Lake District


Panorama views of Ullswater (top) & Lake Grasmere (bottom) 

INDEX

■湖水地方の旅へ
■Ullswater
■Aira Force
■Dove Cottage
■Grasmere
■Rydal Water
■Lake Windermere
■Beatrix Potter Gallery
■Derwent Water


湖水地方の旅へ

 コッツウォルズと並ぶ英国のドル箱,いやポンド箱観光地である湖水地方。コッツウォルズはバースから近いからごく行きやすいのに対し,湖水地方はバースからだとかなり遠い。しかし,英国にいるうちに一回は行ってみたい。観光客で混む夏に行くのは避けたいが,気候的なことと兄がちょうど日本から遊びに来ることを考えると,8月のサマー・ホリデーに行くしかあるまい。ということで,
ピーク・ディストリクトのベイクウェルを経由して2泊3日で湖水地方へ行く計画がとんとん拍子にまとまった。ベイクウェルで1泊した後は,マンチェスター方面に向かい,市内を避けてM6に入り,ひたすら北を目指す。プレストンを過ぎたあたりから,まわりの景色にも一層のどかさが増していく。牧草地でのんびりと草を食む羊たちを見て,だれが2年後の口蹄疫の大災厄を想像できただろうか。
 今回は,湖水地方を北から南へ旅するルートを取るため,ジャンクション20で降りてA592に入り,まずはUllswater方面を目指す。


Ullswater
 Ullswater(ウルスウォーター)は湖水地方に到着してはじめて見た湖である。そのこともあったのかもしれないが,息を飲むほどの美しい湖であった。夏の湖水地方といえども,観光客は少ない(湖にゴムボートを浮かべていたイギリス人カップルはいたが…)。湖は緑の木々で覆われ,晴れていたため対岸のなだらかな山々がはっきりと見渡せる。岸辺ではのんびりと水鳥が泳いでいる。いつまでも居たくなる情景というのはこういう情景のことをいうのだろう。私が一押しの湖である。



Aira Force
 Ullswaterの近くには,Aira Force(エアラの滝)と呼ばれる英国では珍しい滝がある。駐車場に車を停めて滝までは山道が続き,徒歩で片道20〜30分はかかるので,駆け足で湖水地方を回る人向きではないが,周囲の美しい自然を満喫しながら歩くのには絶好のスポットである。もっとも小さい子を連れて行くと,おそらく途中からずっと抱いて歩かなくてはいけなくなるだろう。相当に体力が要るコースではある。それだけに,ようやく滝にたどり着いた時の感激はひとしおだった。高さ18メートルというから,それほど大きい滝というわけではないのだが,英国では珍しい渓谷の滝は清涼そのものだった。ワーズワースが愛した滝というのも頷ける。



Dove Cottage
 Aira ForceからA5091でもう一度北に少し上がり,A591で南下してGrasmere村の南にあるDove Cottage(ダヴ・コテージ)へと向かう。ここは私の大好きなロマン派の大詩人ウィリアム・ワーズワース(1770-1850)が1799年から1808年の約10年間妹のドロシー(1802年からは妻メアリが加わる)と暮らしながら旺盛な詩作活動を送った家である。現在このコテージは1891年に創設された
ワーズワース・トラストが管理している。ダヴ・コテージに一歩入ると,小さく質素な家なのに驚かされる。それでいて貧しいという感じは少しもしない。ワーズワースが,湖と緑に囲まれたグラスミアの地で,彼の「質素な生活と高潔な精神」という理想を自ら実践していたことが隅々にまで感じられる家なのである。人が集まり賑やかで,机もない茶の間でほとんどの詩を書いたというワーズワース。本当に彼に必要だったのはグラスミアの美しい自然と自らの霊感だけだったに違いない。

 The Daffodils

 I wander'd lonely as a cloud
 That floats on high o'er vales and hills,
 When all at once I saw a crowd,
 A host of golden daffodils,
 Beside the lake, beneath the trees
 Fluttering and dancing in the breeze.

 Continuous as the stars that shine
 And twinkle on the milky way,
 They stretch'd in never-ending line
 Along the margin of a bay:
 Ten thousand saw I at a glnce
 Tossing their heads in sprightly dance.

 The waves beside them danced, but they
 Out-did the sparkling waves in glee:−
 A Poet could not but be gay
 In such a jocund company!
 I gazed− and gazed− but little thought
 What wealth the show to me had brought.

 For oft, when on my couch I lie
 In vacant or in pensive mood,
 They flash upon that inward eye
 Which is the bliss of solitude:
 And then my heart with pleasure fills
 And dances with the daffodils.

 ワーズワースが約200年前に,この「水仙」の詩を書いた部屋に今いるのだと思うと感無量だった。水仙の花が詩人の霊感を呼び覚まし,詩人はこの花の名をますます高めたのだ。
 Dove Cottageに隣接して19世紀半ばの馬車宿を改築して作られたThe Wordsworth Museumがあり,ワーズワースの原稿,本,肖像画,写真等が展示されている。ワーズワースのファンにはこちらも興味深い。ショップでは,詩集や,水仙をデザインした皿が売っている。




Grasmere

 Grasmere(グラスミア)は,落ち着いた古い雰囲気の残る人口1600人ほどの小さな町である。石造りの家並みが美しい。Lake Grasmere (グラスミア湖)も,ウィンダミア湖とは違い,自然保護のため車での乗り入れが禁止されているだけあって,喧騒から遠く離れて静かで美しい湖を満喫できる。人も少ない。私たちの泊まったホテルからは湖の河岸へと続く遊歩道があった。湖に着くと,湖面をじっと眺めている親子が居た。私たちも湖から動きたくなかったのは同じである。


Thistle Grasmere
Tel: 0870 333 9135  Fax: 0870 333 9235
 私たちが泊まったときにはPrince of Wales Thistleという名前のホテルであった。Thistleチェーンのホテルなので,個性的なサービスは期待できないかもしれないが,子連れでも気を遣わずにゆったりした滞在を楽しめる。湖の河畔まで遊歩道があり,美しい庭もある。レストランは可もなく不可もなくといったところか。



Rydal Water

 朝起きると今日も天気はよし。朝食を取りホテルを出る。グラスミアを少し南に下ったアンブルサイドへの途中に小さな湖Rydal Water(ライダル湖)がある。まだ他に人は誰もいないようだ。静かな湖面と対岸の景色が実に美しい。ワーズワースがダヴ・コテージの後に住んだRidal Mountも近くにあるが,今回は通り過ぎるだけでパス。なにしろきょうは朝のうちにウィンダミアに行かなければならない。


Lake Windermere
 湖水地方の中心地Windermere(ウィンダミア)に入ると,急に人が多くなる。ホテルやB&Bもたくさんあるようだ。市街地では降りずにまっすぐ湖畔のBowness(ボウネス)へと向かう。フェリーに乗ってのクルーズをするためだ。すでに相当な数の人が同じ目的で来ている。ボウネスからは一番オーソドックスなBelle Isleの周りをぐるっと回るクルーズのほかにも,アンブルサイドへのクルーズやレイクサイドへのクルーズがある。私たちは一番普通の島巡りのクルーズ(所要45分)にした。船に乗れるとあって子どもたちは大喜び。船が出ると湖畔の街がどんどん小さくなっていく。たくさんの個人のヨットが岸につながれているのが見える。爽快な風,沖から見る緑,なにもかもすばらしい。Belle Isleはこんもりとした小さな島である。宍道湖の嫁が島と大して違いないのではなかろうか。そうこうしているうちに再びボウネスの湖畔が見えてきた。45分はあっという間である。次回は違うコースのクルーズもしてみたいものだ。




Beatrix Potter Gallery

 ウィンダミアを後にし,本当に小さな村Hawkshead(ホークスヘッド)へと向かう。ここでは,ビアトリクス・ポターの夫であったWilliam Heelisが開いていた法律事務所が現在Beatrix Potter Galleryとして公開されている。管理しているのはもちろんナショナル・トラストである。このギャラリーの目玉は何といってもポターの描いたオリジナルの原画である。顔を絵に近づけてしげしげと見ると,いかに彼女が一枚一枚の絵を精魂込めて丁寧に描いていたかわかる。一本一本の線が非常に繊細なのだ。私は特別に熱心なポターのファンではないが,熱心なファンの人ならいくら眺めていても飽きないだろう。日本からのビジターもたくさん見かけた。ギャラリーには,原画のほかにもポターの遺品が展示されている。ホークスヘッドにはワーズワースが通ったOld Grammer Schoolもあり,中も公開されているようだが私たちは外側から見ただけである。
 Beatrix Potter Gallery同様ナショナル・トラストが管理しているNear Sawrey村のHill Topはポターの農場と家をそのまま保存したものとして日本でも有名である。私たちは行かなかったが,ポター関係ではむしろこちらを訪問する人の方が多いだろう。次に湖水地方を訪れるときには,(できれば観光客の多い時期を避けて)ゆっくりと1日かけてNear Sawreyを訪問したいものである。



Derwent Water

 そろそろバースに戻らなければならない時間が近づいてきた。最後に,もう一つだけでも静かで美しい湖が見たいということで,私たちが向かったのは,グラスミアの北方Keswick(ケズウィック)にあるDerwent Water(ダーウェント湖)である。期待に違わぬのどかで美しい湖だ。子ども達は水鳥に餌をやるのに一生懸命。しばし湖を楽しんだ後,後ろ髪を引かれる思いで湖水地方を後にした。高速を使ってもバースまではたっぷり6時間はかかった。
 私たちの正直な感想として,有名なウィンダミア湖にはウィンダミア湖のよさがあるけれども,湖水地方らしい魅力を味わうためには,どちらかというと日本のガイドブックにはあまり紹介されていない小さな湖を訪れた方がよい。俗化していない湖と周囲の景観の美しさは筆舌に尽くしがたい。HPの写真ではその美しさの5%も出せないのが本当に残念である。
LAKELAND LANDSCAPESのような英国で出版された湖水地方の美しい写真集を見ると,四季折々の変化に富んだ湖の姿がよくわかるのだが…。もちろん,機会があれば湖水地方はもう一度ゆっくりと訪れてみたい。それも,タイトなスケジュールではなく,何日かゆっくりと滞在して,ただひたすら湖畔でボーッとしたり,湖畔のウォーキングをしたりしてみたいものだ。