Bathのクリスマス


BGM is "Away in a manger" by W.J. Kirkpatrick that is Kazushi's most favorite carol.


 Bathに住んで間もない頃,私は子供2人を連れてBath Abbeyに行きました。かずしにとっては,そこで聴こえてくるパイプオルガンの柔らかい音色がこの曲のイメージと一致したようです。彼はいきなり大声でこの曲を歌いだしました。周りにいた人たちはそんな彼を見て微笑していました。今でも彼はこの曲が大好きです。大きくなるまでにBathの思い出は薄れていってしまうかもしれませんが,この曲の優しい歌詞のようにいつまでも純粋さを失わないで欲しいと願っています。

クリスマス前のBath

 一年のうちでもっとも華やかで,厳かなクリスマス。英国という異国の地でこのクリスマスを迎えると,クリスチャンでなくても敬虔な気持ちになってくるものだ。10月を過ぎる頃から街中がクリスマスの飾り付けを始める。それぞれの店が意匠を凝らしたウィンドウで競い合う。
 バースの街も,壁にファザー・クリスマスの人形が壁をよじ登っているユニークなものがあったり,メインストリートには様々なイルミネ―ションが夜になるときらめく。11月末ともなれば結構夜は冷え込むのだが,このイルミネーションを見るために何度も足を運んだ。また,街のあちこちに,そして Bath Abbeyの前にも降誕を喜ぶ人形が飾られている。まさに街中クリスマス一色である。
 この時期ともなれば,街中の人々がプレゼントを探しに歩き回っている。私のお勧めはMilson Street とBroad StreetにまたがるShires Yardに入っているDecember 25 とHansel und Gretel という2軒のお店である。前者は手ごろな値段の小物類を扱っている。英国のお年寄たちが丹念に品物を見て,どんなに安いものであっても妥協せずに選ぶ姿はいかにも英国的である。またこのお店の一階下つまりGround Floor(日本でいう1階)のHansel und Gretelはドイツやオーストリア製の輸入品を扱う。ここは多少高価だが上質なものを扱っている。店の主人は見るからにドイツ人。クリスマス商品は特に充実している。ドイツの煙はき人形や降誕人形のセット,テーブルクロス,ランチョンマット,ツリーのオーナメントなど様々な手作りの品が置かれている。もちろんBGMはドイツのクリスマスソング,ハーブの香りも素晴らしい。また,この店にはかわいらしい鳩時計が所狭しと壁に掛けられている。この鳩時計への主人の思い入れは相当のものらしい。お客さんが鳩時計を買って持って帰った場所を,英国の地図にたくさんピンで押して示している。もし,バースに行かれる折は是非覗いてほしい店だ。
 本当に英国の人は一日一日とアドベントカレンダーをめくるようにクリスマスを待ちわびていることがよく分かる。一度クリスティン( インターナショナル・パートナー・グループの幹事さん)から聞いたことがあるが,冬はクリスマスだけしか楽しみがないらしく,クリスマスを終わると皆放心状態になるのだとか。スイスやドイツといった国より相当北にあるにもかかわらず,偏西風と暖流の影響で比較的あたたかいイギリスはほとんど雪が降らない。スキーを楽しめるところといえばスコットランドぐらいだろう。もちろんテニス,バトミントン,フットボール(サッカー),クリッケットなど様々なスポーツを生み出した国であるから,とてもスポーツは熱心であり,心からを楽しんでいる人は多い。しかし,ウインタースポーツとなると全くといっていいほど無関心である。テレビでスキーやスケートの中継はほとんどないだろう。だから,12月25日さらにBoxing Dayを過ぎると新年のカウントダウンぐらいがあってイースターまで英国人は寒さと暗さに耐えているという感じである。イースターまでというのが大げさなら,エイボン川の川岸に水仙の花が咲き始める頃までといったところだろう。ちなみにこれは2月半ばから下旬である。



クリスマス直前

 クリスマス直前ともなると,バースの街の中心にある素晴らしい Bath Abbeyでは,毎日のように様々な礼拝が行われる。子供連れの私たちは到底正式の礼拝に出席する勇気も無く,長男の小学校からの案内で知った,子供のためのChristingle Serviceに出席することにした。これは出席者の献金をThe Children's Societyへ寄付するためのもので,簡単な子供向きの説教とキャンドルサービスをする。キャンドルは普通と違ったおもしろいもので,オレンジを地球に見立て,それに楊枝でジェリービーンズや干しぶどう,グミキャンディーを刺したものが4本と,ろうそくが真中に立てられている。これはどこかヨーロッパの国のクリスマスの習慣らしいが,残念ながら忘れてしまった。ただオレンジに巻かれた赤いテープは赤道を示しているとか。世界の平和を祈る意味が込められている。このオレンジの香りで聖堂には良いにおいが広がり,ろうそくが一本一本点灯されると,神聖な気分になっていく。いつもこの聖堂が大嫌いで泣いて私を困らせる次男でさえ,おとなしくろうそくの炎に見入っている。不思議な高揚感である。聖堂を出ると,ビクトリア朝時代の衣装をつけたグループがクリスマスキャロルを歌っていた。まさに英国という実感。そしていつもはあまり話しかけてくれない人々も,この日は特別のように親しく声を掛けてくれるのだ。



(左)クリスチングル・サービスのオレンジ
(右)ビクトリア朝時代の衣装でキャロルを歌うグループ



小学校のクリスマス劇

 長男の 小学校でも保護者を招待しての聖劇(Nativity Play)があった。結構前から練習するようで,キリスト誕生の物語を子供達が様々の衣装をつけて歌と劇にして皆を楽しませてくれる。もちろん小学校は英国国教会に属するため,会の最初にはチャップレンの説教がある。長男のいるレセプションクラスでは,クラス1の子供達が星になり,クラス2の子供達が子羊達になる。彼は黒い服を付け,頭に銀のティンセル(モール)をまいて星になっている。ほとんど出番はないのだけれど,声を合わせて「そうだ!見に行こう!」と言ったり,「かわいい元気なひつじさん!」と歌ったりする姿はとてもほのぼのとしたものである。
  学校ではクリスマスとか子供達の教育のためといった行事のときだけではなく,私服を着ていってよい日などにもしばしば皆で募金をする習慣があるらしく,この日も50ペンスを持って学校に行った。なんだか赤色がついている服を着ていくための募金らしい。こんな風に助け合いとか分かち合いの精神が幼い頃から育まれている習慣を見ると,日本人としても考えさせられる。さらに,父兄の持ち寄りバザーも開かれる。これは日本の幼稚園などでよく開かれるバザーと似たものである。思い思いの手芸の品やケーキ,ビスケット古本などが並べられる。これらの収益金ははおもに学校の施設充実に使われるようだ。私もケーキを焼いていったが,果たして売れるかどうか心配で,売れ残ったら自分で買うつもりでいたが,どうにか買い手がいたようでホッとした。


小学校でのクリスマス劇


市役所のファーザー・クリスマス

 日本の小学校と同じく,子どもは学校からの連絡を自分のかばんに入れて家に持ち帰るのだが,クリスマス休暇の近づいたある日,その中に「市役所でファーザー・クリスマスに会おう!」というのがあった。これは慈善の寄付を兼ねた子供向けイベントで,市役所でお金を払い,子どもはプレゼントをもらってファーザー・クリスマスと記念撮影できるというもの。寄付目的が半分だから,料金も結構高いし,プレゼントといってもノートとか風船とか簡単なものばかりだが,子どもたちはプレゼントをもらったうえに,ファーザー・クリスマスと握手し一緒に写真を撮ってもらってご満悦。写真を撮るのは受付のおばさんの役目。ところが写真はその場でもらえると思っていたら,インスタント写真ではないので後日家に送るという。しばらくしたら,大きく引き伸ばされたちょっとピンぼけな写真が送ってきた。なんて若そうなバースのファーザー・クリスマス!



Sean宅でのクリスマス

 また,夫の研究室の友人(Sean)の家の少し早いクリスマスパーティに招待された。初めて私達と同年代の英国人家族の家に入る機会を得たわけだ。彼には女の子が二人いる。夫いわく研究室の彼の机はいつもぐちゃぐちゃだそうだが,家はすごくきれいに飾り付けられていた。一般に英国の子供達は幼い頃から家の中でも自分の部屋のみで遊ぶようだ。夫婦と子供の境界が家の中でもはっきりしている。日本では子供をはさんで川の字で寝るなんて言うと,「到底理解できない!」と言われる。その分しつけもしっかりしている。夜7時に寝る子供はたくさんいるし,晩御飯も子供だけ先に済まさせ,改めて夫婦だけで取る場合も多い。
 Seanは一見怖そうな風貌の大男なのだが,見かけによらず気配りの上手な家族思いの優しい人である。私たちがいる間中,料理(ほとんどスーパーで買ってきたチルド食品だが)や子供の世話に至るまでほぼ一人で仕切っている。自分の友人が来ているのだから妻にやってもらえばよいのにと思ったのは,お客である私たちのほうであった。それに奥さんが怖いのか?すごい大酒呑みなのにほとんど家では飲まない。大学の帰りに銀行のATMで20ポンドだけを引き出して,パブでビールを飲む方が楽しいのかもしれない。あまりにもこまめで世話好きなので「英国人の男性と結婚すればよかったかしら!」というと,彼の奥さんは「当然!」という感じだった。しかしながらSean一家は一所懸命自分達のクリスマスの過ごし方を教えてくれたのだ。本当に感謝している。


Sean親子,せいじ,としこ。Seanの顔の大きさに注目。


クリスマス・イヴ

 そして,クリスマス・イヴになった。急に街中が静まり返る。皆早々と店じまいをしたからだ。日本のようなクリスマスケーキを売る声や,年末商戦はない。どんなにイギリス人が不信仰になったといっても,日頃教会の礼拝に参加しない人でも,たとえクリスマスでさえ教会に行かなくとも, 25日だけは必ず家族で過ごすようだ。日本のようにイヴがメインにはなっていない。公共の施設もこの両日にはお休みになったり,列車も間引きするらしく,大変な目にあったという日本人旅行者の話を聞くぐらい徹底している。
 私たちも軽く夕食を取った後,にわかクリスチャンになったつもりで Bath Abbeyのイヴのサービスに参加することにした。しかしながらあいにく小雨模様のすごく寒い日であった,この頃になると緯度の高い英国では3時過ぎから薄暗く4時になると完全に夜である。いつもは空いているところなんてない街中の駐車場なんてがらーんとしている。しかしBath Abbey に着いた頃にはもう教会はたくさんの老若男女で埋まっていて,席を探すのに一苦労であった。礼拝は厳粛に始まる。Lessonsといってキリストの生誕物語を一つ一つ追っていき,それぞれに聖歌をはさみ,誕生物語を皆で分かち合うものである。知っている聖歌も知らないのもあったが,天井の高い聖堂中に響き渡る列席者の歌声は聖歌隊の高い声とあいまってすごく美しいものである。残念ながら,教会嫌い?の次男がぐずりだし,結局は主人と長男を置いて2人で途中退席せざるを得なくなった。受付の教会役員の方に気の毒がられはしたが,小雨交じりの聖堂の外で美しく輝くイルミネーションを眺めながら聞く歌声はまさにクリスマスそのものであったように思う。



クリスマス当日

 さてクリスマスの日は朝から大忙しである。子供達はたくさんのプレゼントを開けるのに余念がない。そして私はお手製のものと出来合いの買ってきたものとで,ちょっとはイギリスのクリスマスのディナーらしい雰囲気を味わってみようと,料理の準備に張り切った。メインはチキンの丸焼き。(ターキーやグースでも良いが,ターキーはパサパサしているし,グースは脂肪が多いらしく最近のヘルシー志向には合わないという話をイギリス人から聞いた。) パースニップ,にんじん,ジャガイモ,芽キャベツの付合わせ。サラダ。子供のたっての希望で買った直径40cmもあろうかと言う巨大なアイシングの甘い甘いケーキ(結局はほとんど食べてくれず,27日の次男の誕生日に改めて生クリーム(double cream)とフルーツでショートケーキに化けた)。市販のクリスマスプディング,さらにインターナショナル・パートナー・グループで教えてもらったミンスパイ。クリスマスプディングとミンスパイは英国家庭でも自分手作る人は少なく,ほとんどM&SやWaitrose,Sommerfield, J Sainsbery といったところで出来合いを買ってくる人が多いらしい。実は,先ほどのミンスパイもパイの生地の作り方を教えてもらっただけで,中身のミンスミートはスーパーの壜詰めを買ってくること,と教えられたのだ。さらに丸焼きチキンの中身を尋ねたところ,何人もの英国人に乾燥した粉が売ってるから,それを水で戻すといい!といいと教えてくれるのだ。良心的な人はソーセージのみじん切りを入れたり,セージの葉を刻んで入れると教えてくれたが,もちろんそれは市販の粉にプラスする材料としてである。ただ,ピックウィックさんの親友のメアリーさんはすごく料理好きで,ミンスミートだけでなく,クリスマスプディングも手作りするそうだ。もっと早くそのことを知って彼女に教えてもらえれば,折角の英国生活がもっと充実したのにと思う。
 さて,料理をテーブルに並べ皆が席に着くと,まずクリスマスクラッカーをお互いに引っ張り合いっこして鳴らす。10cmくらいの円筒の端に円錐の先をくっつけたような形のもので,大きなキャンディーのようでもある。中にはパラフィン紙の王冠や,ジョークが書かれた小さな紙,ちっちゃなおもちゃ(これはそのクラッカーの対象年齢によって違うらしい) 。そしてケーキにロウソクをつけると,子供達が吹き消す。一瞬シーンとして,それから食事を始める。鶏肉を取り分けるのが一番不安な時である。皆に「どう?美味しい?」「ちゃんと焼けてる?」と心配そうにたずねる。いつもと比べて随分長い食時間である。夫もなんだかいつもよりたくさんお酒を飲んでいる。ワインだけでなく,ギネスも!次第に皆満腹になって,ダイニングルームから出て行く。


テレタビーズのクリスマスクラッカー


主役の鶏の丸焼き


野菜の付合せ(パースニップ,ジャガイモ,にんじん,芽キャベツ)


 長男はプレゼントにもらった スヌーカーに夢中である,何度も何度も父親相手に試合を挑む。次男はテレタビーズのかわいいおしゃべりLalaとへんてこな掃除機のNooNooをもらってご機嫌。最後に家族でジャンガをやることにする。そして,皆夢のようなクリスマスの一日が終わった。
 次の日はBoxing Dayでやはり祝日である。昔,家の使用人に主人がプレゼントの箱を渡して休暇を与えたところからこの名前が付いたらしいが,我が家の場合はなんだかクリスマスで疲れ果ててノックダウンされたボクシング選手のように倒れて動かないという意味かしらと思ってしまった。こうして,イギリスでのクリスマスは終わった。

スヌーカーに夢中のかずしとせいじ

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