弦楽四重奏曲 変ロ長調 K.458「狩」


ジュリアード四重奏団 (Columbia LP)
 
第1楽章でホルンの響きや長い保続音が聴かれることから「狩」というニックネームをもつK.458は,何といっても第1楽章が有名で,この楽章ゆえにハイドン・セットの中でも屈指の人気曲となっている。この楽章は6/8拍子で書かれており,跳ねるようなリズムの舞踏曲的な主題をもつ。ハイドン・セット6曲の中でいちばん軽快でモーツァルトが師と仰いだハイドンの弦楽四重奏曲に近い曲ではないだろうか。モーツァルトの一つの特質である絶妙な半音階的進行や転調による「翳り」の表現がほとんどないかわりに,この曲はとても分かりやすい。両端第1,4楽章でそれはとくに顕著である。上述した6/8拍子の弾むような有名な主題は非常にキャッチャーで一度聴くと忘れることがない。最終第4楽章の音楽もシンプルで覚えやすい。この曲にモーツァルトは「新機軸」よりは「聴きやすさ」を,「冒険」よりは「安定」を求めたように見える。耳あたりはよいが,K.387のような構成的なおもしろさや,K.421のような深い情念に欠けるのは事実である。しかし,ハイドン・セットを6曲全体として眺めてみると,この曲はハイドン流の四重奏にモーツァルトならではの「歌」を付加した曲として独自の輝きを放っている。もしかすると,モーツァルトは当時の人にも分かりやすいスタイルの曲を6曲の中に1曲くらい入れようと考えたのかもしれない。
 MIDIを聴いていただくと分かるように,第1楽章でオイシイところはほとんど第1ヴァイオリンが弾いており,他の楽器の聴かせどころは少ない。そんな中で第2ヴァイオリンとヴィオラのカッコイイところは終結部でピアノから突如としてフォルテで2小節にわたり16分音符で下降音階を奏で,第1ヴァイオリンが弾く主題につなげる部分。私もこの部分をジャカジャカと一生懸命弾いていたことを思い出す。

*MIDI:第1楽章(Allegro vivace assai)