弦楽四重奏曲 ニ長調 K.499


コチアン四重奏団 (DENON 33C37-7954)
 「ハイドン・セット」の6曲と「プロシア王セット」の3曲にはさまれたこの曲は,ひょっとするとモーツァルトの後期10曲のカルテットの中でいちばんマイナーな存在かもしれない。このコーナーで書くのも,10曲の中で最後になってしまった。これは決してこの曲がつまらないということではない。しかし,この曲がモーツァルトにしては「中途半端」な印象を受けるのもたしかである。それはこういうことだ。「ハイドン・セット」は史上はじめて4本の弦の緻密で立体的な絡み合いを実現したカルテット(それ以前のハイドンの作品33の6曲のカルテットと比べたらこれは明らかだろう),「プロシア王セット」はモーツァルトが元来得意とする「歌」をそれぞれのパートにソロとして歌わせたカルテットと言うことができるだろう。「プロシア王セット」では緊密な構成や力強さといった点では後退しているものの,随所に現れる天国的ともいえるメロディーの美しさ(たとえばK.575の4楽章,K.589の1楽章)が別の魅力を形作っている。K.499は,作曲された順だけでなく,曲の性格からいっても,「ハイドン・セット」と「プロシア王セット」の中間的な印象を受けるのである。この曲で私が好きな楽章というと,それは何といっても第1楽章ということになる。繰り返し現れる第1主題が奏でられるところには,後年のシューベルトの弦楽四重奏曲やピアノ・ソナタを思わせる何ともいえない寂寥感漂う和声が使われている部分がある。この楽章は1楽章でありながら急速なパッセージはほとんど出てこない。明るいはずのニ長調という調性でありながら,この曲には寂しげでもの憂い表情がある。

*MIDI:第1楽章(Allegretto)