Ozaki Words - NON TITLE 3 -
子供の成長を見ていて思ったんだ。
人間なんて所詮いつまでたっても子供のままさ。
色々なことを覚えていくことは
一人で生きていかなければならない宿命の現われだろう。
大人を見て育ってきた。
けれど子供に教えられたよ。
必死に生きようとする人間のあがきをね・・・
息子よ。人間は愛を探し続けなければならない。
愛を探し続ける人間として一番大切な物は、
本当の愛の答えを見つけ出すことなんだ。
今はね、親が子供を愛する気持ちがよく分かるよ。
親の愛情っていうのは自分を必要とされたい願望の現われのような気がする。
それが本当の答えかどうかはわからないけれど。
子供は僕の宝物だった。
僕がいなくなったら一体誰が彼の面倒をみるというんだ。
子供を愛するのは親しかいないさ・・・
小さな小さな家で生まれ、大きくて暖かな温もりの中で育った。
小さな焚き火が出来る程の庭があった。
庭は二メートルぐらいの高さの正木という常緑広葉樹で出来た垣根に囲まれている。
一面を真っ白にする冬の雪化粧も、蝶を舞い込ませる春風も、
照りつける真夏の日差しも、空気の縮んでゆくような秋の気配も、
季節は全てその庭に訪れ僕に顔を見せた。
母は、一人闇の中に取り残され置いてきぼりになって泣きじゃくっていた僕の、
熱にうなされた体を抱きしめ、一言こう囁いた。
「ごめんね」
その声は天使の囁きより優しかった。そこに僕の母がいる・・・
それはとても暖かな夜だった。
自分自身が完璧じゃないから、
いくら子供より二十年間か多く生きていたとしても、
完璧なことを教えられるわけじゃあない。
けれども、何かしてあげなければ彼は育たない。
それに、それを放棄することは出来ない。
社会と個人の関係もね。総合的な、
お互いの人間にある”人間愛”っていうのかな。
そういうものを感じたのかもしれない。
〜1991年/ロッキング オン社・ロッキング オン ジャパンvol.42より〜 |