15年にわたり"The Royal Academy of Music"の声楽教授も務めている。バロック時代の英国を代表する大作曲家ヘンリー・パーセルを研究・顕彰するパーセル協会を設立するなどの経歴からしても,19世紀英国音楽界を代表する重鎮といってよいだろう。
 一方歌詞を書いたのは,これまた18世紀英国を代表する宗教家にして讃美歌作者であったチャールズ・ウェズレー(1707-1788)である。1739年の作と言われているが,ウェズレーの元々の詩と現在歌われている歌詞ではやや細部に違いがある。より歌いやすい歌詞に改めたということだろう。

現在の歌詞
*太字はウェズレーの原詩と異なる部分
Hark! The herald angels sing,
“Glory to the newborn King;
Peace on earth, and mercy mild,
God and sinners reconciled!”

Joyful, all ye nations rise,
Join the triumph of the skies;
With th'angelic host proclaim,
“Christ is born in Bethlehem!”
以下省略



ウェズレーのオリジナルの詩
Hark, how all the welkin rings,
“Glory to the King of kings;
Peace on earth, and mercy mild,
God and sinners reconciled!”

Joyful, all ye nations, rise,
Join the triumph of the skies;
Universal nature say,
“Christ the Lord is born to-day!
以下省略

 私がこの曲を聴いて真っ先に思い出すのは,ジェームズ・スチュワート主演の映画「素晴らしき哉,人生!」(1946米)の感動的なラスト・シーンである。クリスマスに自殺を考えた主人公が天使と周りの人々の善意で救われ,一同がクリスマスを祝って高らかに"Hark! The herald angels sing,…"と歌うシーンは何度見てもホロリとさせられる。