Proms 2002

2年ぶりで復活した伝統のプロムス 
−「ルール!ブリタニア」に残った不満−


 昨年(2001年)のプロムス・ラストナイトは,直前に起きたニューヨークの同時多発テロ事件の影響で,例年とは全く違うプログラム,演出で行われた。それがいかなる意図に基づいたものであったにせよ,「いつもの」プロムス・ラストナイトを期待している者にとっては失望を禁じ得ない「つまらない」プロムスであったことだけは確かだ。今年は去年のようになってくれるなと祈りつつ観たラストナイトであった…。
 アンドリュー・デイヴィスの後を引き継いだアメリカ人指揮者レナード・スラトキンにとっても,今回のプロムスは仕切り直しの感があったが,結論から先に言えば,概ね一昨年までの伝統的なプログラム編成が復活したといってもよいだろう。休憩の後の第2部では,エルガーの「威風堂々」に始まり,ウッド「イギリスの海の歌による幻想曲」,パリ−/エルガー編「エルサレム」といった定番曲が演奏され,最後はやはりいつもの英国国歌で締められた。スラトキンの演奏は,第2部冒頭の「威風堂々」でとくに感じられたように,テンポが全体的に速めでダイナミックなものであった。「威風堂々」では,演奏終了後に中間部だけもう一度演奏して「希望と栄光の国」の大合唱となったのは観客へのサービスか。「イギリスの海の歌による幻想曲」も「エルサレム」の演奏も悪くなかっただけに,「ルール!ブリタニア」を独立した演目として取り上げず,「イギリスの海の歌による幻想曲」&フォーク・ソング・メドレーの最後で演奏されただけなのは物足りなかった。英国の観客ももっと歌いたかっただろうに!ソリストを立てた独立したプログラムとして聴きたかった。
 定番曲以外のプログラムで注目されたのは,生誕百周年を迎えたウィリアム・ウォルトン(1902-1983)の作品と,世界初演となったコリン・マシューズほか7人の作曲家による合作による「輝かしきセシリア〜パーセルの主題による変奏曲」 。ウォルトンはラスト・ナイトにふさわしい祝祭的な気分の溢れる曲が多かった。でも,陳腐なグリーグのピアノ協奏曲をやるくらいだったら,ウォルトンの作品をもう一曲,たとえば名作のヴィオラ協奏曲を聴きたかった気がする。「パーセルの主題による変奏曲」の作曲家の中には,エルガーの第3交響曲の補完で有名になったアンソニー・ペインも入っている。変奏曲のどの部分を誰が作曲したのかは聴いていてももちろん分からないのだけれども,パーセルの原曲がいいせいか?印象的な変奏曲に仕上がっていた。現代英国の作曲家らが300年あまり前(1683)に英国で初演されたパーセルの名作聖セシリアの日のためのオード「嬉しきかな,すべての愉しみ」に捧げたオマージュであろう。
 第2部のハイライトはアメリカ人のソプラノ,オードラ・マクドナルドが歌うウォルトンと同じく生誕百周年のリチャード・ロジャーズのミュージカル・ナンバーを歌ったもの。陽気なアメリカ人歌手の伸びやかな歌は,ミュージカル・ナンバーにふさわしく楽しいものだった。「イギリスの海の歌による幻想曲」とミックスされて演奏されたグレインジャー編曲のフォークソングのメドレーでは,懐かしいアイルランド民謡「ロンドン・デリーの歌」もあった。「ロンドン・デリーの歌」が演奏されたのは,今年初めて北アイルランドのベルファストで野外ステージが設けられたことに対する配慮だったのではないだろうか。イングランド賛歌の色が濃い「ルール!ブリタニア」が独立に演奏されなかったのも,このことと関係しているのだろうか(考え過ぎか)。いずれにしても,いくつかの点で満足できないところはあったものの,昨年とは違って伝統のプロムス・ラストナイトを楽しめた一夜であった。しかし,今年は同時通訳があまりにも聞き取りにくかった。子どもにも「なに言ってんだか全然分からないよ!」と言われる始末。オリジナルの英語音声を選ぶこともできないし,NHKにはもう少しなんとかしてほしかった。

プロムス・ラストナイト2002プログラム

第1部                             
ウォルトン:「記念祭ファンファーレ」
ウォルトン:戴冠式行進曲「宝玉と王のつえ」 
ウォルトン/サージェント編:「ヘンリー5世」組曲
コリン・マシューズほか7人の作曲家による合作:「輝かしきセシリア〜パーセルの主題による変奏曲」
プッチーニ:歌劇 「西部の娘」から「やがて来る自由の日」 
グリーグ:ピアノ協奏曲 イ短調 作品16                  

第2部                              
エルガー:行進曲「威風堂々」第1番
パリー:「わたしは喜んだ」
リチャード・ロジャーーズ:「シンデレラ」からワルツ,「サウンド・オブ・ミュージック」から「自信をもって」,「パル・ジョーイ」から「魅せられて」,「奥様は天使」から「春が来た」,「コネチカット・ヤンキー」から「この愛をいつまでも」,「回転木馬」から「ひとり行く道」
ウッド:「イギリスの海の歌による幻想曲」&グレインジャー:フォーク・ソング・メドレー
パリ−/エルガー編:「エルサレム」
英国国歌                   


(ソプラノ)オードラ・マクドナルド
(テノール)ホセ・クーラ
(ピアノ)レイフ・オヴェ・アンスネス
(語り)サミュエル・ウェスト
(合唱) BBCシンフォニー・コーラス
(管弦楽) BBC交響楽団
(指揮) レナード・スラトキン