ガーデニング


■「イギリス庭園散策」

赤川 裕 著(岩波アクティブ新書)¥940
 イングリッシュ・ガーデン好きばかりでなく,英国の歴史や文学がお好きな方にとても楽しい本が出た。しかも,装丁は新書版でコンパクトだが,オールカラーで美しい写真がたっぷりあるので眺めるだけでも楽しい。この本の特長は内容の構成にある。第一章「用語・様式名で知るイギリスの庭園」では,古典主義庭園から,風景庭園,自然主義風景庭園へと至るそれぞれの様式の代表的な庭園が紹介・解説される。ここで読者は各時代におけるイングリッシュ・ガーデンの様式を押さえることができる。第二章「歴史から訪ねる」では,中世修道院から現代の庭園まで,英国の各時代を代表する見事な庭園がその歴史と共に紹介される。第三章「人物から訪ねる」では,ヘンリー八世と王妃たち,シェイクスピア,チャーチル,ウィリアム・モリスなど英国史上の有名人にちなんだ庭が紹介される。広大なブレナム・パレスの庭が世界最大級の庭だと聞き,チャーチルはそういうところに住んでいたのかと感心した。最終第四章「物語から訪ねる」こそ,英国のファンタジーや児童文学好きには最もおもしろい章である。「ピーター・ラビット」,「ツバメ号とアマゾン号」,「ピーター・パン」,「ハリー・ポッター」,「トムは真夜中の庭で」,「不思議の国のアリス」,「時の旅人」,「修道士カドフェル」という有名作品ゆかりの庭が紹介されるのだ。 英国ファンタジーの陰にはイングリッシュ・ガーデンあり,そのことを実感させてくれる本である。トールキンの「指輪物語」ゆかりの庭はないのだろうか?と思ってしまった。



■「イギリス庭園めぐり」

桐原春子 著(千早書房)¥1,800
 日本におけるハーブ研究の第一人者として高名であり,著書も数多い桐原春子氏が15年間にわたって訪れてきた英国庭園の数々をオールカラーの写真で紹介したビジュアルな英国庭園ガイドブック。まず著者の訪れたハーブ・ガーデン,ローズ・ガーデン,キッチン・ガーデンなど,庭の種類の多彩さとその数の多さには驚くばかりだ。最近のイングリッシュ・ガーデンブームで,旅行者の行きやすいロンドン周辺などのガーデンを紹介したガイドブックや雑誌等はかなり出ていると思うが,これだけ英国全土の庭をあまねく系統的に紹介した本は他にまずないだろう。とくに終章のスコットランドの庭園の充実した紹介は特筆すべきである。英国の庭園について知り尽くしている著者だけに,文章の方も簡潔にして各庭園の見どころを的確に紹介したものとなっている。各庭園の住所や,和文と英文の索引が付いているので,実際に庭園を訪れたい人には便利だろう。私の愛するバースのアメリカン・ミュージアムのガーデンが丸々1ページ使って紹介されているのを見て思わず嬉しくなってしまった。



■「園芸の手帖」

石倉ヒロユキ 著(講談社)¥1,300
 イラストレーターである著者が3年間にわたって数誌に書いたものをまとめた園芸エッセイ。「園芸天国」(新潮OH!文庫)の書評に書いたように,もともと園芸好きだった著者は,ロンドン郊外の庭付きの家で園芸三昧の生活を送ることにより,さらに新たなガーデニングの情熱に目覚めることとなる。しかし,同じ首都といっても,そこは日本の住環境の貧しさ。ロンドンと違い,東京でガーデニングに打ち込めて,値段もそこそこという庭付きの家があるわけもなく,著者の悶々感はつのる。そして,著者はついに,都心から1時間半の富士山麓の山中湖に,UFOのようにまん丸のヘンテコな家(本書の表紙の著者のイラストを見よ)と運命的な出会いをするのである。それからの,「山の庭」での一家の奮戦記が実におもしろい。このあとは,「街の庭」,「都会の畑」編へと続く。まちなかに住む人にとっては,こちらの方が身近に感じられる内容かもしれない。白黒だが,写真やイラストが豊富でビジュアル。気軽に読める楽しいエッセイである。

 なお,著者の御厚意により,当サイトの「英国本あれこれ」を「英国情報関連HP」の一つとして取り上げていただいた。著者自身のサイトGarden Loversも楽しいガーデニングの話題がいっぱい!


■「園芸天国」

石倉ヒロユキ・真木文絵 著(新潮OH!文庫)¥562
 まことにうらやましい実家の広大なガーデンで花,野菜,果物,ハーブの園芸を楽しんでいる友人から紹介された本。私は知らなかったが,著者の石倉ヒロユキ・真木文絵 夫妻は園芸ファンの間では知られた存在らしい。真木(文)・石倉(絵)の夫婦コンビで福音館から楽しいガーデニング絵本も出している。この二人,趣味の園芸熱が嵩じてガーデニングの本場英国にわざわざ渡り,ロンドンの庭付きの家で英国流ガーデニング三昧の生活を送ったという変わりダネ。本書は,2人の実体験を基にした楽しい英国ガーデニング日記である。英国ガーデン巡りから,ロンドンのガーデナー,英国のジョウロの歴史など,たとえガーデニングが趣味ではなくとも英国が好きな人にとっては興味深い話題がたっぷり。安価な文庫本にはもったいないほどのたくさんの写真(とくに庭の写真がきれい)と著者自身のイラストが文字通り本書に「花」を添えている。余談だが,ジョウロを含め,園芸道具・グッズも日英では大分違うようだ。私たちは英国のホームセンターはよく行ったが(これが所変われば品変わるでまたおもしろいのだ),残念ながら園芸センターの方にはほとんど足を運ばなかった。今考えると,日英の文化を比較する絶好の材料だったのにと惜しまれる。



■「ハーブ大全」

リチャード・メイビー 著/難波恒雄 監(小学館)¥6,602
 ハーブ大国英国で刊行された「The Complete New Herbal」の完訳。種類,料理,美容,健康,育て方など,これ一冊でハーブのほとんどすべてがわかるハンドブック。日本語版の特典として,日本の伝統ハーブとその利用が追加されており,さらに充実した内容となっている。



■「素人園芸家の12ヵ月 イギリス式ガーデニングの愉しみ方」

中尾真理 著(講談社)¥1,600
 著者は奈良在住の人で,本職はオースティンやジョイスを研究している英文学の先生。忙しい大学生活の合間に始めた「素人ガーデニング」が次第に本格的となり,今や園芸家としての視点から英文学の作品を読み解こうと考えているという。本書は4月から始まって3月で終わる,ひと月が1章に相当する半ば実用的,半ばエッセイ的な英国式ガーデニングのあれこれである。読み物として楽しいガーデニング本。


■「イギリス花の庭」

広田セイ子 著/広田尚敬 写真(文化出版局)¥2,200
 花が美しい英国の庭園をカラー写真で紹介すると共に,イングリッシュ・ガーデンの上手な作り方が解説されている。この本を12年かけて作ったという著者のイングリッシュ・ガーデンに対する愛情が伝わる本。
 

■「庭の小道から」

スーザン・ヒル 文/アンジェラ・パレット 絵(西村書店)¥1,800
 ガーデニングが好きな人もそうでもない人も楽しめる美しい絵本。英国の一軒家のような立派な庭がなくても,どんな環境でも,「庭は楽しめる」のだということを著者は教えてくれる。