わが戦記(6)

山岳地帯での戦闘(2)

 我が部隊はボントックに設営した。先に書いた敵の機関銃座は、その後も我が軍の脅威となり、他通過部隊もその地点で損害を受けた。私は大隊長の志岐少佐から命令を受けた。「上杉少尉は中隊長となり2ケ小隊を率い、敵機関銃座後方の部隊を制圧せよ」と。そして部隊で1台しかない重機関銃の携帯を許してくれた。

 私はもう一つの小隊、戸塚小隊と共にボントックを出発した。途中で兵隊に斬り込みについての方法を教えた。バギオの防空壕で聞いた横浜の斬り込み隊長の話が参考になった。兵隊は私も含め皆手榴弾をバンドに吊るして2個持ってる。1つは敵の攻撃用、もう1つは敵に捕ったときの自殺用である。兵隊は現役の優秀な者ばかりであるが、私は再度手榴弾の使い方について教えた。「銃剣で突撃する前に先ず手榴弾を投げろ」「手榴弾は突起を押したら5秒で破裂する、押して1,2,3で投げるんだ」。

 わが隊は山に上った。そこには既に友軍がいて敵と交戦中であった。塹壕を掘って敵と撃ち合いをやつていた。戦死者が多数出ていた。敵の銃火器の方が質量共に優勢である。前任隊長は状況を説明し、私を後ろに塹壕を次々と案内してくれた。さっと走ってはパッと伏せる、さっと走ってはパッと伏せる。敵はその度にピューンピューンと狙撃してきた。 弾着点を見るための曳光弾も交じっている。

 前任隊は山を下って行った。私は考えた。「同じことをやっていては我々もやられる。撃ち合いをやったら勝てっこない、 兵隊がびびってしまう。夜襲をやろう、やるなら今晩だ」中隊指揮斑の近藤曹長を呼んだ。「今晩夜襲をやろう」「やりましょう」言下に返事が返ってきた。平林軍曹ら5名を斥候に出した。平林軍曹は夜中敵陣を偵察して帰って来た。「敵前線陣地は少数の守備兵のみであとの部隊は後方で寝ています」。

 そこで私は原隊の志岐大隊長に「全員で今から敵陣に突入する」と伝令を出した。

 待機していた我々は藪中の小道を通り敵陣へ飛び込んだ。私は軍刀を抜き、兵隊はつけ剣、しかし敵陣は我々の襲撃を察知し既に逃げていた。

 こうして今まで脅威であつた敵の機関銃座は無くなり、道路を通行する吾が軍の被害もなくなった。後で志岐少佐から大変誉められた。

 敵陣を占領した我々は後方へ下がった敵部隊と撃ちあいやった。かなり距離があるので持ってきた重機関銃が役にたった。射手が「何人倒しました」と言ったが目の悪い私には見えない。暫らくこの陣地で敵と対峙した。谷へ水を汲みに行った兵隊が足を撃たれ背負われて帰って来た。

 迷い込んだ水牛がいた。皆んなで喜んで食べた。しかしまるでゴムだ、噛んでも噛んでもすぐ元に戻る。もうやめた

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