報道・新聞社説

東京新聞2000.5.29 ─戦後賠償、外交文書公開
・共同通信1999.8.28  ─ 戦後補償 田中宏教授コメント

朝日新聞98.10.11 ─被害者の心を原点に

統一日報98.7.14 ─慰安婦、真の決着へ指導性を
統一日報97.7.12 ─胸痛む元慰安婦七人への罵(ののし)り

共同通信96.5.7 ─韓国人元慰安婦へ一時金、極秘に支給
共同通信97.7.20 ─「慰安婦」被害者を支援団体らがいじめ


 

計算された戦後賠償
東京新聞2000.5.29より

外務省、28日、外交文書公開
1976年から外務省が独自の判断で、作成後30年を経過した外交文書を公開しており、今回はその15回目。
 

【東京新聞2000.5.29】
対東南ア戦後賠償
将来の関係発展の可能性も考慮
 日本が東南アジア諸国との戦後賠償交渉で、実際の戦争被害から判断すれば三番目と見ていたインドネシアへの賠償・経済協力を実質的に最高水準に引き上げるなど、両国関係の将来性を考慮して優遇していたことが分かった。
 公開された外交文書によると、日本政府の方針は「戦争被害の多寡から見れば、フィリピン、ビルマ(現ミャンマー)、インドネシアといった順となり、賠償は各国の戦争被害を前提とする」というのが基本。しかし、「求償国との将来の経済関係発展の可能性をも考慮に入れ、手心を加えざるを得ない」との判断もあった。
 これに基づきフィリピン、インドネシア、ビルマの賠償比率を四対二対一とする方針を決め、ビルマへの賠償は一九五四年に二億ドルで妥結。フィリピンとはその二年後、賠償五億五千万ドル、経済協力二億五千万ドルの計八億ドルで合意に達した。しかし、日本は最終的に天然資源が豊富なインドネシア関係を重視。賠償、経済協力を実質で計八億ドルと、トップのフィリピンに並ぶ水準にし、五八年一月、協定に調印した。
 当時のインドネシアは経済危機や反乱など、スカルノ政権は極めて不安定な状況だった。しかし、同大統領は「戦時中に訪日した時の朝野から受けた厚遇は、一生忘れることはできない」「日イ友好関係増進のため、全力を尽くす」という、親日的な態度を伝えていたことから、これも日本側の判断に影響を与えたのは間違いない。


 

戦後処理、清算できるか負の遺産
 〈全面解決なお遠く〉
1999年08月28日共同より

 小渕政権は、国旗国歌の法制化や靖国神社への首相公式参拝に向けた環境整備などに乗り出す一方、在日韓国人の元軍人・軍属への補 償など「負の遺産」の清算にも着手しつつある。自自公の安定した政権基盤を背景に「二十世紀中に戦後政治の総決算を」と意気込む小渕恵三首相だが、歴代政権がなかなか果たせなかった戦後処理問題の解決を目指し、どこまで道筋を付けることができるか―。

 小渕政権のけん引役の野中広務官房長官は「アジアの国々の人々には、戦後処理の残った問題があり、その傷をどのように埋めていくか、わが国の重要な任務だ」と、戦後処理に意欲を示す。戦後処理問題については一九九五年、当時の自社さ政権に「戦後五○年問題プロジェクト」を設置。九六年三月に十二項目の合意をまとめ、従軍慰安婦問題解決を目的に設けられた「女性のためのアジア平和国民基金」や中国での遺棄化学兵器処理問題を盛り込んだ。
 小渕政権は発足以来、遺棄化学兵器廃棄に関する日中覚書に署名し、来年度予算に処理作業経費五十億円を計上するほか、@在日韓国人の元軍人・軍属に対し、特別立法による一時金支給Aアジア歴史資料センターの設立準備―などの方針を固めている。
 しかし、野中長官が解決すべき問題の一つとの認識を示した香港の軍票問題については、まだ検討されておらず、「女性のためのアジ ア平和国民基金」は行き詰まっている。
  戦後五○年問題プロジェクトの合意から外された「旧植民地出身の軍人・軍属の補償問題」は、台湾人については既に一時金の支給がなされ、在日韓国人についても支給の検討が始まっているが、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)国籍の人については手つかずのままで、全面的解決には程遠いのが実情だ。

 ▽遺棄化学兵器処理
  旧日本軍は第二次大戦中に、中国に約七十万発の化学兵器を遺棄したと推定され、化学兵器禁止条約により、日本は二○○七年までに処理を完了するよう義務付けられている。
 政府は、毒性と爆発の危険性の低いものから三段階に分けて処理する方針で、二○○○年度から「赤筒」と呼ばれる嘔吐(おうと)性ガスの処理を先行して開始する。
 初年度の処理経費として五十億円を計上する方針で、総額では二千億―五千億円が必要とみられている。日中両国政府は七月末、処理の枠組みを決めた覚書に調印、解決に向け動きだしたが、期限内の処理は困難とみられている。

▽軍票
 「軍用手票」の略語で、旧日本軍が物資調達などのために発行した特殊な紙幣。占領地住民に対し強制的に現地通貨と交換させた。日本は敗戦直後に無効を宣言。住民らは、無価値となった軍票の換金を求め提訴したが、「損害を補てんするかどうかは立法政策の問題」 などとして、現時点では請求はいずれも棄却されている。
 大蔵省によると、軍票は香港、インドネシア、マレーシアなどで計約四十五億円分(当時)を発行。香港住民の被害が最も大きく、香港を含む中国方面の発行額は約三十四億円(同)に上った。

▽軍人・軍属問題
 旧日本軍の軍人、軍属だった在日韓国人は、日本人並みの恩給支給など戦後補償を求めている。日本の敗戦により、約二十万人に上る  朝鮮半島出身の軍人、軍属は日本国籍を失うと同時に、日本国籍を前提とした恩給法、戦傷病者戦没者遺族援護法上の受給資格を失った。加えて政府は一九六五年の日韓請求権協定により「日韓両政府間では請求権の問題は完全かつ最終的に解決された」との立場を取っている。しかし「個人の請求権は失われていない」として訴訟が起こされ、裁判所もたびたび法的救済措置の必要性を認めている。戦争 犯罪を問われ日本軍のBC級戦犯として処罰された人も含まれている。


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 =戦後処理問題の歩み=


              1895・4 日清講和条約調印。台湾植民地支配開始
              1910・8 日韓併合条約調印。朝鮮植民地支配開始
              31・9 柳条湖事件。満州事変始まる
              38・4 国家総動員法公布。朝鮮で陸軍特別志願制度実施
              39・7 国民徴用令公布
              42・4 台湾で陸軍特別志願制度実施
              44・9 台湾に徴兵制実施
              45・8 日本の敗戦と植民地の解放
              46・2 軍人恩給廃止
              50・6 朝鮮戦争始まる
              51・9 サンフランシスコ講和条約調印
              52・4 サ条約発効。主権回復。台湾、朝鮮出身者の日本国籍喪失確定
              52・4 日華平和条約締結。台湾が日本政府への請求権を放棄
              52・4 戦傷病者戦没者遺族援護法公布
              53・8 軍人恩給復活
              65・6 日韓基本条約など締結。韓国、日本政府への請求権を放棄
              72・5 沖縄返還
              72・9 日中国交回復。日中共同声明で中国は日本への戦争賠償請求の放棄を宣言
              87・9 台湾人元日本兵の遺族と戦傷病者に対する弔慰金制度制定
              90・9 自民党の金丸信元副総理と田辺誠社会党委員長が朝鮮民主主義人民共和国を訪問。自民、社会、朝鮮労働党が三党共同声明
              90・10 韓国の元従軍慰安婦などでつくる「韓国太平洋戦争遺族会」が国家賠償を求めて東京地裁に提訴
                  *注 91.12.6 韓国・遺族会は弁護士をつけ日本を相手に補償請求、東京地裁に提訴
              91・1 日朝国交正常化交渉開始(その後、中断)
              91・11 韓国・朝鮮人元BC級戦犯らが国家補償などを求めて東京地裁に提訴
              93・8 香港住民が軍票の補償を求めて東京地裁に提訴
              95・8 「植民地支配と侵略への反省」をうたう戦後50年の村山富市首相談話を発表
              96・3 与党(自社さ)戦後50年問題プロジェクトが「女性のためのアジア平和国民基金」など十二項目の施策を発表
              99・7 中国との間で、遺棄化学兵器処理に関する覚書を交わす
              99・8 政府、自民党が靖国神社への首相公式参拝実現に向け検討開始
              99・8 国旗国歌法成立
 

 
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共同記事つづき
田中宏一・一橋大教授に聞く
 日本アジア関係史専攻の田中宏・一橋大学教授に戦後処理の在り方を聞いた。

 ―今回、在日韓国人軍人・軍属の戦後補償問題で政府に動きが出てきた理由をどう考えるか。
  「昨年九月、元軍属の在日韓国人が日本人と同様の補償を求めた訴訟の判決で、東京高裁は『(原告らは)現在、補償面で日韓両国から放置されている。速やかに対応することがわが国の政治的、行政的責務だ』と指摘した。これは一九九○年以降の、戦後補償を求める訴訟の積み重ねの成果で、それが今年になって恩給法、戦傷病者戦没者遺族援護法の金額改定を審議する国会で取り上げられ、野中広務官房長官が前向き答弁することにつながった」

―在日韓国人軍人・軍属への対応が、他の戦後補償要求に波及する可能性は。
 「恩給法、援護法は、軍人・軍属に対して国家補償を行う実定法で、国籍のみで在日韓国人らを排除する問題性を裁判所が指摘し、こ の点で他の戦後補償問題と差がある。強制連行、BC級戦犯、香港軍票、慰安婦など戦後補償問題の包括的解決の方途を考えるべきだ」
 「一九九五年に発足した元慰安婦のために設けられた『女性のためのアジア平和国民基金』を抜本的に改組して、政府もちゃんと資金を拠出し、なんらかの基準を設けた上で、各種の補償問題に対応したらどうだろう」

―「今世紀中に起きた問題は今世紀中に解決する」という言い方を、政府は国旗国歌法案の審議でつかったが。
 「日の丸・君が代の歴史と、アジアに対する戦後補償問題は表裏一体だ。主要国首脳会議(サミット)参加国のうち、その旧植民地出身者に戦後補償を行っていないのは日本だけだ。靖国神社への首相の公式参拝がずっとできないでいるように、アジアは自民党にとってもまだ、重たいものだ。本来なら、日の丸、君が代が法制化される以前に、戦争と植民地支配に起因する問題を、きちんと解決すべきだった」

*田中宏氏は00年春から一橋大学名誉教授。龍谷大学教授。

 

 

被害者の心を原点に

 1998年10月11日付「朝日新聞」社説
 

 旧日本軍の「慰安婦」問題で金大中大統領は来日中、親しい日本人らとの懇談会で「世界が納得する形で解決されなくてはならない」と語ったという。
 大統領の言葉には、日本政府が元慰安婦の人たちに直接、国家補償をするよう促す気持ちがにじみ出ている。
 首脳会談や国会演説であえて取り上げなかったのは、日本政府との対立を避けたいとの判断が働いたのだろう。
 来日に先立つ雑誌「世界」とのインタビューでは、もっとはっきりと「慰安婦問題は日本の政府の責任であって、日本の国民の責任ではない」と語り、一九六五年の日韓条約ですべて解決ずみとする日本政府の姿勢に対し、「法律の解釈だけで終わるものではない」と述べている。
 日本政府はすでに、旧日本軍の関与の下で女性たちの名誉と尊厳を深く傷つけたことを認めている。私たちはかねて、政府として責任を明確にし、国費で補償するのが本来の道だと主張してきた。
 今回の共同宣言で、小渕恵三首相は植民地支配について「痛切な反省と心からのおわび」を述べた。「反省とおわび」は言葉だけでなく、目の前にある問題について具体化されていかなければならない。
 その努力を急ぐとともに、当面は政府主導でつくられたアジア女性基金を活用するのが現実的だろう。高齢化する被害者たちのために、いますぐ手を伸ばせることといえば、この基金があるだけだ。
 基金は韓国だけでなく、フィリピン、台湾、インドネシア、オランダへ活動を広げている。民間から募った寄付金は「償い金」として八十五人に渡された。それらは無意味ではなかったはずである。韓国では政府がこの春、基金を追う形で元慰安婦の人たちに支援金を支給した。その際、基金の償い金を受けないと約束させ、すでに償い金を受け取っている人たちを支給の対象から除いた。
 この経緯を見ると、基金が韓国で活動して償い金を渡すのは不可能だろう。少なくとも当面は活動を停止せざるをえまい。
 一方で、償い金を受けるかどうかは本来、元慰安婦の人たち一人ひとりにゆだねられてよいように思う。償い金は国家補償に比べ「国の責任」に欠ける。重要な点で不十分だが、せめて国民の謝罪と償いの気持ちを贈ろうという趣旨である。韓国政府の支援金と併せ、受けたいという人がいるならば、その道は残しておきたい。
 政府間では、償い金に代わって慰霊塔や医療施設を建設する案が浮かんでいる。だが、これらが真に元慰安婦の人たちの希望に沿うものかどうか、慎重に考えたい。
 日本政府は償い金とは別に、基金を通じて「医療福祉支援事業」を実施している。事業とはいうものの、事実上、現金が元慰安婦の手元に届く。韓国の場合、二百万円の償い金を上回る三百万円になる。
 国庫支出という点で、現実的にはすでに国家補償に近付いている。にもかかわらず、そうではないという政府の逃げの姿勢が、事態をさらに複雑にしてはいないか。
 フィリピンの元慰安婦の人たちの訴えが東京地裁で棄却された。慰安婦だった人たちは長い間、日本からも自国の政府からも放置されてきた。一人ひとりの心にこたえるには何をすべきか。原点から考えていく必要がある。

 

慰安婦、真の決着へ指導性を

 1998年7月14日付「統一日報」社説
 

慰安婦、真の決着へ指導性を
 旧日本軍慰安場の問題をめぐるトゲが、韓国と日本双方を傷つけ続けている。
   韓国政府は、10月の金大中大統領の訪日を控えて、日本の「女性のためのアジア国民基金」に対し、韓国の元懸安婦への「償い金」の支給中止と、基金事業内容の変更を求めていへことがはっきりした。今年4月から韓国独自に元慰安婦への支援金支給を開始したことを踏まえ、韓国国内で反発の強い日本からの償い金支給は不要とし、アジア女性基金の事業を資金支給とは別の分野に変えるよう求めている。
   日本政府もこの求めに基本的に応じる考えのあることを示唆しており(6日の柳井外務次官会見)、両国政府の間では元慰安婦のための慰霊塔の建設や、慰安婦問題の史実とそれへの反省を後世に伝える記念館の建立などが、新たな事業案として浮上しているという。

基金の事業変更で片づくか
 しかし、これにはアジア女性基金側が当惑し、内部で強い反発も起きているようだ。募金による償い金支給を事業目的として掲げ、実際に約5億円の募金を集めており、関係国むけに償い金支給を公に告げた経過があるからだ。
   韓日両政府は、今秋の両国首脳会談で(1)「過去」の問題に明確なメドをつけ、(2)未来志向への転換を図ることを目標としており、そのためには慰安婦問題で、女性基金の少なくとも韓国向けの事業内容変更を何とか図ろうとしているようだ。
   韓国は今年4月から元慰安婦に対し、独自の生活支援金の支給を開始しており、同時に日本に対する国家賠償請求に韓国政府は関与しないことを改めて確認した。「日本からの償い金は不要」というのも、一応の筋が通る形となった。
    だが、元慰安婦にせめてもの償いをと、女性基金の募金に応じた少なくない日本民間人の気持ちを軽んじる結果となることは否定できない。
    さらに、支援金や償い金の受給いかんは、本来、被害者である元慰安婦一人ひとりの意思によって決める問題である。受け取った人はその返還が韓国支援金受給の前提とされたことは、今後に問題を残すだろう。
    たとえ少数の償い金受給者であっても、韓国国内で精神的に孤立するような事態は、被害者救済の精神に反するものであろう。長年つらい思いをしてきた被害者が、せめて余生により多くの福祉を得たいとする気持ちを、誰が否定できるのか。

 韓日両政府の肩にかかる
 この問題で韓日両国の間に口を開けている深い溝を、改めて見る思いがする。
 日本の一部には「慰安婦の強制連行の証拠はない」として、元慰安婦らはあたかも一種の「公娼」であったかのように言う意見がある。
 軍隊慰安婦への日本国の関与を否定し続けた日本政府は、93年になってやっとこれを認めた。韓国国内では、韓国の元慰安婦生存者が152人だから「金銭で済ませようとしたのだろう」という対日不信がまだ残っている。「強制連行の証拠はない」との主張は、この不信感を再び強めさせている。
 日本が、93年官房長官談話で約束した真相究明をほとんど進めていないことが問題である。調査も徹底せずに「強制連行の証拠はない」では、基本的な信義にもとる。
 慰安婦問題の記念館を建てるにしても、真相調査なしで何を後世に伝えるのか。
 韓日両国政府はこの問題の本当の決着をめざして、はっきりしたリーダーシップを発揮すべきだ。
 たとえ自らの政権の支持基盤に対してであっても、両政府は普遍的な基準に立って言うべきを言い、なすべきことをすべきだ。

 
 

胸痛む元慰安婦七人への罵(ののし)

 1997年7月12日付「統一日報」社説
 

 韓国の元従軍慰安婦のうち、日本の「国民基金」(女性のためのアジア平和国民基金)から償い金を受け取つた七人が、あくまで日本の国家賠償を要求して国民基金に反対する市民団体などから激しい非難──いわゆるパッシングを受けているという(本紙既報)。胸が痛む。
 七人の元慰安婦が国民基金の償い金一人二百万円、医療福祉支援事業費、橋本竜太郎首相の「おわびの手紙」を受け取ったのは今年一月のことだ。これに対して韓国の代表的な慰安婦支援団体「挺対協」(韓国挺身隊問題対策協議会)はじめ市民団体などが激しく反発した。韓国政府もブレーキをかけ、以後は国民基金の韓国における支給は行われていない。
 国民基金の動きに対抗して挺対協など支援団体は「強制連行された日本軍『慰安婦』問題解決のための市民連帯」を設立、元慰安婦の生活支援のための大衆募金活動を展開、マスコミの協力もあって五億五千万ウォン(約七千万円)を集めた。挺対協が認定する韓国の元慰安婦は百五十八人いる。

強い対日不信の表れだが…
 「市民連帯」は募金を一斉に支給すると発表したが、国民基金の支給を受け取った七人を除外し、「謝罪のない、賠償金でない慰労金を受け取ることにより日本政府に免罪符を与え、自ら二度も奴隷になることになる」と激烈な表現で非難した。
 挺対協は本紙の問い合わせに対して「募金は日本の国民基金を拒否するためのものであり、それを受け取った人は当然、除外される」と答えた。この他、挺対協の共同代表の一人は「志願して行った公娼ということになる」と公開の場で非難したという。 挺対協は韓国で元慰安婦が名乗り出て以来、苦難を押してこの問題に取り組んでおり、リーダーも民主化運動や女性運動で知られた人々だ。
 国民基金や同基金の償い金受領者への反発は、日本に対する強い不信感に基づいている。六〇年代の韓日会談以来、長い間、従軍慰安婦問題を黙殺し、あいまいにもした日本政府、そして昨今は慰安婦を「公娼」であるかのごとく主張し、連行の強制性を否定する日本の一部の政治家、知識人に対し韓国国民の怒りは激しい。「二度と真実をゆがめさせない」との決意が生まれたのも当然である。
 しかし、七人の元慰安婦に対する罵りは明らかに行き過ぎだ。市民連帯の募金の趣旨と、寄金に応じた市民たちの意図が「国民基金を拒否するため」という点で明確なら、その支給から外すのは募金者の意思だ。

原点を忘れた白黒論理の過ち
 だが、七人を「公娼と自認したことになる」「民族の自尊心を売り渡した」とまで非難せねばならないか。
 韓国では、一九〇五年の韓日保護条約調印に積極的に応じ、五年後の「併合条約」に道を開いた当時の閣僚らが「五賊」と歴史的に断罪されている。けれども、七人は権限なき庶民の被害者であり、女性の尊厳を踏みにじられた一人ひとりである。
 挺対協もその経済的に困難な状態を認めている。苦難の半生と余生を、少しはより楽に暮らしたいと思うのは人情だ。さらに、償い金を「騙すための慈善金」と思わなかったとしても、それは見解の相違ではないか。その判断は、最終的には元慰安婦一人ひとりに委ねなければならない。
 元慰安婦支援運動は、被害者の救済を通して二度と同じ悲惨を繰り返さないようにすることが目的であろう。日本への抗議はその一環である。被害者に対する深い同情がその根底であり、見解を異にした被害者を罵るのでは本末転倒ではないか。
 人の一生を台無しにした慰安婦被害の救済に取り組むには、人の一生を受け止めることのできる幅広い立場に立たなければならない。人の一生の一部にすぎない見解の相違を理由に、被害者を「敵の味方」と決めつけるのは白黒論理の過ちだと思う。
 

*統一日報は、日本で発行されている、主として「在日韓国人」向けの新聞。

 

韓国人元慰安婦へ一時金、極秘に支給

 1998年05月07日 共同より

【ソウル6日共同】 民間から寄付金を募って元従軍慰安婦への償い金などの支給を進めている「女性のためのアジア平和国民基金」(原文兵衛理事長)が韓国で、昨年一月に支給した七人とは別に、十数人に対し極秘に一時金と医療・福祉事業の初年度分の計四百二十八万円を支給していたことが六日、分かった。従軍慰安婦問題に詳しい消息筋が明らかにした。
 同基金が昨年一月に七人に一時金などを支給した際に、韓国政府や韓国の市民団体が強く反発した。その直後に行われた当時の池田行彦外相と柳宗夏外相との会談で、柳外相が一時金支給中止を要請、池田外相は「今後は日韓外務省同士で十分な協議をする」としていた。日本政府が運営費を出している同基金がひそかに一時金を支給していたことで、韓国外務省や韓国挺身(ていしん)隊問題対策協議会などの市民団体の反発は必至とみられる。
 韓国保健福祉省は、この十数人のうち、仁川市内に住む元従軍慰安婦二人について、今年一月にアジア女性基金から償い金などを受け取っていたことを確認したと明らかにした。
 韓国政府は韓国内の元従軍慰安婦に対して一人当たり三千八百万ウォン(約三百八十万円)の支給を決めたが、支給に際し、日本のアジア女性基金からは今後一時金などを受け取らないとの誓約書を取る方針。挺身隊問題協議会の尹貞玉共同代表は「日本側の秘密支給に怒りを覚える。支給金額をめぐるハルモニ(おばあさん)たちの混乱を考えると言うべき言葉もないほどだ」と反発している。


 

「慰安婦」被害者を支援団体らがいじめ

受け取り7人に深い心の傷、批判浴びて韓国元慰安婦
   共同通信 1997年6月20日配信より
 

 日本の「女性のためのアジア平和国民基金」(アジア女性基金、原文兵衛理事長)による元従軍慰安婦への償いの事業で、韓国の元慰安婦七人が今年一月に一時金を受け取ったことに対し、国家賠償を求めて民間基金は受け取るべきではないとする韓国内の支援団体やマスコミが猛反発、七人は厳しい批判にさらされ続け、心に深い傷を受けている。
 追い打ちをかけるように、最近、元慰安婦支援のために行われた市民運動の募金で、七人だけが対象者から外された。七人は「同じ被害者なのに」と不当性を訴えている。
 一方では、七人に続いて一時金の受け取り希望の意向を漏らす被害者が出るなど新しい動きも出ている。
 韓国では七人が一時金を受け取ると、受け取りを拒否している一部の被害者が韓国政府に対し、七人には政府の生活費支援(月五十万ウォン=約六万四千円)を中止するよう求めた。さすがに、これには韓国政府が「そういうことはできない」と回答したが、七人への風当たりは想像を超える厳しいものだった。
 韓国では昨年十月に約四十の市民運動団体が「日本軍慰安婦問題の正しい解決のため市民連帯」を結成、基金の一時金と同額を被害者に支援するため三十億ウォン(約四億円)を目標に募金活動を行った。しかし集まった募金総額は約五億五千万ウォンにとどまった。
 市民連帯では、募金は百五十一人の元慰安婦と中国から帰国の元慰安婦四人の合計百五十五人に一人当たり約三百五十万ウォン(約四十八万円)を支払う予定だ。しかし、基金から一時金二百万円と医療・福祉事業費三百万円の計五百万円を受け取った七人には募金の配分をしない方針だ。
 七人の一人、金田きみ子さん(75)=仮名=は「同じ苦しみを受けた元慰安婦なのに、なぜ差別されなければいけないのだ」と怒りをぶつける。
 また別の老女(75)は「一時金をもらった時、市民運動をやっている人や記者が押し掛けてきて「なぜ汚い金を受け取るのか」と責められた。しかし、年老いて身寄りもなく、世話をしてくれる人もいない私が、基金を受け取ることがそんなに悪いことなのか」と嘆く。
 アジア女性基金の呼びかけ人の一人、和田春樹東大教授は「七人が民族の自尊心を傷つけた存在として扱われるのは深刻な事態だ」とし、韓国の関係者に手紙を送り、七人にも募金を配るよう訴えた。
 被害者の中には、市民連帯の募金を受け取った後に、基金の一時金を受け取ろうという動きも出ている。支援団体の一つ、韓国挺身隊問題対策協議会では「募金に加え、基金を受け取る人が出ればどうするか、議論の対象にはなったが、これという結論は出ていない」と言う。
 元慰安婦の大半は七十歳以上の高齢で身寄りがない。一時金を受け取った七人も同じ境遇だが、支援団体とのあつれきと不信は深まるばかりだ。(平井久志・ソウル共同記者)
 
 


韓国マスコミ被害者フォーラム挺対協