わが戦記(7)

山岳地帯での戦闘(3)

 この陣地は裸山だがまばらに背丈ぐらいの潅木がある。そこに駐留していたある日飛行機がきた。アメリカの戦闘機ロッキードだ。双胴双発のロッキード5機が次々と我々の目の下の谷間を通っていく。距離100mぐらい、顔も見える、飛行眼鏡も見える。向こうはこちらに気がついていない、「撃つな撃つな」、誰もが気を飲まれたように潅木の隠から眺めていた。ロッキードは 4回、5回向こうの山を旋回し繰り返しこの谷を通過した。ボントックの日本軍を攻撃しているのだ。ドラムカンを落とし機銃の曳光弾で炎上させていた。ボントック方向に煙の上がるのが見えた。

 原隊に戻った。暫くして志岐大隊長は私に次のように命令をされた。「上杉少尉は軍司令部に赴き、わが師団の配備位置を聞いて来い。少数の敵は突破して行け」とそう言われ各隊から優秀な兵12名を選び私に付けて下さった。

 軍司令部のあるキヤンガンへ向かった。途中の地域は彼我入り乱れて交戦中である。出発して直ぐだった。海軍の兵隊4人が血を流して死んでいる。今戦闘があったばかりだ。私は兵隊に命じ手と足を握り死体を道路から傍らの藪に移動してやった。詳細を調べる暇はない、私達は直ちに付近の山に隠れた。向こうから米軍のM4戦車4台がやって来るとの情報が入った。この小人数では勝てっこない、我々には任務がある、無理することはない。

 今日は昼、明日は夜と自分の感で道路を進んだ。何日かして山と谷の中腹の稜線で休憩していた。山陰の向こうから敵兵7,8人がやっ来た。こちらに気がついていない。「ヤーッ」と兵隊が付け剣のまま突っ込んでて行った。敵は下の谷へダイビングして逃げた。上から撃ったが萱で見えない。こんなところ長居は無用だ。私達は又付近の山に隠れた。

 昼間行軍している日であった。「オーイ俺は日本兵だ」と言う声がして、アメリカ軍の服を着た奴が一人上の藪から下りて来た。「何だ」と聞くと「俺は少尉だ、斬り込みにいき部隊は四散した。中隊長と2人立っていたら後ろにいた中隊長だけ撃たれ、敵中で一人になって隠れていた。この服は米軍のテントに入つて盗んだ、同道させてくれ」と言う。

  やがて軍司令部に着いた。そしてわが師団の配置についての命令を受けた。

 ここで偶然又山下大将にお会いした。外で椅子に座っておられた。敬礼をしたら無帽のまま答礼をされた。「痩せられたなあ」と思った。

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