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第8回 『リファレンスとは』
  [ いい音って何? ]
 「MDの音っていいよね」「このコンポ、いい音するじゃん」なんてよく言いますが、『いい音』ってどんな音なのでしょう? いいっていうことは、悪いっていうものもあるわけですよね。何がその善し悪しを決めるのでしょう?
音の善し悪しにはその基準がいろいろとあって、例えばSN比がいい(雑音が少ない)、ダイナミックレンジが広い(最小音量と最大音量の差が広い)、再生周波数帯域が広い(再生可能な、低音から高音までの幅が広い)などがその一般的な基準となります。ところが、それらの条件がすべて良い方向にあったとしても、一概に『いい音』には聞こえない場合があるのです。
 音楽を聴いていても、心に余裕がある時に聴いた感じと、忙しい時に聴いた感じとは違うと思います。余裕がある時なら、「聴こう!」という気にもなりますが、忙しい時って、音楽が流れていることすら、うっとうしく思えたりしますよね。また、同じ再生装置を使っていても、部屋のつくりや場所によって聞こえ方も変わってきます。このように、『いい音』だと思える条件には、聴く側の心理状態や場所、また後述の、その人の趣味志向などが関わってくるのです。

  [ いい音ときれいな音 ]
 主観的にとらえる『音』には、きれい、きたないという分け方もあります。エレキギターの音はエフェクターやアンプを通して歪ませることが多いのですが、これは純粋に『音』としてみると『きたない音』なのです。しかしこの音は、ロックには不可欠な要素です。つまり、使い方によっては、きたないはずの歪んだ音が必要であり、むしろその音が『きれいな音』として響いてくるのです。
 細かい話をするとややこしくなってしまいますが、とにかく、『きたない音』も『きれいな音』として聴こえることがある、ということですね。
 少し話を変えますが、『声のいい人』『声のきれいな人』『歌のうまい人』は似て非なるものです。例えば、声楽を完璧にマスターして、オペラがバリバリに歌える人は、確かに歌がうまいと言えます。でも、その人がヘビメタを歌ってもうまいとは限りません。また、透き通るようなきれいな声の人が、きれいにヘビメタを歌っても、声がいいとは思わないでしょう。音のいい、わるい、きれい、きたない、という関係も、こう考えると分かっていただけるでしょう。

  [ 自分の趣味を知ること ]
 主観には、その人の趣味志向が大きく関わってくるものです。「マニアック」という言葉がありますが、これは、ある事柄について、他の人よりも深い知識を持っている人のことを言いますよね。でも、そう思われている人は自分のことをそんなに「マニアック」だとは思っていないのです。ここで大切なことは、『なぜ自分がマニアックだと思われているのか』を分析することです。
 言い替えますと、『いい音』だと思う音の、『どこがどうだからいい音』なのかを知ることが必要なのです。そこでもうワンステップ。自分が認める『いい音』が、『基準』とされるものとどれだけ違うのかを分析しましょう。これが一番大切なのです。

  [ リファレンスを知る ]
 そこで『基準』なのですが、自分が『いい音』と思っている音と比較するためには、『基準』になる音が必要ですよね。この『基準』または『標準』になるものを『リファレンス』と呼びます。これが分からないと比較はできません。一般にリファレンスとされるシステムは、条件にあわせていくつかあります。ただし、『リファレンス』だからと言って、それが常に『いい音』であるとは限りません。あくまで『基準』なのですから。
 元来、音とは自然界で発生したものなので、電気的に発せられるCDやMDなどの音楽よりも『本物の音』、つまり『生の楽器の音』を聴き、それを知ることが大切なのです。『生の楽器の音』『本物の音』を知らないと、何が本当にいい音なのか判らなくなります。原音に忠実に再生できるシステムこそがリファレンス、というわけではありませんが、『本物の音』を知った上で、それらを録音し、音を重ねて音楽を作っていかなければ、本当に『いい音』は出せません。音楽を作っていく上で見落とされがちなことなのですが、ここがまた大きな差を産むのです。


『便利な機材たちC』
 今回は『リファレンス』についてお話ししましたが、音楽制作をする上で、データとして保存した音を、実際の音として耳で確認するために、その再生をする道具となる「スピーカー」や「ヘッドホン」が必要です。ということで、今回の『便利な機材たち』では、リファレンスとなっているスピーカーとヘッドホンを紹介しましょう。

 まずスピーカーですが、世界中のスタジオで使用されているY社のNS-10M(通称テンモニ)が有名です。スモールモニターとして使用されています。しかし、発売されてから20数年が経過していることもあって、現在では他のスピーカーをモニターとして使用しているスタジオも多くなってきているのも事実。私もAu社のStudio 1Aというスピーカーと併用しています。ただ、どこのスタジオに行ってもNS-10Mはありますから、行った先にあるNS-10Mを、いつも聴いている感じの音に調整すれば、リファレンスになるのです。ただし、何はともあれスピーカーですから、それを鳴らすアンプとの組み合わせや、スタジオの環境も音に影響するので、スピーカーだけで『リファレンス』を決め付けるのも少し危険かと思います。
 次にヘッドホンですが、レコーディング用のモニターとしてロングセラーを記録しているのはS社のCD-900STです。また、A社やZ社のヘッドホンも昔からよく使われています。
 あえて言いますが、これらがとても性能がよく、すごくいい音がする、と言っているわけではありません。業務用なので、一般のオーディオ製品よりは、耐久性や補修部品の確保などでの信頼性がある、ということで、オーディオ的には、もっと音のいいものが山ほどあります。これらを探すのも耳のいい勉強になるのです。