インファント・スクール




4歳にして小学一年生
 イギリスでは4歳児をレセプションクラスとして小学校に受け入れる。長男も4歳の9月から家のそばのウィッコム・インファント・スクールに通うことになった。この学校では1クラス30人前後,1学年に2クラスある。Reception Class, Year1,Year 2 と三学年ある。さらに上級となると隣にあるジュニア・スクールに進学していく。雰囲気としては日本の幼稚園と小学校低学年を合わせたような感じである。さて1クラス30人でも日本の小学校の定員より少ないのだが,これは英国ではむしろ多い方である。10人程度しかいない学校もあるのだ。ただ,30人に対して担任が1人,さらに補助の先生が3人の計4人でこの30人の面倒を見てくださるのだ。


小学校での授業
 授業は,アルファベットの書き方,読み方,そして,国語としてOxford Reading Tree のテキストを使う。これは,非常に楽しく,しかも有効に英語の文型を無理なく学ぶことのできる素晴らしいテキストである。この本が忘れられなくて日本に帰ってからOxford の日本代理店に頼んで取り寄せてもらったぐらいである。つまり,教科書といっても,おしつけがましくなく,ウイットとユーモアに富んだ内容なのだ。しかも1冊が一つの話で完結しているので,厚さが薄く,飽きやすい子供にはぴったりである。日本の国語の教科書も少しは参考にしてほしいものだと心から思う。さらに,学校では簡単な足し算・引き算も教える。


小学校がジャングルになる
 この学校では月ごとにテーマが決められていて,ある月などは,いきなり学校がジャングルになっていた。天井に緑のネットが貼り付けられ,蛇やら,極彩色の鳥も天井から吊るされている。さらに緑色の布がジャングルさながらにあちこち這わせているのだ。砂場コーナーにも野生の動物のおもちゃが所狭しと並べられている。ちなみに学校からのお知らせには,「動物のおもちゃを持ってきてください。」とあった。次の月には交通がテーマとなり,あんなにすごかったジャングルが,週明けには大都会の様相に早変わりしていた。


フランス語の授業
 また。フランス語を教えるというのも特徴の一つである。専門のフランス語教師が,子供達にフランス語の歌を一週間に一度教えてくださる。


校長のポリシー
 校長のLucas先生は,子供一人一人の興味を伸ばすことにウェイトを置かれていた。このように学校の中を様々な世界に変えたり,他言語に興味を持たせる配慮も彼女の教育方針に沿ったものである。イギリスの小学校では公立と言えども校長の裁量でいくらでも特徴を出せるらしく,また,親達も校区に関係なく良い学校に子供達を入学させようと殺到するようである。


休み時間
  しかしながら,イギリスの教師は授業中のみしか生徒に関わらないようだ。入学して1月ぐらいたって,どうも長男の様子がおかしいので,心配になって問いただしてみたところ,クラスでも背の高いJamesにいじめられていると訴えた。慌てて先生に手紙をお渡したところ,休み時間のことはよく分からないとおっしゃる。つまり,休み時間やランチタイムはその時間の専門の女性が縦じまのエプロンをつけて,子供達の面倒を見ているのだ。教師はハードな職業だが,お昼休みや休憩時間をプライベートな時間とするのは,教師でも同じのようでいかにも英国らしい。


児童の母親による音楽の授業
 また,親サイドからのアプローチも学校を動かすことがある。私も参加したが,音楽の授業は生徒の母親マーニーが教師となって,とても興味深い授業を行った。まず,マーニーが,「何のパイですか?」とたずねる。もちろん歌で。すると子供達がいっせいに手を上げて,「ジェリーパイ」とか「モンスターパイ」「キャタピラーパイ」「ロボットパイ」と答える。それぞれのイメージにあわせて,歌の雰囲気を変える。例えばロボットパイだったらかくばって歌い,ジェリーパイならふにゃふにゃになって歌うのだ。また,音程にあわせて,体を丸めたり,伸びたり,全身で音楽の楽しさを教えてくれるのだ。ただ歌うだけではなく,全身で歌の雰囲気を表現する。私としても貴重な体験となった。そして,イースター前の音楽発表会に,その授業に参加した母親たち10名で「グア,グア,カエルはヘンな声で歌うと皆思っているでしょう。けれど私らはラリラリラーと歌うのよ」という変な歌を発表する羽目になった。もちろん手振りだけでなく,ヘンな顔をして歌ったのは言うまでもない。
 また,学校の塀が壊れていたりすると,校長からの手紙がある。「誰か壊れている塀を直してくださる方はありませんか?お願いします。」そして,腕に覚えのあるお父さんが平日にもかかわらず修理してくれるのだ。


学校のホールで(かずしの後ろがルイス)


ヘッドライス
 だが困ったこともある。ヘッドライスといって頭ジラミが結構流行ることがある。それを知ると,親たちはリンスをつけて目の細かい櫛で子供の頭を梳いてやる。これで多少ましになるらしい。薬屋にはそれ専用のシャンプーも売っている。頭ジラミがよく流行るのは,あまりイギリス人が風呂好きでないことによるのかもしれないが,よくわからない。日本でも最近は学校で流行ることがあるらしいので,ご用心のほどを。


英語が話せない長男
 長男にとっては言葉もわからないこともあって,決して楽しい学校生活ではなかった。しかし,世話好きな上級生10人ほどにかわいがられた時には,ほんとに楽しそうであった。また,同級生ではメキシコ人のアンドレスとはよく遊んだが,中でもルイスとは非常に仲が良かった。しかしながら,ルイスにとっては友達の一人にすぎない長男に,いつも付きまとわれるといやになり,「今日から,僕は君の友達ではないからね!」と宣言された時には長男は急転直下,真っ青な顔をしていたように思う。4歳児にとって,日本人であり,全く英語を話さないからといって我が子は決して特別な友達ではない。ゆっくり英語を話してくれるわけでもなく,とくに親切にしてくれるわけでもない。残酷でシビアな状態の中で彼はよく頑張ったと思う。


上級生の女の子と遊ぶかずし


帰国
 帰国直前に校長先生に挨拶に伺った。息子の何冊もの勉強ノートと絵などの作品,そして成績表を頂いた。ノートは途中で終わっていたが,「続けなさいね。」とおっしゃる校長はとてもやさしい女性であった。そしてこれらは息子にとって生涯の宝物になるだろう。



ちょっと辛口の感想
 このように書いていると,イギリスの(小)学校は素晴らしくよいところだと思われるであろう。確かに,学級崩壊,不登校,学力の低下,画一化したカリキュラム等多くの問題が顕在化している日本の学校教育と比較してみると勝っている点も多い。しかしながら,Bathなどはロンドンに次ぐ物価の高い街と言われているように低所得者層が少なく,住民は白人がほとんどである。これは,裏を返せば治安がいいということで,Bathにはいわゆるスラム街がない。多少北部は「ちょっとね」と言われているようだが,私たちが住んだ南部のWidcombeは中流階級の白人が住人のほとんどであった。
 つまり小学校も児童はすべて白人。有色人種の子供はBath大学の留学生の子供と言うことになる。だから,ロンドンなどの学校で見られるようなインターナショナルな雰囲気とは程遠いものがあった。実際インターナショナル・パートナー・グループのアンジ(パプア・ニューギニア出身)は黒人であったが,彼女の息子のゴードンは深刻な差別を友人から受けたそうだ。例えばパックドランチをトイレに捨てられたり,蹴られたり・・・・。彼はとても強い少年であり,英語も母国語のように話せるのだが,結局ほとんど現地の白人の子供の友達が出来なかったそうだ。大人社会ではなかなかこのような人種差別は表面化することはなかったが,子供社会ではとてもシビアである。たぶん彼らの親が家庭においてそのような教育をしているのであろうか?私自身もかずしの同級生のお母さんたちとあまり親密になることはなかったが,一般に知識階級の人の方が日本ついても多少理解があり,気さくに話し掛けてくれたようだ。
 以上のことは私が個人的に感じたことであり,お隣りのピックウィックさんをはじめ,ミドルクラスのすべてのイギリス人が差別感情を持っているわけではないことを付け加えたい。日本人のように外国人にシャイで,積極的に話しかけようとしない人が多いだけなのかもしれない。


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